パリ2024オリンピックにおける「技術・戦術」の潮流

オフェンス

1.トランジションオフェンス

パリ2024オリンピックにおいて、全チームの攻撃回数に対するトランジションオフェンス回数の割合は男子が47.5%、女子が56.7%であった。オフェンスのおよそ半分がトランジションオフェンスで占められており、トランジションオフェンスの攻防はゲームで勝利を収めるための重要な局面の一つである。

ボールクリア前

この局面ではシュートが認められていないため、パスアウトやドリブルアウトおよびそれらに関係するスクリーンプレーによってアーク外側へボールクリアすることが目的となる。その際、下記3点が考慮される。

  1. ボールの所有を失わずにボールクリアする
  2. いち早くボールクリアする(時間を失わない)
  3. ボールクリア後の瞬間にオフェンスに有利な攻撃態勢をとり、シュートチャンスをクリエイトする

ボールクリア後

この局面ではシュート試投によって得点をあげることが目的となる。3x3ではショットクロックが12秒であり、「ボールクリア前」の局面で費やした時間を差し引くと残りのショットクロックはそう多くないかもしれない。パリ2024オリンピックでは、「ボールクリア後」の瞬間にクイックヒット、もしくは「ボールクリア前」の局面からの流れで有利な攻撃態勢を生かしつつ自由度の高い攻撃が多く展開されていた。 また、5人制のようにコールプレーを使用することは稀であるが、改めて有利な攻撃態勢を整えたり、あえて時間を消費したりする状況では残りショットクロックの範囲でセットアップされることも見受けられた。尚、3x3におけるトランジションオフェンスを5人制と比較した場合は下記3点のようなイメージで表される。

  1. クイックヒット(ファーストブレイク)
  2. クイックヒット~セットアップの中間(アーリーオフェンス)
  3. セットアップ (セットオフェンス)

※( )内は5人制の場合のイメージ

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映像38_ドリブルアウトスキル

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映像39_ドリブルアウト戦術

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映像40_ボールクリアの瞬間を狙うオフボールスクリーン

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映像41_パスアウト_素早いパスで作るクローズアウト

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映像42_パスアウト_クイックパス_インサイドシール

男子_失点後のトランジションオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 ポーランド 6 0.62
2 オランダ 1 0.60
3 フランス 2 0.59
4 ラトビア 4 0.56
5 アメリカ 7 0.54
6 セルビア 5 0.53
7 中国 8 0.50
8 リトアニア 3 0.49
平均 0.55

女子_失点後のトランジションオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 アゼルバイジャン 7 0.56
2 オーストラリア 5 0.47
3 ドイツ 1 0.45
4 スペイン 2 0.43
5 アメリカ 3 0.39
6 カナダ 4 0.38
7 中国 6 0.37
8 フランス 8 0.34
平均 0.42

男子_DRB獲得後のトランジションオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 アメリカ 7 0.72
2 リトアニア 3 0.68
3 ラトビア 4 0.54
4 ポーランド 6 0.53
5 中国 8 0.51
5 セルビア 5 0.51
7 オランダ 1 0.43
8 フランス 2 0.42
平均 0.54

女子_ DRB獲得後のトランジションオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 カナダ 4 0.602
2 アメリカ 3 0.48
3 ドイツ 1 0.45
4 中国 6 0.4494
5 アゼルバイジャン 7 0.4492
6 オーストラリア 5 0.4473
7 スペイン 2 0.4264
8 フランス 8 0.4262
平均 0.46

男子_TO獲得後のトランジションオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 アメリカ 7 0.88
2 リトアニア 3 0.85
3 セルビア 5 0.80
4 ラトビア 4 0.67
5 中国 8 0.62
6 フランス 2 0.57
7 オランダ 1 0.50
8 ポーランド 6 0.44
平均 0.67

女子_TO獲得後のトランジションオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 オーストラリア 5 0.68
2 アゼルバイジャン 7 0.66
3 アメリカ 3 0.63
4 中国 6 0.62
5 ドイツ 1 0.61
6 カナダ 4 0.48
7 スペイン 2 0.43
8 フランス 8 0.31
平均 0.55

