パリ2024オリンピックにおける「技術・戦術」の潮流

オーバータイム

オーバータイムの攻防

3x3では規定の試合時間10分を経過して両チームが同点の場合、オーバータイムが行われ「2点を先取したチームが勝利」となる(※21点を取ってもKO勝利にはならない場合がある)。尚、規定の試合時間終了からオーバータイムまでに両チームに与えられる「インターバルは1分間」である。また、オーバータイム開始時のポゼッションについては、試合開始前のコインフリップで決まる。先行を選択した場合、オーバータイム時は後攻になり、逆もまた然りである。規定の試合時間で未申請となったタイムアウト(※オーバータイムで新たにタイムアウトは与えられない)とチームファウル数はオーバータイムに持ち越される。以上を踏まえ、オーバータイムに臨むにあたってインタバールの1分間では次の点は把握しておきたい。

  1. オーバータイム開始時のポゼッションは「オフェンスかディフェンスか」の把握
  2. 持ち越された「チームファウル数」(FT2本を与えないチームファウル数が残っているか否か)の把握
  3. 未申請の「タイムアウトが残っているか否か」の把握

解説:男子決勝/オランダ vs フランスにおけるオーバータイムの攻防

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映像68_オーバータイム_男子決勝_フランスvsオランダ

男子決勝はチームを牽引する絶対的エースの#54 デヨング選手を擁するオランダと、地元の大声援を受けて試合毎に勢いを増してきた若手中心のフランスとの対戦。試合は序盤から一進一退の攻防で、両者ともにプライドがぶつかり合う展開が続いていく。しかし、オランダはフランスのインサイドアタックなどに対してファウルを徐々に累積させてしまう。試合終盤、オランダは立て続けに7~9回目のチームファウルを犯してしまい、フリースローをフランスに与えてしまう。残り38秒、フランスに2点リードを許してしまう(FRA16-14NED)。窮地に追い込まれたかにみえたオランダであったが、#54 デヨング選手の強烈なドライブで連続得点、さらに堅守を貫いて規定の試合時間10分を経過して16-16の同点へと持ち込み、オーバータイムへ突入した。

インターバルの1分間、両チームはオーバータイムの戦いについて確認し合う。最初のオフェンス権はオランダ。2Pシュートを決めたチームがその瞬間に勝利となるため、そのポゼッションを持つ先攻のチームは大きなアドバンテージを得ることになる。また、チームファウルはフランス7回に対してオランダ9回、残っているタイムアウトはフランスが1回、オランダが0回。フランスはディフェンスファウルを犯せばフリースロー2本を、オランダはフリースロー2本(+ポゼッション)を与えてしまうリスクを抱えており、2点先取のオーバータイムにおいて両者ともに激しくディフェンスプレッシャーをかけつつもディフェンスファウルを犯さないような注意が必要な状況である。ただ当然ながら、ディフェンスから始まるフランスは大きなディスアドバンテージを抱えていた。

先攻のオランダは、規定の試合時間10分間の戦いでフランスにインサイドを押し込まれており、オーバータイムでもファウルを犯してしまうリスクを考えると、インサイドのディフェンスを強いられるような不利な状況は極力避けたい。オランダは出来れば#54 デヨング選手のドライブを起点とし、それを見せつつも2Pシュートを沈めて一気に勝負をつけたいところである。もちろん、ディフェンスで始まるフランスは2Pシュートを簡単に打たす訳にいかない。フランスもそれまでの10分間で抑え切れなかったオランダ#54 デヨング選手のドライブに警戒は必要である。とにかくフランスは再開後のディフェンスでオランダの攻撃を止めてボールを奪えば、反転して有利な状況を作れる。男子決勝のオーバータイムは、最初の攻防に注目が集まる。

オランダのチェックボールから試合再開。まず、オランダの選択は#54 デヨング選手にスクリーンを連続でかけ、2Pシュートを狙った。そのシュートが成功すれば決勝点となるが、フランスはマッチアップを引き離されながらもチェイスでついていき可能な限りのプレッシャーを与えたことで、オランダのシュートは外れる。フランスはそのDRBを押さえるが、その時に#54 デヨング選手はリバウンド争いに絡もうとしていたことが災いし、マッチアップすべきフランスの2Pシューターの#3 ヴェルジアを不運にもアーク外側でワイドオープンでフリーにしてしまう。2Pラインで両手を挙げてパスを要求する#3 ヴェルジア。当然、フランスは一気に勝負をつけようと素早くパスアウトし、2Pシュートを打たせようと試みる。しかし、ここで圧倒的に不利な体勢にあったオランダの#54 デヨング選手がそのパスコースに体を入れたことにより、フランスはパスのアングルを変えるために一瞬の時間をかけて対応せざるを得なくなった。それでもフランスの#3 ヴェルジアに対して完璧にディスアドバンテージを負っているオランダの#54 デヨング選手であったが、その一瞬の間に反転して鋭くクローズアウトに入る。これにはクイックヒッターの#3 ヴェルジアも、流石に2Pシュートを打つことを選択せずにカウンターからのドライブ、そしてイージーレイアップで確実に1点を先制する(FRA17-16NED)。ただし、その時の#54 デヨング選手にとっては、フランスに1点を差し出すぐらい意に介さないように見えた。なぜならば、オランダは今大会において幾度ともなく彼のブザービーターで勝利を掴んできたからだ。つまり、2Pシュートさえ打たせずに次のポゼッションが回ってくれば、オランダには十分な勝機があると見込んだ上での攻防の駆け引きだったと思われる。

ポゼッションが交代され、オランダのオフェンス。地元フランスのファンで会場が沸き上がる中、オランダは言うまでもなくエース#54 デヨング選手にボールを託す。対するフランスは直前にイージーレイアップを選択し、先制点を挙げた#3 ヴェルジアがマッチアップ。ショットクロック残り8秒、#3 ヴェルジアは1点を奪われても2Pシュートさえ沈められなければ即時負けとはならない。オランダの#54 デヨング選手に対してゼロアームの間合いに入り、激しく執拗なプレッシャーをかけ続ける。#54 デヨング選手の伝家の宝刀であるドライブなど一切度外視して2Pシュートの守りに徹する。両者はコート中央のトップの位置で一歩も引かない攻防を繰り広げ、時間だけが流れていく。残り4秒、#44 スラフターがデヨング選手の左側にスクリーンをかけようとした瞬間、右サイドにスペースが生じる。残り3秒、#54 デヨング選手がついに動き出す。その右サイドのスペースへドライブを仕掛けるがゴールに向かってではなく、2Pラインに沿ってトップからウィングに向かって行った。残り2秒、ステップバックからシュートモーションに入る。同時に、依然としてタイトにディフェンスしている#3 ヴェルジアは、グッドディフェンスと言って良いほど絶妙なシュートチェックに入る。残り1秒、ステップバックからの一連のモーションで、フェイドアウェイ気味に放たれた#54 デヨング選手の2Pシュートがリングへ向かって放物線を描いていく。それは完全なタフショットであり、#3 ヴェルジアのディフェンスは最善を尽くしたと言える。ショットクロックが0秒となりブザーが鳴り響くと同時に、#54 デヨング選手が放った2Pシュートはゴールへ吸い込まれていった。

オランダは劇的なブザービーターにより、金メダルを獲得した。オランダの#54 デヨング選手がタフショットを決め切ったこともさることながら、惜敗したフランスも最善の攻防を見せてくれた。このオーバータイムは、まさに両者が互いにしのぎを削る3x3の激しくエキサイティングなシーンを象徴しており、オリンピック決勝戦という世界最高峰の舞台に相応しい戦いとなった。