5人制選手を凌駕する“3x3スクリーン攻防スキル”

冨山コーチが分析する“男子オランダ代表のスクリーンディフェンス”

スクリーンディフェンスのベーシックな考え方

  1. スクリーナーディフェンスは常にスクリーンとバスケットの間にいる
    「オンボールでも、オフボールでも1番やられてはいけないのは『スリップ』であることが分かります。オンボールスクリーンであればジャムしてスクリーンを押し上げ、オフボールスクリーンでもスクリーンにタッチするくらい押し上げることがスタンダードになっています」
  2. ファイトオーバーか、スイッチか、最後の最後まで判断を遅らせている
    「ここが5人制との1番大きな違いかもしれません。スカウティングや自分たちの選手同士によって、カバレージの優先順位はあるものの、彼らはギリギリまでどちらをするにするか”決めない”スキルを持っています。”決めない”スキルは、オフェンスの判断も迷わせることになります。早く判断してしまうと、オフェンスにカウンターをさせる隙を与えてしまうのだと思います」
  3. 誰でもディシジョンメイカー(判断者)になる
    「彼らのディフェンスの面白さは、ユーザーディフェンス、スクリーナーディフェンス、どちらも判断できることです。つまり、例えば”スイッチ”という判断が起きる時、それはユーザーディフェンスが判断するかもしれないし、スクリーナーディフェンス側が判断するかもしれないということです。逆に、”判断された”側は、一瞬でその”判断"に合わせてリアクションする力が求められます」

スクリーンディフェンス:チームとしてスクリーンプレーを守ること
スクリーナーディフェンス:個人としてスクリーナーにマッチアップする選手のこと
ユーザーディフェンス:個人としてスクリーンユーザーにマッチアップする選手のこと
コネクト:ディフェンス(スクリーナー)にくっつくこと
ジャム:スクリーンをコンタクトして、下から押し上げること(スクイーズやプッシュと呼ばれることもある)
タッチ:ハンドオフなどスクリーナーをジャムできない、もしくはジャムするまでもない状況において、スクリーナーを手、または腕の一部で触って、相手の動きを探ること
※ジャムとタッチは、どちらと判断するには微妙なシーンも存在する。映像では、判断がしにくいものをジャム(タッチ)などと表現しているものもある。
オーバー:一般的にファイトオーバーと呼ばれる
コンテイン:スクリーナーディフェンスの方法の一種

オランダのスクリーンディフェンスルール:オンボールディフェンス

PNR ディフェンス = スクリーンジャム → オーバー(コンテイン) or スイッチ

  • スクリーナーディフェンスはジャムする(スリップされないことが最優先)
  • ボールマンディフェンスは最初はオーバーを狙う(スカウティング次第)、スクリーンディフェンスはオーバーの瞬間はジャム(タッチ)をやめ、コンテインかスイッチの準備をする
  • オーバーを狙ってもスクリーンにヒットしそうな場合は、スイッチ(スクリーナーディフェンス、ハンドラーディフェンスどちらも状況判断できる)
  • オーバーした後でも、ハンドラーがターンザコーナー(バスケットに向かいダウンヒルになること)した場合は、自動的にピールスイッチ
  • オーバーかスイッチの判断をギリギリまで遅らせることで、ゴーストスクリーンにも対応する

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映像20_PNR DEF

ハンドオフ ディフェンス = スクリーナー(ボールマン)コネクト → オーバー(コンテイン) or スイッチ

  • スクリーナーディフェンスはコネクト(タッチ)する(ボールマンがスクリーナーのためジャムはできない)
  • ユーザーディフェンスは優先的にオーバーを狙う(スカウティング次第)、ボールマンディフェンスはスイッチかコンテインかを見極める
  • ユーザーディフェンスはオーバーを優先し、スクリーンにヒットしそうな場合はスイッチ(どちらのディフェンスも状況判断できる)
  • オーバーしても、ハンドラーがターンザコーナー(バスケットに向かいダウンヒルになること)した場合は、自動的にピールスイッチ
  • オーバーかスイッチの判断をギリギリまで遅らせることで、ハンドオフフェイクドライブにも高い精度で対応できる

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映像21_ハンドオフDEF

ピールスイッチ時の3人目のヘルプ対応

「3x3はアーク外のシュートが2倍の2ptとなるため、基本的に2on2を2on2で解決し、3人目からのヘルプは基本的にしないことは説明した通りです。しかし、それはあくまでベーシックな考え方で、ほぼ100%決められてしまうほどオープンになってしまったダイブに対しては、”状況判断”によりヘルプに行くことがあります。3人目がヘルプに行くのは『パスが出た場合(オンパス)』と決まっています。つまり、パスが飛んだ場合はヘルプに行き、飛ばない場合は行かないという判断です。飛んだ場合は、ヘルプに行きつつトリプルスイッチし、1点も2点も簡単には打たせないことがベストシナリオでしょう。しかし、パスが飛んだ場合は迷いなくヘルプに飛び出す瞬間は訓練の賜物だと感じます」

