女子決勝トーナメントに入っても、本大会は圧倒的な力の差などがなく、勝ち進むことがいかに困難であるかを思い知らされる。東京2020オリンピックの女王であり、2023年に開催されたFIBA 3x3ワールドカップでも優勝し、さらにWNBA出身の選手3名を擁したアメリカが準決勝でスペインに痛恨の敗北を喫することとなった。終始アメリカのリードで進んでいたが、試合中盤にアメリカがファウルトラブルに陥ったことで流れが一変する。アメリカはスペインにボーナスフリースローを与え続けることになり、試合終了間際の残り5秒でついに同点に追いつかれ、オーバータイム(延長戦)に持ち込まれた。
迎えたオーバータイム、アメリカは先制の1Pシュートをスペインに許した後に痛恨のファウルを犯し、フリースローを差し出してしまったのである。オーバータイムでは2点を先制したチームの勝利となるが、スペインに決勝点を沈められて16-18、試合終了を告げるブザーが響き渡る。何とアメリカはボーナスフリースローによるKO負けを喫したのである。この試合のアメリカは全18失点のうち、33.3%を占める6失点がフリースローによるものであり(スペインのFT成功数6本/試投数7本)、それが大きな痛手となってスペインの決勝進出を許す敗北となってしまった。
アメリカは先述の通り、WNBA出身の選手3名を擁しており、個々の力に関して疑問を挟む余地はなく、その布陣は他チームを圧倒できるようなチーム編成であった。しかし、アメリカのチームスタッツを見るとPPPは0.45 (全体5位)、シューティング効率は0.55(全体5位)であり、いずれも平均的な数値であった。さらに、FG試投数に対する2Pシュート試投数の占める割合はわずか23.8%(全体8位)で全体平均34.7%と比較しても際立って低い数値であった。3x3では期待値の高い2Pシュートの成否が試合の勝敗に大きな影響を与える。しかし、今大会のアメリカはその2Pシュートという武器を十分に活かし切れず、攻撃面で他チームを圧倒できなかったことがうかがえる。
FIBA3x3は、3x3という種目における”継続性(continuity)”と”チームの一体感(chemistry)”の重要性を指摘している。アメリカ #9 ヴァン・リス選手はチームで唯一の大学バスケ選手であり、2018年から継続的に3x3の国際大会に出場してきた選手でもある。今大会において彼女は平均4.6得点、2Pシュート成功率50.0%、シューティング効率0.58というスタッツを残し、いずれもチームリーダーとなっている。まさにFIBA3x3の指摘した通り、3x3を継続してきた若干22歳の彼女がWNBA出身の選手たちを擁するチームを牽引していたのである。
一方、アメリカは女子トップレベルの国際大会における一人当たりの平均出場回数は7.3回(全体7位)であり、3x3の試合経験が極端に少ない選手もいる。加えて、アメリカのメンバー4名が揃った公式戦への出場回数は過去0回(1度も経験なし)であり、このパリ2024オリンピックが4名揃って初めて臨む国際大会であった。つまり、FIBA3x3の指摘を踏まえるならば、アメリカはトップレベルの国際大会において生じる「トライ&エラーからの修正を行い、“チームの一体感”を高めていく機会」が十分ではなかったと言える。まさかの敗北となってしまったオーバータイムでのフリースローによるKO負けや、今大会を通じて2Pシュートを武器として活かし切れなかったのもそのような背景が影響していたのかもしれない。2028年のオリンピックはアメリカの自国開催となるが、バスケ王国アメリカが今大会の結果を受けてどのような代表強化に乗り出すのか、今から注目である。
女子_FG試投数に対する2Pシュート試投数の割合(%)
順位 | チーム | 大会順位 | 2PTA/FGA |
---|---|---|---|
1 | アゼルバイジャン | 7 | 44.0% |
2 | スペイン | 2 | 41.1% |
3 | カナダ | 4 | 39.1% |
4 | フランス | 8 | 34.2% |
5 | オーストラリア | 5 | 34.0% |
6 | 中国 | 6 | 33.5% |
7 | ドイツ | 1 | 28.1% |
8 | アメリカ | 3 | 23.8% |
平均 | 34.7% |
ドイツは準決勝で強豪カナダを16ー15の僅差で下していた。この試合、ドイツはエースのグライナハー選手が一人で11得点、2Pシュートを含む11回放たれたシュートは10回成功。そして、15-15の同点で迎えた残り3秒では決勝点となるターンアラウンドショットを成功させるなど、ここぞという“勝負強さ”を如何なく発揮する獅子奮迅の大活躍であった。また、“ベテラン”のブルンクホルスト選手にリードされた“若手”2人のメビウス選手とライヘルト選手(いずれもFIBA 3x3 U23ネーションズリーグを経て代表入り)が試合毎に成長を見せていき、ドイツは対戦相手のPPPを0.43(全体1位)に抑える堅実堅守のチームディフェンスを確固たるものとしていった。
ドイツvsスペインの決勝戦、両者は試合の序盤から激しくぶつかり合う。中盤以降、スペインが4点リードを奪い突き放しにかかるが、すぐさまグライナハー選手そしてブルンクホルスト選手の2Pシュート成功で応戦。さらに若手の2人も続き、再び一進一退の激しい攻防となっていく。尚、今大会のドイツはFG試投数に対する2Pシュート試投数の占める割合が28.1.%(全体7位)と決して高い値ではないものの、特筆すべきは 2Pシュート成功率が39.2% (全体1位)と他チームを圧倒している。また、その精度の高い2Pシュートを軸にシューティング効率が0.68(全体1位)、PPPが0.51(全体1位)となっており、ドイツはとにかくシュート精度の高さによって効率の良いオフェンスを遂行していたチームであったことがうかがえる。
