パリ2024オリンピックにおける「技術・戦術」の潮流

ディフェンス

1.トランジションディフェンス

先述の通り、パリ2024オリンピックにおけるトランジションオフェンスは全ポゼッションの約半数を占めているということは、トランジションディフェンスも全ポゼッションの約半数を占めている。よって、トランジションディフェンスもゲームで勝利を収めるための重要な局面の一つである。

ボールクリア前

この局面ではシュートが認められていないので、ディフェンスをしないことも選択肢としては考えられる。しかし、パリ2024オリンピックをはじめトップレベルの国際大会では、「ボールクリア前」のトランジションディフェンスがより激しさを増している。なぜなら、「ボールクリア前」で有利な守備態勢をとることが、「ボールクリア後」のトランジションディフェンスに大きなアドバンテージとなるからである。そのようなトップレベルの攻防では、パスアウトやドリブルアウトおよびそれらに関係するスクリーンプレーに対するディフェンスを通して、アーク外側へのボールクリアを阻止していくことが目的となる。その際、下記3点が考慮される。

  1. 相手のボールの所有を奪う
  2. シュートクロック12秒の時間を削る
  3. ボールクリア後の瞬間からディフェンスに有利な守備態勢をとり相手のシュートチャンスをクリエイトさせない

トランジションの攻防ではボールの所有が変わるや否や失点の可能性が生じるため、メンバー間でのミスコミュニケーションを避けて瞬間的で確実なピックアップが原則となる。また、TOの瞬間は味方がアーク外側にいることも多いので最もディフェンスが弱い体制となる。その際には特にインサイドを素早く守りイージースコアを与えないことが重要になる。

また、特にチームファウルが7回未満の場合は、ドリブルアウトに対してファウル覚悟のハードコンタクトやジャンプ&スイッチを通してディフェンスが遂行されている。パスアウトに対してはハードディナイやその後のプレーを見据えたポジション争いを通して、「ボールクリア前」の段階で「ボールクリア後」のディフェンスを少しでも有利にしてことが世界のスタンダードとなっている。

ボールクリア後

「ボールクリア前」ではボールがアーク外側の方向へ運ばれるが、「ボールクリア後」ではオフェンスが反転して攻めてくることになるので、ディフェンスもその反転に瞬間的に対応しなければ簡単にゴールラインを奪われてしまう。また、クイックヒットさせないようにピックアップした後に簡単にカウンターのイージーレイアップを与えないことは当然のこととなる。

トップレベルの選手たちでも長い時間をかけられたら守り抜くのが至難の業となるインサイドのミスマッチに対しては、特に「ボールクリア前」から連動した「ボールクリア後」のトランジションディフェンスの中で、パッサーに対するボールマンプレッシャーとインサイドのビッグマンに対するポジション争いがそれぞれの責任において遂行されていたことがうかがえる。

※ドリブルアウトおよびパスアウトに関係するスクリーンの攻防については「チェックボールディフェンス」および「トランジションディフェンス」に共通する内容にて「個人の責任が強調される『スクリーンプレー』」の項目で追って扱うことする。

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映像54_トランジションDEF①_ボールクリア前_マッチアップ

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映像55_トランジションDEF②_ボールクリア前_ボールマンプレッシャー&スイッチ

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映像56_トランジションDEF③_ボールクリア前_ドリブルをさせる:インサイドDEF

2.マッチアップの仕方やカバレージの考え方

「ヘルプディフェンスは当てにできない。ボールサイドで完結しないといけない。」と小澤選手は3x3のディフェンスについて説明する。3x3のコート上では3人同士の攻防となるため、例えば、ディフェンスにおいて3x3は5人制に比べて1人当たりで守るエリアは広くなると言えよう。これは味方の守備が破られそれをヘルプサイドからのローテーションで守ろうとした場合、ワイドオープンの2Pシュートを相手に与える可能性が高いことを意味する。そのため、「ヘルプディフェンスを当てにできない分、例えば、2on2の攻防ではボールサイドで完結させる必要があり、その際の一つ一つのプレーの精度や的確な状況判断、一人一人の責任が求められる。」と小澤選手は指摘する。

3x3のディフェンスでは期待値の高い2Pシュートを簡単に打たせることは勝敗に対して大きなディスアドバンテージを負うことになる。今回のパリ2024オリンピックをはじめトップレベルの国際大会では、ディフェンスにおいてヘルプディフェンスを優先させるポジショニングよりも自分のマークマンに対するマッチアップを優先させるケースが多く見られる(但し、2Pシュートの期待値が低い選手を離してヘルプディフェンスのポジショニングをとったり、1点を与えたらKO負けになるケースでヘルプディフェンスを仕掛けたりする状況も当然ながら駆け引きの中で生じる)。特に、5人制におけるヘルプサイドのポジションニングの感覚で3x3のディフェンスをしてしまうとオーバーヘルプとなることもあるので注意が必要である。

いずれにせよ、3x3におけるディフェンスのマッチアップは、①期待値の高い2Pシュートを打たせないタイトなディフェンス、②自分のマークマンは自分で守り切ることが原則であり、③ヘルプディフェンスが必要な場面における状況判断(2Pシューターのディフェンス優先 or ヘルプディフェンス優先、ヘルプディフェンス優先の場合どうローテーションするかなど)は予めメンバー間での共通理解が必要である。

そこで、パリ2024オリンピックにおける各チームが、どのようなディフェンスを行っていたのか、その主なマッチアップの仕方やヘルプディンフェンスの仕方を紹介する。

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映像57_クリア後のDEF①_2Pを守る

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映像58_クリア後のDEF②_2P_オーバーヘルプ:アーク内でのスイッチ

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映像59_クリア後のDEF③_PNR_3人目のオンパスヘルプ

3.個人の責任が強調される「スクリーンプレー」

3x3においてヘルプディフェンスによって生じるディスアドバンテージについては先述した通りであるが、スクリーンプレーにおいてもそれは同様である。よって、パリ2024オリンピックでは、スクリーンプレーを守る際にも、ファイトオーバーを狙うにしろスイッチを狙うにしろ、または、ユーザーおよびスクリーナーのいずれの場合でも1on1のタイトなディフェンスの状態を保ち続けることが強調されていた。しかし、それで全てを守り切れれば造作もない。オフェンス側もスクリーンプレーの攻防では様々な駆け引きを仕掛けてくるのであって、ディフェンス側はそれに対応しなければイージースコアを許してしまう。

3x3のスクリーンプレーに対するディフェンスではヘルプサイドからのディフェンスを極力必要とせずに完結することが求められる。逆に言えば、3x3ではユーザーおよびスクリーナーのディフェンスが個々人の責任を果たせない場合、そのディフェンスには5人制では考えられないくらいの大きな穴がぽっかり空いてしまったかのようなイージープレーを相手に与えてしまうことになる。3x3では個々人の責任を果たさずに最初から味方のヘルプディンフェンスを当てにしてしまい大きな穴が空いてしまっている瞬間をよく目にすることがある。

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映像60_スクリーンDEFの駆け引き_クリア後のDEF_vsベルジウム

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映像61_スクリーンDEFの駆け引き_クリア後のDEF_ピンダウン_アジャストメント