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映像22_オンボールスクリーンDEF_マルチプルスクリーン

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映像23_3人目からのヘルプ判断

オランダのスクリーンディフェンスルール:オフボールディフェンス

横のスクリーン(フレア/アウェイ) ディフェンス = スクリーナージャム → オーバー or スイッチ

  • スクリーナーディフェンスはジャム(タッチ)する(バスケットへのスリップを最優先で守る)
  • ユーザーディフェンスは基本的にオーバーを狙う、スクリーナーディフェンスはスイッチかオーバーかを見極める
  • ユーザーディフェンスはオーバーを狙うが、スクリーンにヒットしそうな場合はスイッチ(どちらのディフェンスも状況判断できる)
  • フレアスクリーンでは、オーバーからユーザーがカールしてバスケットに向かった場合はピールスイッチ
  • オーバーかスイッチの判断をギリギリまで遅らせることで、スリップやバックカットにも対応する

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映像24_オフボールスクリーンDEF_横のスクリーン

縦のスクリーン(ダウンスクリーン/バックスクリーン) スクリーナーコネクト → オーバー(チェイス) or スイッチ

▼ダウンスクリーン

  • ダウンスクリーンでは、スクリーナーディフェンスはスクリーナーに下からコンタクトし、スリップにもスイッチにも対応できるポジションでプレーする
  • ユーザーディフェンスは基本的にオーバー(チェイス)を狙う、スクリーナーディフェンスはスイッチかコンテインかを見極め判断する
  • ユーザーディフェンスはオーバーを狙うが、スクリーンにヒットしそうな場合はスイッチ(どちらのディフェンスも状況判断できる)

▼バックスクリーン

  • バックスクリーンでは、スクリーナーディフェンスはスクリーナーにコンタクトするが、ユーザーが使った瞬間はコンパスし、ユーザーディフェンスをサポートする
  • ユーザーはオーバーを狙うが、スクリーンにコンタクトした場合はピールスイッチする(フレアカールと同じ考え方)

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映像25_オフボールスクリーンDEF_縦のスクリーン

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映像26_オフボールスクリーンDEF_マルチプルスクリーン

オランダのスクリーンディフェンスから学べること

  1. フィジカル
    「スクリーンをジャムし続ける、ファイトオーバーするためのフィジカルが必要不可欠になります。スイッチしても自分より大きな相手にポストやリバウンドで戦えるタフさを持っている選手でなければ、大会を勝ち抜くことはできません」
  2. 判断力
    「特にスイッチにおいては極限まで”判断を遅らせる”ことで、一瞬のズレも与えないディフェンスを可能にしています。ほぼ完璧なコネクトからのスイッチにより、ゴーストやスリップにも対応できる能力には驚きしかありません。5人制のコーチが嫌う、いわゆる”レイジーなスイッチ”は1つもないのが面白さです」
  3. フットワーク
    「特にスイッチに関して、ユーザーディフェンスもスクリーナーディフェンスもどちらも判断できるため、2人の間で判断がズレる時がどうしてもあります。しかしその場合でも、1人が瞬時に”判断をキャンセル”できるフットワークを身につけているのが本当に面白いと思います。また、オフェンス側もスイッチを読んでダイブしたり、ポップしたりしますが、どちらにも対応できるビジョンを確保し、どの方向にも飛び出せるフットワークを兼ね備えているというのは、5人制の選手とは全く違う進化の仕方だと感じます。特にオランダのデヨング選手の姿勢やフットワークは、3x3選手ならではだと感じます」

「結局、2on2を2on2で解決するためには、5人制のように『このカバレージで守る』と決めてしまうと難しいわけです。その理由は、どのカバレージにも弱点があって、オフェンスはカウンターとなるアクションを常に狙ってくるからです。男子オランダ代表は、オーバーとスイッチの”判断”を最後の最後までしないので、オフェンスにカウンターアクションする隙を与えないのだと思います。これは鍛え上げられた身体と、数えきれないほどの試合での経験、また同じメンバーでやり続けることで獲得した”阿吽の呼吸”に裏付けられているのではないかと思います。繰り返しになりますが、彼らのスクリーンディフェンスにおけるセンサーは3人目、4人目のヘルプ&ローテーションを前提としてディフェンスをしている5人制の選手のスキルを、遥かに凌駕していると考えています」

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映像27_スクリーンDEF_キャンセルスキル

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映像28_スクリーンDEF_様々なフットワークが求められる