パリを振り返って(フィジカル)

大会においてのフィジカル面の課題

パリ2024オリンピックは、東京2020オリンピックと比較してディフェンスの重要性がより強く際立った大会であったと言えるのではないだろうか。その根拠の一つとして、各国のオフェンス効率を示す「Points Per Possession(PPP)」の比較が挙げられる。東京2020オリンピックではPPPが0.9を超えるチームが5チーム存在していたのに対し、パリ2024オリンピックではわずか2チームにとどまった。

このデータはオフェンス主導ではなく、ディフェンスが試合の主導権を握る展開が増えたことを裏付けている。こうした背景を受けて、実際に大会や合宿を通じて現場のコーチングスタッフやスポーツパフォーマンスチームが感じた具体的な課題感を、以下に4つのカテゴリに分けて整理する。

  1. スクリーンにおける課題(オフェンス)
    スクリーンをかける際、インパクトの瞬間に“当たりに行く”意識がなく、受け身になっている。
    かかと重心になっており、安定感が損なわれている。
    スクリーンのセットが不十分で、相手ディフェンスに影響を与えきれていない。
    ホールドされた際に振り切る意志とアクションが弱い。フィジカルでの押し返しや体の使い方が課題。
  2. ドライブ時のコンタクト(オフェンス)
    ドライブにおいて、オフェンス側から先にコンタクトを仕掛けられておらず、終始受け身の姿勢。
    内足接地時に初めて接触が生じるケースが多く、結果的に踏ん張りが効かない。
    そもそも、一歩前の“外足接地”のタイミングでコンタクトできていないことが原因。
  3. ドライブ時のコンタクト(ディフェンス)
    ボディアップによる進行阻止が不十分。
    コンタクト時の体の使い方や、スライドステップの質が相手の勢いに対抗しきれていない。
  4. ポストプレー時のコンタクト
    重心が高く、接触時に姿勢で負けてしまうシーンが目立つ。
    ヒットファースト(先に当たりに行く)動作ができておらず、ポジションを簡単に与えている。
    ポストとパサーのシールのタイミングとパスのタイミングが合っておらず、せっかくのポジションを活かしきれていない。
    また、ミスマッチポストにおいてもアドバンテージを取れていない。

技術的課題だけでなく、「マインドセット」の差が存在する

上記のような技術的課題に加えて、現場では“コンタクトに対するマインドセットの差”も大きな要因ではないかという意見が多く聞かれた。この「マインドセットの差」とは、単に“気持ちの問題”ではない。日本国内におけるリーグ戦や合宿の中で、日常的に接するコンタクトの強度自体やコンタクトに対する考え方が、世界の舞台と比較して明らかに低いという現実に起因している。

例えば、大学生男子選手を練習相手として招聘して、より高強度のプレーをするトレーニングを積んで大会に臨もうと努力した。しかしながら、実戦の試合はファールがコールされない影響もあり、よりフィジカルコンタクトが許容されるゲームとなった。また、日常のリーグ戦や育成現場においても、世界基準のコンタクトレベルでプレーが行われているかは疑問である。2025-26シーズンからWリーグも留学生だけではなく、外国籍選手への門戸を開く。それにより、国内リーグでもオリンピックレベルの強度が体感できる環境になることを期待したい。

映像と実戦から見えた「差」の正体

国際大会の映像分析においても、成功している選手たちは一貫して以下のような特徴を持っていた。

自らコンタクトを仕掛ける(ヒットファースト)

姿勢が低く、接触時にも軸がぶれない
恐れずに、当たりにいくことを前提とした判断と動作をしている
つまり、コンタクトにおいては“技術”と“マインド”の両方が必要であり、それらを日常の中で自然に発揮できる環境づくりが急務であると言える。

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映像150_コンタクトスクリーン

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映像151_ドライブコンタクト(オフェンス)

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映像152_ドライブコンタクト(ディフェンス)

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映像153_ポストコンタクト

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映像154_コンタクトで削られる

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映像155_コンタクトスクリーン(モデル)

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映像156_ポストファイト(モデル)

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映像157_ドライブコンタクト(モデル)