「全てのスキルに関して、3x3では“やらざるを得ない”」
3x3の試合が実施されるプレーイングコートは、5人制のハーフコートよりもさらに狭いコートで行われる。「試合は狭いコート内で攻防が目まぐるしく入れ替わるので当然、選手はシュート、ドリブル、パス、スクリーンプレー、オフェンスもディフェンスも全てのスキルに関して“やらざるを得ない”です」と長谷川コーチは語る。
また、「3x3ではコート上に味方が3人だけであり、これは5人制と比べて少人数となります。味方を頼るにも限界があるので、“自分でやらざるを得ない”状況が必ず生じる。だから、3x3をやるとバスケが“短時間で”上手くなります」と加えて言及する。同様の感想は多くの選手たちも語っている。3x3が、選手のスキルを向上させるコンテンツと成り得る可能性を示す裏付けとなっていることがうかがえる。
「ボールが回ってくる、たくさんシュートができる!バスケの醍醐味はシュート。3x3ではシュートをたくさん打てるので、やっぱりそれが一番楽しい」
山本選手は3x3をきっかけとしたシューティングスキルの向上について、「サイズの大きい世界のトップ選手を意識して、ステップバックからの2Pシュートやコンタクトを入れたフィニッシュムーブをそれまで以上に磨きました」と振り返える。そして、「ボールがどんどん回ってきて攻める回数が多く、シュートの機会も増えるのでたくさん得点できる」と3x3の楽しさも合わせて強調する。3x3に限らずとも、誰もがバスケに触れてみると「シュートは楽しい」と共感するはずだ。その楽しさをより追求すべく、シュート練習に打ち込む。しかし、それはディフェンスされている状態でのシューティングだろうか?
もちろんスポットシュートの打ち込みも大切だが、多彩なムーブやテクニックを兼ね備えたプルアップジャンパーを決めることができれば、さらに楽しいに違いない。それが、山本選手が見ている楽しいバスケの光景である。3x3では、試合の中でいろんなシュートをたくさん経験できる。そんなシューティングスキルを高める特有の場面もたくさんある。
映像5_2ptにこだわる
「凄い!と思った海外のスクリーンプレーを取り入れていくことで勉強になった。それが楽しかった!」
3x3の規定の試合時間は10分間と短い(KO勝利の場合はさらに短い)。当然、攻守に渡って相手に先手を取られて対応ができない、または対応が遅れていくだけでも僅かな時間経過とともに勝機は失われてしまう。「3x3は短期決戦になるので、常にその時々のアジャストが必要です。スクリーンの角度や位置を細かく毎回修正しながら、ユーザーが行きたい方向にどう行かせるか、シュートさせるためにディフェンスの混乱を誘い、一瞬の隙を作るにはどうしたら良いかなどを常に意識してアジャストしていました」と中田選手は語る。
「3x3は短期決戦だからこそメンバー間において瞬時のフィードバックが自然と生まれ、メンバー全員が次のアジャストすべきプレーに関わっていきます。気づくとメンバー全員が同じ気持ちで一つになって試合に関わっています。だからこそ、自分が必要とされている中で全員プレーすることができ、やりがいも感じることができます。“バスケのスキル”はもちろん、“人間的にも成長”できる種目だと思います」と振り返る。その表情には密な時間を過ごしたチームへの誇らしさが垣間見れる。瞬間的なアジャストが求められ、チームの課題を先延ばしにできないからこそ、3x3にはチームに精神を宿す何かが働いているのかもしれない。
映像6_スクリーンの駆け引き
映像7_スクリーンの連続
「オールラウンドな選手が育ちやすい」
3x3では決められたポジションの役割に特化されない状況下で競い合うことが多い。その過程で多くの選手は、必然的にオールラウンダーへと成長を遂げていく。「3x3では明確なポジション分け(G・F・C)がないので、ゲーム中は全員がオールラウンドな役割を求められます。それによってバスケIQも上がり、高いフィジカルレベルに慣れていくと5人制にも生かされると感じています」と馬瓜選手は強調する。
思い起こせば、東京2020オリンピックの出場権をかけたOQTの最終戦、3x3女子日本代表は残り1分余りでスペインに対し、4点ビハインドという崖っぷちにいた。そこからの大逆転劇を演じた一人であり、オールラウンダーとしての輝きを放ったのが馬瓜選手だった。起死回生の2Pシュートで反撃の狼煙を上げるや否や、縦横無尽にスクリーンをかけてアシストを決める。ディフェンスでは、ペイントアタックに特化した189㎝のアイタナ選手を守り切る。ブザービーターを狙ったエースのサンドラ選手の2Pシュートもシャットアウト。そして延長の末、馬瓜選手はアイタナ選手のコンタクトにも動じずフィニッシュをねじ込み、東京2020オリンピック行きのチケットを日本にもたらしたのである。