フリースロー後のトランジションオフェンス

相手にフリースローを与えた場合は、その後のシュート成功(失点)もしくはシュート失敗によるディフェンスリバウンドの獲得によってトランジションオフェンスとなる。フリースローの場合はシューターとリバウンダーの位置がおおよそ決まっていることから、近年、フリースロー後にコールプレーを導入しているチームが増えている。そこで、パリ2024オリンピックに出場したチームが使用していた主なフリースロー後のコールプレーを紹介する。3x3と5人制に限らず、ローポストアクションとしても代用できるセットオフェンスもあるので今後の参考としていただきたい。

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映像43_FTセット_"ベルジウム"

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映像44_FTセット_ハンマー

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映像45_FTセット_ダブルドラッグスクリーン

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映像46_FTセット_スペインピック

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映像47_FTセット_ピストルアクション

2.チェックボールオフェンス

チェックボールオフェンスは、ボールがデッドの状態で試合が開始または再開される場面であるので、チームで決めれたコールプレーを使用することが多い。試合の状況を踏まえて、オフェンス側がどのようなプレーをアレンジするのか先に準備できる場面となり、それぞれ特徴のあるコールプレーも見受けられる。そこで、パリ2024オリンピックに出場したチームが使用していたチェックボールオフェンスにおける特徴的なコールプレーを紹介する。尚、プレーの局面毎でアジャストしていく3x3にあって、チームで決めれたコールプレーでも相手との対峙状況に応じた駆け引きによって様々なオプションへと派生していることは改めて銘記しておきたい。 

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映像48_ライン_ステップアップゴースト → フレア

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映像49_ホーンズ_リバースDHOマイアミ

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映像50_フラットトライアングル_DHOワイパーフレア

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映像51_ホーンズ_PNRフレア → DHO

男子_チェックボールオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 オランダ 1 0.68
2 セルビア 5 0.65
3 フランス 2 0.61
4 ポーランド 6 0.57
5 リトアニア 3 0.53
6 中国 8 0.43
7 ラトビア 4 0.42
8 アメリカ 7 0.38
平均 0.53

女子_チェックボールオフェンスPPPランキング


チーム 最終順位 PPP
1 ドイツ 1 0.57
2 アメリカ 3 0.52
3 スペイン 2 0.47
4 フランス 8 0.43
5 カナダ 4 0.42
6 オーストラリア 5 0.39
7 中国 6 0.39
8 アゼルバイジャン 7 0.35
平均 0.44

3.個の力で打開するための「シューティングスキル」

「シューターでなくても、2Pシュートを打つ状況が勝手に来るんです」と中田選手は自身のプレーを振り返りながら、「3x3では2Pシュートの成否が勝敗を分ける重要な要因にも関わらず、2Pシュートを打つ状況に迫られる」と言及する。5人制と比べてシュートクロックが12秒と短いため、3x3では良いシュートチャンスを作るために何度もプレーを探す時間がない。そのため、個の力でシュートを打ち切り、成功させる責任が必然と生じるのだ。とは言うものの、3x3における2Pシュートは非常に高い期待値になっているため、当然、ディフェンスは激しくプレッシャーをかけて妨害してくる。そこで、パリ2024オリンピックの選手たちがどのような個人スキルでディフェンスをかわして2Pシュートを成功させていたのか、そのシューティングスキルを紹介する。また、3x3の特性でもあるボールクリア時に遂行される2Pシュートや、広いスペースを使って2Pシュートにこだわるスキルも合わせて紹介する。

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映像52_シュートスキル:フィニシュスキル

4.様々な駆け引きが仕掛けられた「連続するスクリーンプレー」

3x3ではボールサイドでの2メンゲームのシチュエーションが多くなることを踏まえて、江村選手は「システムやセットプレーに依存しすぎず、フリーランスやプレーが崩れた展開の中でも相手に打ち勝つためには、その場の状況に応じたアジャストの能力が必要になります」と3x3の戦い方をそう説明する。3x3の正規の試合時間は10分間と5人制に比べて短いため、相手に対応されている同じプレーシステムで戦い続けるべきでない。そのため3x3ではプレーの一瞬一瞬で状況を判断しアジャストしながら、相手が予測困難となるよう対峙していくことが求められる。また、12秒のショットクロックの中で、ディフェンスのエラーを誘って良いシュートセレクションを生み出すために、ユーザーおよびスクリーナーは局面毎の状況に応じた様々な駆け引きを仕掛けている。そこで、パリ2024オリンピックの選手たちがディフェンスのエラーを誘うために仕掛けた連続するスクリーンプレーの駆け引きの一例を紹介する。

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映像53_スクリーンOFF駆け引き