パリを振り返って(フィジカル)

コンタクトスキルの現状と未来

日本のバスケットボールが世界と戦うために必要な視点

現状と課題

先に述べたように、日本におけるリーグ戦や合宿の中で日常的に選手が受けるコンタクトの強度は、世界のトップレベルと比べて明らかに低い。これは、コンタクトスキルそのものの向上を阻む大きな要因となっており、試合本番での当たり負けやフィジカルな戦いでの非優位性に直結している。この問題は単なる選手のコンタクトスキルの差ではなく、“日常の基準”そのものが世界と乖離していることに起因していると考えられる。

スポーツパフォーマンスからの改善提案

この課題を克服し、世界で通用するコンタクトスキルを育成するために、以下のような観点からの取り組みが必要である。
ウエイトトレーニングの比重を高め、フィジカル(特に筋力)の強化を図る。
ウォーミングアップ・フィジカルトレーニングと、バスケットボール練習との一体化を進め、連携を密にする。
コーチ・選手・パフォーマンススタッフが連携し、個人ごとの課題に対して明確なアプローチを実施する。
筋力強化とともに、筋肉量の増加を明確な狙いとして設定し、体づくりから見直す。

育成現場における課題

JBAコーチ養成講習会を通して見えてきたのは、コンタクトスキル向上の必要性は広く認識されているが、「どう伸ばすか(How)」が現場で共有・理解されていないという現状である。特にミニバスやジュニア世代ではその傾向が顕著であり、同時に怪我への懸念から“当たらせない”指導が選択されるケースも多い。これは、育成現場にフィジカルの専門スタッフが不在であることが大きな課題となっている。また、“世界基準”が何かを明確に知らないまま指導が行われていることも問題である。この点については、JBAが責任を持って基準や情報を配信し、指導者・関係者に正しい方向性を伝えていくことが急務である。

スキルセットの課題

コンタクトスキルとして、“先にコンタクトを仕掛ける” “重心を低くする”という基本的な要素に限らず、どのように当たるのか、という点をバスケットボールスキルの観点で育成する必要がある。

マインドセット:世界と戦う覚悟

銀メダルを獲得した東京 2020 オリンピック以降、対戦相⼿は死に物狂いで向かってくることが再確認できた。全てのチームがコンディションを整え、日本に対してもスカウティングを行い、戦いを挑んできている。その上で国を背負い世界と戦うということが、どういうことかを再確認する必要性もあるだろう。世界と戦うということは、99%の夢が破れる環境の中で、それでも1%を掴みに行く覚悟を持つということだ。コンタクトスキルの向上は技術だけでなく、マインドセットの向上と環境づくりが不可欠であり、その基準を高く設定し、選⼿・スタッフともにスタンダードを上げていくことが不可⽋である

“日常を世界基準に”

Japan's Wayの中には、「日常を世界基準に」という言葉がある。現状、日本国内で起きていることは世界基準といえないだろう。この言葉を実践するためには、バスケに携わるすべての関係者が、「世界基準とは何か?」を再定義し、それに基づいて行動していく必要がある。全ての関係者が責任を持ち、“世界基準のコンタクトスキル”を育てるための環境づくりをしていくことが急務である。それこそが、未来の日本バスケットボールの競争力を大きく左右するカギとなると考える。