ちなみに、敗退したスペインは今回のパリ2024オリンピックに向けて180㎝台のオールラウンダー2選手を新たに招集し、銀メダルを獲得した。馬瓜選手がスペインの3x3に与えた影響は計り知れない。これも何の因果か、馬瓜選手はスペインリーグ(5人制)を舞台に現在、活躍し続けている。
映像8_馬瓜ステファニー_オールラウンドな活躍
映像9_ポジションレス = オールラウンド化
「攻めながら守ることを考える。守りながら攻めることを考える」
3x3における10分間の試合時間、12秒のショットクロック、短い時間の中で繰り広げられる攻防の切り替えの「スピード感」が観客を熱狂させる。小澤選手は、3x3におけるトランジションの攻防について「1パス、1プレーでイージーシュートに繋がる。休む時間がなくスピーディに試合が展開されます。例えば、相手のミスマッチを攻めた後は、反転されて今度は自分のミスマッチとなってすぐにやり返される。その逆もある。だから、3x3のトランジションの攻防では、常に次の展開を予測しながら素早く状況判断してプレーする必要があります」と説明する。
小澤選手は3x3を主戦場として活動しており、「3x3に出会ったことで自身のシュートスキルやスピードあるプレーが合致し、バスケに対する活動の幅が広がりました。プロや日本代表を目指すようになったのも、3x3男子U18日本代表合宿に呼ばれたことがきっかけです。3x3は選手をバランスよく成長させるので、これからもっと活躍できると思います」と振り返りながら語る。スピード感が溢れ、一瞬のうちにシュートチャンスが生み出される3x3のトランジションの特異性は多くの選手たちに新たな可能性を見せてくれる。
映像10_速いテンポ_トランジションの攻防
「ピックアップゲームなどの実践を通して、スカウティングやアジャストの能力を磨いてきました」
3x3では試合中に選手がコーチから指示を受けたり、お互いの意思を伝達したりする行為は禁止されている(※その行為に対してテクニカルファウルが宣告される)。つまり、タイムアウト、交代、ゲームの流れを分析するのは選手たちであり、メンバー同士でコミュニケーションを取りながら“自分たちで考えて戦う”ことが必然となる。
江村選手は幼い頃から父が運営するクラブチームでファンダメンタルを中心に、どのような相手や状況でも打ち勝つことのできるスキルを磨いてきたと言う。「ピックアップゲームや3on3などを含めたハーフコートの実践的な練習を通じて、主にアメリカンスタイルのバスケを学んできました」と自身の原点を振り返る。「その実践的な練習では、事前のスカウティングに加えて、その場でのスカウティングとアジャストをいち早く的確に行う必要があるため、“修正力と調整力”といった面でバスケIQが向上しました。そのような能力によって相手のメインムーブとストロングポイントを封じていきます」と説明を続ける。そして、そういった能力は“3x3と5人制のどちらにでも生かせること”を強調する。
3x3と5人制ではルールや種目特性が異なるものの、江村選手がボールを持つと3x3であれ、5人制であれ、相手がどのようなタイプの選手であろうと同じように翻弄されていく。「事前のスカウティングとその場でのスカウティングにより相手のプレーをリードする(読む)。得点効率の高いウィニングプレーを選択し、FG%順にオフェンスを選手自身で構築する中で、個々のストロングポイント(適材適所)で攻める」と相手を翻弄していく際のプレーを説明する。
「システムやセットプレーに依存しすぎず、フリーランスやプレーが崩れた展開の中でも相手に打ち勝っていくためには、“修正力と調整力”の向上が3x3や5人制を問わず必要です。特に3x3ではアイソレーションと2メンゲーム(DHO / PNR)のシチュエーションが増え、ボールサイドでのプレー強化に繋がります」として、その能力向上やプレー強化が選手の成長として現れるメリットになることも付け加える。
よく語られるバスケIQではあるが、選手やコーチの中にはそれが不十分だと嘆くこともあるのではないだろうか。一方で、バスケIQを高める具体策を持ち合わせているだろうか。選手のトライ&エラーに寛容で、その挑戦を見守り続けることができているだろうか。少なくとも3x3では、バスケIQを高めやすい環境下(ルール)で選手主体にプレーされている。
映像11_選手が話し合う3x3_OQT2021_女子_日本vsスペイン戦
映像12_選手が話し合う3x3_Time out中の会話