5人制選手を凌駕する“3x3スクリーン攻防スキル”

3x3ならではのアクション

5人制の専門家から見る3x3

ここまでは、3x3の世界で日の丸を背負ったコーチおよび選手たちにその楽しさや魅力、そしてこの種目に対する想いを語ってもらった。彼らの多くは5人制を活動の主戦場としているものの、3x3の楽しさや魅力にも強く惹かれていることがお分かりいただけたのではないだろうか。今度は、3x3に直接関わったことのない5人制の専門家から、3x3は一体どのように見えるのか、インタビューを行った。

冨山 晋司(5人制男女日本代表 一気通貫コーチ)

学生時代に公園のコートなどで仲間と3on3をプレーすることがあっても、”競技としての3x3”に直接関わったことが今まで一度もなかった人は多いのではないだろうか。テクニカルハウス部会長の冨山氏もその一人である。彼が大阪エヴェッサでアシスタントGMをしていた時、3x3男子日本代表として東京2020オリンピックでプレーすることになるアイラ・ブラウン選手が同クラブに所属していた。その関係で、3x3日本代表合宿の練習を見学する機会があり、それが初めて3x3を間近で見るきっかけでもあった。JBAテクニカルハウス就任後は、3x3のデータの取り方などをアドバイスしたり、プログラムを組んだりすることもあり、より多くの3x3の試合を見るようになった。

「東京2020オリンピックから”3x3選手だけが持っているスキル”に、ずっと注目していました。彼らの持っているセットプレーは、もちろん面白い動きも多く、スクリーンの攻防も興味深く、ずっと気になっていました。最近までは具体的にそれが何かを説明できるほど、自分の中で整理することができずにいました。パリ2024オリンピック予選へ向けた日本代表の強化試合で、セルビアのクラブチーム“ub”(ウーヴー)のプレーを見た時に、”3x3選手だけが持っているスキル”が存在することが確信に変わりました。運よくコンコルド広場で行われたパリ2024オリンピックでは準決勝と決勝に行くことができ、なんとかそれを言語化しようと考えながら試合を観戦しました」と5人制の専門家である冨山氏も、注目すべき“3x3のスクリーン攻防”の存在についてこのように語る。

「長年に渡ってNBAやFIBAのバスケを見続けていると、プレースタイルの流行や変化は常にあるものの、なかなか目新しいプレーに出会うこともなくなってきます」と言及する一方で、「ただ、3x3の試合を見ていると、これまでのバスケでは見たこともない、考えたこともないようなアクションやセットプレーに出会うことがあるんです」と冨山氏は驚く。続けて、「3x3は競技として観戦していてもとても面白いですが、5人制へのヒントももらえるところが自分にとっての最大の魅力かもしれないです。彼らを見ていると、5人制の選手ももっともっと上手くなれるのではないかとワクワクします」と3x3の楽しさや魅力についても語ってくれた。

ここでは、冨山氏によってまとめられた5人制でも注目すべき“3x3スクリーン攻防スキル”について紹介する。

3x3ならではのアクション

“ベルジウム”

PNRのユーザーとスクリーナーがひっくり返ってDHOをプレーする連続スクリーンアクション。ベルギーが使いはじめたアクションなので、Belgium(ベルジウム)と呼ばれる。

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映像17_ベルジウムアクション

“アングルチェンジDHO”

PNRではなく、DHOのアングルチェンジ。スクリーナーの高いハンドリング能力が求められる。

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映像18_アングルチェンジDHO

“リバーストレイル”

トレイルとは、ボールを追いかける意味でハンドオフを指す動きだが、3x3ではドリブルの進行方向とは逆の、背中側からトレイルしてDHOをするアクションがある。ディフェンスは反対から来るハンドオフに対応するのはとても難しいと考えられる。

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映像19_リバーストレイル

「5人制以上に選手がオールラウンド化し、様々なスキルを持っていることが、こういった新しいアクションの発明を可能にしているのだと思います。名前が分からなないプレーもあるので、ぜひ考えてみてください!」

「3人目がヘルプできないバスケなので、2on2のスキルが究極まで進化しているんです」

「3x3では2ptの期待値があまりにも高いので、2on2を他の1人がヘルプできません。逆に言えば、5人制の選手はピック&ロールなどの2on2をディフェンスする時に、他の3人のヘルプを頼りながらプレーする習慣がついていると言えます。それは5人制では別に悪いことではなく当たり前ですが、3x3ではそれが命取りになります。ずっと感じていた”3x3選手だけが持っているスキル”の秘密は、『スクリーンの攻防』に隠されていました。3人目が絶対にヘルプしなくても済むように、“2on2を2on2で完結させるディフェンス”が究極まで進化しています。当たり前のように5人制のディフェンスに慣れていると、もはや”神業”に見えます」

「一体どうやってコミュニケーションしたら、そんなことができるの!?」

「特にお気に入りは、男子オランダ代表のディフェンスです。彼らのディフェンスは見ていてワクワクします。際どいスクリーンの攻防を見るたびに、『今のどうやったの!?』とか、さりげなくプレーしているけど『一体どうやってコミュニケーション取ったら、そんなことができるの!?』と思わされることばかりです。パリから帰国後、オランダの試合をもう一度全て見直し、全てのスクリーンの攻防を1つひとつ丁寧に見て、彼らのディフェンスのコンセプト、ルールを解明してみました。実際には彼らにインタビューしたわけではないので正確には分からないですが、幾度となくビデオを検証して、ある程度の確証を持った”仮説”にはたどり着けたと自負しています。実際に、男子日本代表の中祖コーチの意見も聞いて最終版としましたので、(次ページにて)皆さんにシェアします」