男子決勝トーナメントでも、やはり今大会に“絶対本命など存在しない”ということを象徴するかのような戦いが繰り広げられる。まずは、2012年に開幕したFIBA 3x3ワールドチャンピオンシップ(現在のFIBA 3x3ワールドカップ)を制して以来、世界の3x3をリードしてきた古豪のセルビア(平均年齢32.3歳)が今大会の最年少チームで若手中心のチーム編成で臨んだ地元フランス(平均年齢26.8歳)を相手に敗退し、早々に姿を消す結果となった。
セルビアと言えば、個々の力もさることながら、緻密な“駆け引き”を仕掛けながら遂行されるスクリーンの攻防によって幾度ともなく世界の頂点に立ってきた。今大会、セルビアのPPPは0.63 (全体1位)であり、ポゼッション1回当たりで最も効率よく得点を挙げてきたことがうかがえる。しかしながら、 決勝トーナメントに限って言えば、若手中心のフランスもまたセルビアに劣らない、いや互角以上の“駆け引き”によってスクリーンの攻防を制し、競り勝ったのである。
スクリーン攻防における緻密な“駆け引き”は、一朝一夕で獲得されるものではない。フランスは男子トップレベルの国際大会における一人当たりの平均出場回数は21.0回(全体5位)で、セルビアの50.5回(全体1位)に遠く及ばない。一方、3x3を始めてからの1人当たりの平均競技年数を見てみると、フランスの10.0年(全体2位)に対して、セルビアの10.5年(全体1位)とほとんど遜色はない。尚、今大会のフランスメンバーは、4人ともFIBA 3x3 U23ネーションズリーグを経て代表入りしている。つまり、フランスは中長期的な強化戦略のもとでチームを組成しており、その中でセルビアと互角以上に渡り合うためのスクリーン攻防の“駆け引き“を磨き抜いてきたことが推測される。磨き抜かれたスクリーン攻防の“駆け引き”こそが、3x3を制する勝利への絶対条件とも言えるような見事な戦いぶりであった。
前王者のラトビア、古豪のセルビアが敗退したことにより、大会の行方は混迷を極めていた。その混戦を制して決勝へ進出したのがフランス、そして徐々に存在感を増していったオランダである。
オランダの主なスタッツを見てみると、1Pシュート成功率では68.1%(全体3位)、 2Pシュート成功率では24.8%(全体7位)、PPPでは0.58(全体3位)、シューティング効率では0.61(全体6位)と突出した数値は見当たらない。だが、ドリブルでアーク外側からペイント内に侵入し、直接フィールド ゴールを成功させるという定義のドライブによる得点が圧倒的に多く、1試合当たりの平均ドライブ数は5.9回(全体1位)であった。その中心的役割を担っているのが、切れ味の鋭さと変幻自在な巧みさを兼ね備えるドライブが持ち味のエース、#54 デヨング選手である。今大会、デヨング選手の1試合当たりの平均ドライブ数は3.3回(個人ランキング全体1位)となっていることからも、ドライブで他を圧倒していたことがうかがえる。
また、1試合当たりの平均フリースロー試投数では4.6回およびその成功数では3.0回(ともに全体1位)となっており、ドライブでのペイントアタックを軸にしながらファウルをもらうことによるフリースローを得点源としていたことも読み取れる。
オランダのディフェンスに関するスタッツでは、対戦相手のPPPを0.44 (全体1位)に抑え込んでいる。オランダのチームディフェンスは、特にスクリーンの攻防において局面毎の“駆け引き”の精度が非常に高く、今大会において鉄壁のディフェンス力を誇っていた。尚、予選プールにおけるオランダの対戦成績は5勝2敗。ラトビア戦とセルビア戦ではKO負けを喫するなど、順風満帆に勝ち上がってきた訳ではない。しかし決勝戦直前の2試合において、アメリカ戦では僅か6失点、リトアニア戦でも9失点と完全に相手をシャットアウトしていた。オランダはこの決勝戦でピークパフォーマンスに到達するかのような仕上がり具合であった。
男子個人_1試合当たりの平均ドライブ回数(※)
順位 | # | 選手名 | チーム | GP | 総数 | 平均 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 54 | de JONG Worthy | オランダ | 9 | 30 | 3.3 |
2 | 5 | FREDETTE Jimmer | アメリカ | 2 | 5 | 2.5 |
3 | 11 | ZHAO Jiaren | 中国 | 7 | 16 | 2.3 |
4 | 8 | ZHANG Ning | 中国 | 7 | 13 | 1.9 |
5 | 26 | DZIAUGYS Evaldas | リトアニア | 9 | 14 | 1.6 |
5 | 1 | MIEZIS Nauris | ラトビア | 9 | 14 | 1.6 |
7 | 6 | BARRY Canyon | アメリカ | 7 | 11 | 1.6 |
7 | 3 | STOJACIC Strahinja | セルビア | 7 | 11 | 1.6 |
9 | 13 | van der HORST Dimeo | オランダ | 9 | 12 | 1.3 |
10 | 2 | LASMANIS Karlis | ラトビア | 9 | 10 | 1.1 |
※3x3のテーブルオフィシャルにて記録される「ドライブ」とは、アーク外側からドリブルで移動し、制限エリアから直接フィールド ゴールを成功させることを指す。
