パリ2024オリンピックにおける「技術・戦術」の潮流

ゲームクロージング

ゲームクロージングの考え方

3x3では試合時間が短いため、クロスゲームとなり接戦になることが多い。よって、ゲームクロージングにおける戦い方を理解しておく重要性は高い。尚、パリ2024オリンピックにおいてシュート1本の成否によって勝敗を分けた試合、言い換えるならば2点差以内の接戦で勝負がついた試合は全68試合のうち約半数の33試合(男子13試合、女子20試合)であった。そういった激しさが増す試合の最終盤において、リードを保ちより確実な勝利を収めるのか、もしくはビハインドから逆転の可能性を広げられるのかは、その状況に応じた戦い方次第である。そのゲームクロージングの戦い方を理解する上で、まず下記3点の3x3ルールを押さえておきたい。

  1. ショットクロックが12秒
  2. 主な得点手段が1Pシュートと2Pシュートおよび7回目以降のチームファウルによるフリースロー2本
  3. 試合時間に関係なく21得点以上でKO勝利となること

次に実際のゲームクロージングの場面において、最低でも確認されるべき情報は下記の3点である。

  1. 推測される残りのポゼッション回数(攻撃回数と防御回数の合計)
    「残りのポゼッション回数=残り試合時間÷ショットクロック12秒+αのポゼッション回数」で算出。
    ※+αのポゼッション回数は、ショットクロックの余り時間やターンオーバーまたはORB獲得などによって変動
  2. 点差
    点差と残りのポゼッション回数から、何点を狙ったオフェンスを遂行するのか、もしくは相手に何点を与えないディフェンスを遂行するのかを確認。その際には1Pシュートと2Pシュートおよびチームファウル7回以上によるフリースロー2本を巡る攻防を踏まえて意思決定が行われる。
  3. 使用できる戦術的なチームファウル数
    特にフリースロー2本を与えない残りのチームファウル数を踏まえてファウル使用の是非が確認される。

上記の3点を踏まえ、ゲームクロージングにおける戦い方は主に次のことが考えられる。

リードを保って勝利を目指すチーム

基本方針

出来る限り試合時間(12秒ショットクロック)を消費しながら相手チームの攻撃回数を増やさないこと

オフェンス

期待値の低いシュートの早打ちやTOを避けて試合時間を消費する(=相手の攻撃回数を増やさない)
※加点することよりも優先されることが有り得る

ディフェンス

相手に期待値の高いシュートをクイックヒットさせないこと
1Pシュートよりも2Pシュートを優先的に守ること
※推定される残りのポゼッション回数から1Pシュートを決められてもセーフティリードを保てる場合は特に重要となる
※得点効率の高い2Pシュートを与えると逆転の可能性を与えてしまうことが有り得る

チームファウル6回目以下の場合 →ファウルを戦術的に活用(時間を止める、相手の出方を伺う等)
チームファウル7回目以上の場合 →ファウルによるフリースロー2本を与えないこと
相手にORBを与えないこと(相手の攻撃回数を増やしてしまうため絶対に避けるべき)

ビハインドからの逆転勝利を目指すチーム

基本方針

出来る限り試合時間を消費せず攻撃回数を増やしながら加点していき失点を抑えていくこと

オフェンス

期待値の見込めるシュートをクイックヒットで狙うこと(試合時間を消費せず攻撃回数を増やす)
期待値の高い2Pシュート試投を準備しておくこと
※ただし、時間を消費せずに攻撃回数を増やすことが有効である状況で、かつ相手ディフェンスが極端に2Pシュートを守ろうとしている場合はカウンターでイージーレイアップを狙うこと
ORB獲得を狙って攻撃回数を増やすこと

ディフェンス

相手に期待値の高いシュートを与えずに失点しないこと
※特にKO勝利となり得る場面では残りの試合時間に関係なく失点は許されない
スティールや相手のTOを誘って攻撃回数を増やすこと
不用意なファウルを犯さないこと(ショットクロックがリセットされ試合時間が消費されてしまう)
※得点効率の高い2Pシュートを与えると逆転の可能性を与えてしまうことが有り得る
※残りが僅かとなり、点差と攻撃回数の差し引きから逆転が難しい場面ではファウルゲーム の選択肢も有り得るかもしれない。ただし、3x3ではファウルゲームによるフリースロー2点の重みが大きくのしかかり逆転するシーンがあまり見受けられないためか、ダブルチームなどのトラップを仕掛けて相手のTOを奪いにいく選択肢を遂行するチームもあることを付け加えておきたい

