パリ2024オリンピックを振り返る

大会総括

パリ2024オリンピックの戦いにおける3つのキーワード

  1. 個の“勝負強さ”
  2. チームの“一体感”
  3. スクリーン攻防の“駆け引き”

個の“勝負強さ”について

3x3でも5人制同様に、FG%やPPPまたはS-EFFなど一般的なスタッツの数値は、重要な勝敗因として考えられる。ただし、3x3の短い試合時間であることや大会自体も短期決戦となることを踏まえ、大一番で1本のシュートを決め切れるか、もしくは守り切れるかという“勝負強さ”が世界レベルでは特に重要となっている。3x3の世界レベルでメダルを獲得していくためには、スタッツの統計上で良いシューターであることはもちろん必須であるので、そのようなスキル習得(ペイント内のフィニッシュスキルやプルアップ2Pシュートスキルなど)が望まれる。それに加えて、3x3では試合を制するここ一番のラストショットを決め切れる、もしくは守り切れる“勝負強さ”を兼ね備えた選手の発掘・育成・強化およびそれを解き明かす研究が必要となる。

個の“勝負強さ”と今大会の結果について

今大会は全勝したチームは男女16チーム中ひとつもなく、これはオリンピック2大会連続の結果となった。男女ともに、「絶対本命のチームは不在」であったと言える。つまり、「どのチームにもチャンス」があったことも意味している。尚、オリンピック予選における日本の主な戦いを下記に示す。

  • 男子日本代表はオリンピック出場のポーランドに僅か1点差の惜敗
  • 女子日本代表は金メダルを獲得したドイツに1勝1敗(負けた試合もオーバータイムの末)

男女日本代表は残念ながら今大会の出場を逃す結果となったが、上記に示した通りに「日本にもチャンス」があったことを強調したい。しかしながら、本レポートの「3x3男女日本代表強化の軌跡」においても報告している通り、そのチャンスを生かし切れなかったのは厳然たる事実でもある。

3x3の短期決戦では接戦が多くなり、そういった意味でも勝利のチャンスは常にある。ちなみに、前大会と今大会における2点差以内の接戦となった試合の割合を比較してみると、東京2020オリンピックの27%に対して、パリ2024オリンピックは38%が接戦となっており、その割合が増えている。勝利のためには相手より多く得点し、相手より少ない失点に抑える必要があり、それをつかむために個人スキルを磨き、チームプレーの精度を高めていく必要があるのは5人制と同じである。ただし、3x3の特性である短期決戦を踏まえると、例えば、1試合を通したシュート率を上げるのと同時に、ここぞという場面の1本のショットを決め切れる“勝負強さ”を備えたシュート力の獲得が必要である。逆に、それを守り切れる“勝負強さ”も同様である。3x3では幾度となくおとずれる接戦やオーバータイムを制して勝利をつかみ取る“勝負強さ”は、追究されていくべきである。その先に、男女日本代表がメダルを獲得する瞬間が訪れると信じたい。

チームの“一体感”について

今大会において、金メダルを獲得した男女各チームは「決勝トーナメントに向けてピークパフォーマンス」を高めていき、オリンピックでは予選プールの敗戦も含めて「トライ&エラーからの修正を行いチームの“一体感”」が高められていることが読み取れる。ただし、大会期間中におけるチームパフォーマンスの向上は、当然ながら大会前の準備が大前提となる。特に、オリンピックという各国代表チームによる世界最高峰大会に出場を果たしてメダルを獲得していくためには、そのレベルの国際大会をより多く経験しながら、その中で「トライ&エラーからの修正を行いチームの“一体感”」を高めていくべきである。3x3は試合中にコーチが不在となり、選手たちだけで戦局を有利に進め勝ち抜く必要がある。チームの“一体感”の土台は、中長期の強化戦略の視点で語られる必要がある。

チームの“一体感”と競技年数について

例えば、若手中心の男子フランスが大躍進を遂げた背景には、競技年数が関わっているように思われる。今大会に出場した全チームにおける1人当たりの平均競技年数は男子が7.4年、女子が6.4年であった。その競技年数において、各チームのメンバーは何度ともなくトップレベルの国際大会を経験しながら、チームの“一体感”となる土台が創られていることがうかがえる。

チームの“一体感”と若手の台頭について

今大会は前大会に比べて、ベテラン選手に加えて若手選手の台頭が目立った。例えば、FIBA 3x3 U23ネーションズリーグ(19~23歳対象の代表戦、以下U23NL)に出場したことのある選手を、今大会で代表入りさせたケースが多かった。以下がそのデータである。

  • U23NLに出場していた選手を今大会で代表入りさせたチーム数:男女全16チーム中10チーム
  • U23NLに出場し、今大会に出場した選手数:男女全64人中15人
  • その15人のうちメダルを獲得した選手:男女合わせて9人→そのうちの3人が金メダル獲得

つまり、U23NLに出場していた若手選手と、これまで活躍してきたベテラン選手を融合させたチームが好成績を残していることをうかがい知れる。

例)男子:オランダのドリーセン(金メダル)、フランスは4人全員(銀メダル)
例)女子:ドイツのメビウスとライヘルト(金メダル)、スペインのカメリオン(銀メダル)、アメリカのリス(銅メダル)