男子決勝戦は、オリンピックという世界最高峰の舞台を通してピークパフォーマンスを徐々に上げてきたフランスとオランダの激突となった。試合序盤はお互い簡単にシュートを打たせないロースコアな展開となる。そのような中で、オランダのデヨング選手がドライブでフランスのディフェンスを切り裂きリードを奪う。一方のフランスもシュートを決められたら決め返す、守られたら守り返すという具合に両者一歩も引かない展開となっていく。残り4分となる頃に、フランスの#3 ベルジア選手のフローターが決まったことを皮切りに、一気に試合のペースが加速していく。
最終盤に差し掛かると、今度はフランスが若干のリードを奪う。会場内外に詰め掛けた地元ファンによる金メダルへの期待が高まるとともに、盛り上がりも最高潮に達する。しかし、最後まで勝負の帰趨が揺れ動く。残り10秒、オランダは圧倒的な“勝負強さ”をもってチームを牽引してきたデヨング選手にボールを託す。彼の鋭いドライブが、フランスのディフェンスを切り裂いていく。試合終了1秒前、同点のレイアップを沈め、ブザーが鳴り響く。勝負はオーバータイムへと持ち越された。
オーバータイムで1点目を先制したのはフランス。ここで再びボールはオランダのデヨング選手へ託される。そして、12秒ショットクロック間際に放たれたフェイドアウェイからの2Pシュートはブザーとともにバスケットへ吸い込まれて試合終了。勝利を信じていた地元ファンの大声援がオランダのファンの歓喜にかき消されるも、会場は次第に金メダルを獲得したオランダと激闘を最後まで演じたフランスの両者に対する拍手へと変わっていった。
FIBA 3x3が規定しているスタッツ担当者マニュアルには、ブザービーターという記録項目が設けられている。それによれば、オーバータイムや同点に追いつくラストショット、もしくは勝ち越しの決勝点となるラストショットを試合終了前の5秒以内にプレーが途切れない状況下で成功させた場合にブザービーターとして記録される(フリースロー成功を含む) 。この決勝戦ではオランダのデヨング選手により、規定の試合終了間際1秒で同点に追いつき、オーバータイムへと導かれるラストショットを決めた。また、延長戦でもKO勝利、そして金メダルをもたらす2Pシュートのラストショットも決めた。それにより、デヨング選手の個人スタッツにはブザービーター2回が記録された。3x3で世界の頂点に登りつめるためには、ここぞという場面における“勝負強さ”について無関心ではいられない。
デヨング選手の個の力によって導かれたブザービーターではあるが、当然ながらその場面に辿り着くまでの戦いにおけるオランダの“一体感”の象徴である鉄壁のチームディフェンスがあったことも忘れる訳にはいかない。オランダは個の“勝負強さ”とチームの“一体感”が両輪となって覚醒し、パリ2024オリンピックにおいて金メダルを獲得した。
男子トップレベルの国際大会(※)における一人当たりの平均出場回数
※男子トップレベルの国際大会:東京2020オリンピック以降のFIBA 3x3ワールドカップ&各エリアカップ&ワールドツアー
平均回数順位 | 大会順位 | パリ2024出場国&日本 | 国際大会(※)への一人当たりの平均出場回数 |
---|---|---|---|
1 | 5 | セルビア | 50.5 |
2 | 1 | オランダ | 39.0 |
3 | 3 | リトアニア | 29.3 |
4 | 7 | アメリカ | 26.0 |
5 | 2 | フランス | 21.0 |
6 | 4 | ラトビア | 21.0 |
7 | 8 | 中国 | 15.3 |
8 | 6 | ポーランド | 12.0 |
平均 | 26.8 |
男子_1試合当たりの対戦相手のPPP
順位 | チーム | 大会順位 | PPP |
---|---|---|---|
1 | オランダ | 1 | 0.44 |
2 | ラトビア | 4 | 0.49 |
3 | リトアニア | 3 | 0.53 |
4 | フランス | 2 | 0.60 |
5 | セルビア | 5 | 0.61 |
6 | ポーランド | 6 | 0.61 |
7 | アメリカ | 7 | 0.65 |
8 | 中国 | 8 | 0.67 |
平均 | 0.58 |
男子_1試合当たりの平均ドライブ回数(※)
順位 | チーム | 大会順位 | DRVpg |
---|---|---|---|
1 | オランダ | 1 | 5.9 |
2 | 中国 | 8 | 4.6 |
3 | セルビア | 5 | 3.9 |
4 | アメリカ | 7 | 3.6 |
5 | リトアニア | 3 | 3.2 |
6 | ラトビア | 4 | 2.9 |
7 | ポーランド | 6 | 2.5 |
8 | フランス | 2 | 2.3 |
平均 | 3.6 |
※3x3のテーブルオフィシャルにて記録される「ドライブ」とは、アーク外側からドリブルで移動し、制限エリアから直接フィールド ゴールを成功させることを指す。
男子_1試合当たりの平均フリースロー成功数と試投数
順位 | チーム | 大会順位 | FTMpg | FTApg |
---|---|---|---|---|
1 | オランダ | 1 | 3.0 | 4.6 |
2 | フランス | 2 | 2.9 | 4.3 |
3 | リトアニア | 3 | 2.6 | 3.9 |
4 | ポーランド | 6 | 2.5 | 3.4 |
5 | 中国 | 8 | 2.3 | 2.4 |
6 | セルビア | 5 | 2.25 | 2.8 |
7 | アメリカ | 7 | 2.25 | 3.3 |
8 | ラトビア | 4 | 1.7 | 2.9 |
平均 | 2.5 | 3.3 |