事例:女子予選/ドイツ vs アメリカ戦:ドイツのゲームクロージング

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映像67_ゲームクロージング_女子予選_ドイツvsアメリカ

パリ2024オリンピックの開幕戦ではドイツが落ち着いてセーフティリードを保って初戦で好スタートとなる金星を挙げた。そのドイツのゲームクロージングを解説していきたい。

試合序盤はアメリカが圧倒していたものの、ドイツが徐々にリズムを取り戻して、試合終盤にはドイツの#14 グライナハー選手の連続得点により残り1分の時点でドイツが2点リードを奪う(14-12)。ただし、この時点では残り60秒÷12秒で両チーム合わせて少なくとも5回のポゼッション(アメリカに3回の攻撃権)が残されており、その2点差はセーフティリードではなくドイツ優勢とは言え、どちらのチームに勝利が傾くかはまだ予測できない。

しかし、残り54秒にドイツが2Pシュートを沈めて4点リードする(16-12)。残り54秒÷12秒で両チーム合わせて最小でも5回のポゼッションとなるが、仮にドイツがアメリカの3回の攻撃で1Pシュートを全て成功させられてしまったとしても、その4点リードは逆転されることがなくセーフティリードとなる。尚、この場面におけるチームファウル数は両チームともに4回である。つまり、ドイツは可能な限り試合時間を消費させてアメリカの攻撃回数を制限していき、1Pシュートを決められたとしても2Pシュートさえ成功させなければ、勝利を掴める可能性が高まった。一方のアメリカは攻撃回数を増やして加点していくか、もしくは2Pシュート成功が必要となる状況となったのである。

残り49秒、アメリカのオフェンス。チェックボールから2Pシュートを狙うものの、ドイツはしっかりとプレッシャーをかけてタフショットを打たせ、シュートが外れる。しかし、ドイツはアメリカにORBを奪われてしまう。これはアメリカの攻撃回数を増やすことになるので避けるべきであったが、そこでアメリカは強引な1Pシュートを放つもリングに嫌われ、今後はドイツが確実にDRBを押さえる。残り32秒でドイツのオフェンス。ショットクロック残り5秒に放った1Pシュートが外れ、アメリカがDRBを奪う。残り24秒、両チームの攻撃回数は最小で2回、4点差。2Pシュートエリアでボールを保持するアメリカに対し、ドイツはタイトなディフェンスで2Pシュートを打たせないように守ると、アメリカは痛恨のTOを犯してしまう。残り14秒、ドイツはボールを奪い、イージレイアップを決めて5点差とする(シュートせずに時間を消費しても良いが、イージーレイアップはほぼ100%に近いのでスコアを優先)。残り12秒、アメリカのオフェンス。ドイツは最後までディフェンスを緩めることなく、執拗に2Pシュートを防ぎにかかる。アメリカはたまらずスリップから1Pシュートを決めるが、ドイツはほぼ勝利を確信してか、それを無理に止めようとはしない。そして、ドイツは残り時間を全て消費し、金星を挙げた。

結果的に、ドイツはアメリカの2Pシュートに対して徹底的にプレッシャーを与え、追随を許さなかったことが大きな勝因として挙げられる。また、残り54秒で4点差をつけてから、ドイツはアメリカにORB1本を許してしまったのが余計であったものの、アメリカの攻撃回数を4回(ORB1本を除けば想定通りの3回)としている。

一方で、アメリカは単調なオフェンスから期待値の高い2Pシュートを狙っていたが、それをクリエイトするための準備(オフェンスシステムやチームとしての戦術など)が必要であったかもしれない。ましてや、期待値の低い強引な1Pシュートを放ったとしても、それは勝利に結びつかないどころか、勝利を遠ざける選択肢であったと言わざるを得ない。また、アメリカは2Pシュートを打たせないためのドイツの極端なディフェンスを予測して、それを逆手に取るカウンターからのイージーレイアップを狙うこともできたかもしれない。イージーレイアップは1点しか加点できないが、時間をかけずに期待値の最も高いシュートを放つこともできるため、それによりドイツが想定している以上の攻撃回数を増やすことに繋がり、同点もしくは逆転の可能性を残すことができたかもしれない。