チームの“一体感”とトップレベルの国際大会出場について

前大会から今大会までの期間において、各国ともトップレベルの国際大会への出場回数が増えてきている。例えば、今大会に出場した全チームにおいて、トップレベルの国際大会における一人当たりの平均出場回数は男子が26.8回、女子が14.6回であった。これら全ての大会に同じメンバー4人で出場した訳ではないが、トップレベルの国際大会において多くのトライ&エラーを繰り返しながら経験値を積み重ねて準備していくための目安にはなるであろう。

また、各国の中長期の強化戦略において、近年はベテラン選手だけでなく若手選手もトップレベルの国際大会に出場する傾向が年々高まってきている。U23NLに出場し、今大会でメダルを獲得した9人の若手選手はいずれもトップレベルの国際大会を多く経験してきている。メダルを獲得しなかった若手選手についても同様であり、トップレベルの国際大会に転戦させていく環境を整えることは、中長期の強化戦略において今後さらに加速していくものと思われる。

スクリーン攻防の“駆け引き”とFIBA 3x3の大会レポートからの考察(参考:FIBA 3x3パリ大会レポート)

3x3において、スクリーン攻防の“駆け引き”の習得こそが世界トップレベルの試合を制するためにも必須である。ただし、その習得にはここまで述べてきた個の“勝負強さ”とチームの“一体感”が両輪となってこそ最大限に生かされるという大前提があることは、今大会の戦いからも見えてくる。

FIBA 3x3の最高責任者であるアレックス・サンチェス氏は、「3x3が世界中に広まり、すべての選手にとって魅力的な選択肢となることを使命としている」と述べる。その中で「3x3はルール設計の段階から、平均身長が低い地域や国、そして低身長の選手でも活躍できるように身体的なサイズやフィジカルよりもバスケスキルが重視される競技を目指してきた」ことを常々強調している。例えば、高身長の選手が有利と考えられているゴール近辺のシュート成功は1点であり、そのゴール近辺に比べて身長差のハンデが軽減されるアーク外側のシュート成功が2倍の期待値となる2点とされているのもそういった理由の一つである。スキルが単なる技術やシステムといった要素だけではなく、“戦術的な理解や状況判断を伴う総合的な能力”とするのならば、3x3のスクリーン攻防における“駆け引き”もまたそれらの能力に起因されるスキルである。要するに、相手との対峙におけるスクリーン攻防の“駆け引き”も、アレックス氏が強調する「身体的なサイズやフィジカルのハンデを補うためのスキル」である。

FIBA 3x3によって報告された今大会のレポートを見渡してみると、男女すべての選手に関して調査した結果、その身長差と1試合当たりの選手の貢献度(P-VLPG)との間に相関関係がなかったと報告されている(ただし、高身長の上位25%と低身長の25%の選手は含まない)。


Height* of players Av height players Height* of teams
Men 194.0-200.0 197.7 196.8-198.1
Women 178.8-188.5 182.6 179.4-185.6

* 1st to 3rd quartile

例) 男子では最も平均身長の低いオランダが金メダルを獲得
例) 女子では2番目に平均身長の低いスペインが銀メダルを獲得
例) 男子MVPのオランダ#54 デヨング選手は最も身長が低く、P-VLPGが最も高かった
例) 男子と女子の平均身長では、男子選手の方が平均にばらつきが少なかった(±平均6.0㎝)

つまり、この結果はパリ2024オリンピックというトップレベルの戦いにおいてでも、身長差という身体的なサイズやフィジカルのハンデを克服し、十分に貢献度を高めて試合で活躍できることを示している。そこで示された貢献度とはシューティング効率、得点、アシストパス、ドライブなど(※)によって集計されるのだが、それらの攻防局面をより有利にするための手段の一つとして、試合の中でスクリーンプレーが用いられる。そのスクリーンの攻防で仕掛けられる“駆け引き”の精度を高めていくことは、身長差という身体的なサイズやフィジカルのハンデを補う重要なスキルである。そのスキルとは繰り返しになるが、単なる自己満足として技術やテクニックを見せびらかすことやシステム通りに遂行すれば良いわけではなく、“戦術的な理解や状況判断を伴う総合的な能力”として高められた相手との“駆け引き”においてその精度が最大限にまで高める必要がある。このようにアレックス氏の示唆を踏まえるならば、そのような高度な“駆け引きの追究こそが今後も世界を制していくために最重要である。

※1試合当たりの選手の貢献度(P-VLPG) = (S-EFF * PTS) + KAS + DRV + DNK + BS + BZR + (REB/2) - TO

男子_平均身長ランキング


チーム 最終順位 平均身長(cm)
1 セルビア 5 199.3
2 中国 8 198.3
3 ポーランド 6 198.0
4 フランス 2 197.8
5 ラトビア 4 197.5
6 リトアニア 3 197.0
7 オランダ 1 196.3
8 アメリカ 7 195.8
平均 197.5

日本(UOQT2)193.8cm
日本(OQT2)189.5cm

女子_ 平均身長ランキング


チーム 最終順位 平均身長(cm)
1 中国 6 186.8
2 アメリカ 3 186.0
3 カナダ 4 185.5
4 ドイツ 1 184.3
5 アゼルバイジャン 7 184.0
6 スペイン 2 179.5
7 オーストラリア 5 179.0
8 フランス 8 176.0
平均 182.6

日本(UOQT2)172.0cm
日本(OQT2)174.3cm

※この表のデータは、FIBA3x3の大会レポートで除かれた高身長の上位25%と低身長の25%の選手が“含まれる”