試合終盤、ここまで攻勢を続けてきたスペインであったがディフェンスでエラーが生じはじめ、ドイツはその間隙を見逃さなかった。残り30秒、PNRを仕掛けたブルンクホルスト選手からのアシストパスによりグライナハー選手の2Pシュートが成功し、17-15とドイツが2点リードを奪う。これまで幾度となくチームを勝利へと導いてきたグライナハー選手の、ここぞという時の“勝負強さ”がこの決勝の大舞台でも発揮されたのである。
しかし、スペインもすぐさま応戦して1Pシュートを成功させ1点ビハインド、さらにドイツのTOを誘う。残りは7秒でスペインのオフェンス。攻撃的なスペインと堅実堅守のドイツを象徴する最後の攻防。スペインはエースの#13 イゲラビデ選手を軸に攻める。それに対してディフェンスを崩されかけても喰らいつきながら堅守を貫くドイツ。残り0.5秒に放ったスペインのショットがブザーと同時に外れて試合終了。金メダルを獲得したドイツチームは、観客席から祝福を贈る元NBAスター選手であるノビツキーの前で固いハドルで繋がれていた。
女子_シューティング効率(※)
※シューティング効率:シュート1本当たりで期待される得点値
S-EFF = PTS/(1PTA+2PTA+FTA)で計算
順位 | チーム | 大会順位 | S-EFF |
---|---|---|---|
1 | ドイツ | 1 | 0.62 |
2 | カナダ | 4 | 0.59 |
3 | オーストラリア | 5 | 0.57 |
4 | スペイン | 2 | 0.56 |
5 | アメリカ | 3 | 0.55 |
6 | アゼルバイジャン | 7 | 0.54 |
7 | 中国 | 6 | 0.53 |
8 | フランス | 8 | 0.46 |
平均 | 0.55 |
女子トップレベルの国際大会(※)における一人当たりの平均出場回数
※女子トップレベルの国際大会:東京2020オリンピック以降のFIBA 3x3ワールドカップ&各エリアカップ&ウィメンズシリーズ
平均回数順位 | 大会順位 | パリ2024出場国&日本 | 国際大会(※)への一人当たりの平均出場回数 |
---|---|---|---|
1 | 4 | カナダ | 21.3 |
2 | 1 | ドイツ | 20.0 |
3 | 8 | フランス | 16.3 |
4 | 2 | スペイン | 16.0 |
5 | 6 | 中国 | 15.0 |
6 | 7 | アゼルバイジャン | 14.0 |
7 | 3 | アメリカ | 7.3 |
8 | 5 | オーストラリア | 6.8 |
平均 | 14.7 |
女子_1試合当たりの対戦相手のPPP
順位 | チーム | 大会順位 | PPP |
---|---|---|---|
1 | ドイツ | 1 | 0.43 |
2 | フランス | 8 | 0.44 |
3 | アメリカ | 3 | 0.45 |
4 | アゼルバイジャン | 7 | 0.46 |
5 | カナダ | 4 | 0.48 |
6 | スペイン | 2 | 0.49 |
7 | オーストラリア | 5 | 0.52 |
8 | 中国 | 6 | 0.52 |
平均 | 0.46 |
女子_1Pシュート成功率(%)
順位 | チーム | 大会順位 | 1PMpg/th> | 1PApg/th> | 1P% |
---|---|---|---|---|---|
1 | 中国 | 6 | 9.9 | 16.9 | 58.5% |
2 | カナダ | 4 | 9.3 | 16.2 | 57.4% |
3 | アメリカ | 3 | 10.5 | 20.2 | 52.0% |
4 | ドイツ | 1 | 9.2 | 17.7 | 52.2% |
5 | アゼルバイジャン | 7 | 6.7 | 13.3 | 50.0% |
6 | オーストラリア | 5 | 7.9 | 16.0 | 49.2% |
7 | フランス | 8 | 8.9 | 19.0 | 46.6% |
8 | スペイン | 2 | 6.9 | 15.1 | 45.6% |
平均 | 8.7 | 16.8 | 51.8% |
女子_2Pシュート成功率(%)
順位 | チーム | 大会順位 | 1PMpg/th> | 1PApg/th> | 1P% |
---|---|---|---|---|---|
1 | ドイツ | 1 | 3.1 | 7.9 | 39.2% |
2 | アメリカ | 3 | 2.5 | 8.4 | 29.8% |
3 | オーストラリア | 5 | 2.5 | 8.5 | 29.4% |
4 | カナダ | 4 | 3.0 | 11.2 | 26.8% |
5 | スペイン | 2 | 2.9 | 10.9 | 26.6% |
6 | フランス | 8 | 2.0 | 8.8 | 22.7% |
7 | アゼルバイジャン | 7 | 2.1 | 9.3 | 22.6% |
8 | 中国 | 6 | 1.5 | 8.8 | 17.0% |
平均 | 2.5 | 9.2 | 27.0% |
女子_1試合当たりの平均ドライブ回数(※)
順位 | チーム | 大会順位 | DRVpg |
---|---|---|---|
1 | フランス | 8 | 3.4 |
2 | アゼルバイジャン | 7 | 3.0 |
3 | アメリカ | 3 | 2.9 |
4 | オーストラリア | 5 | 2.9 |
5 | 中国 | 6 | 2.8 |
6 | スペイン | 2 | 1.9 |
7 | ドイツ | 1 | 1.9 |
8 | カナダ | 4 | 1.7 |
平均 | 2.5 |
※3x3のテーブルオフィシャルにて記録される「ドライブ」とは、アーク外側からドリブルで移動し、制限エリアから直接フィールド ゴールを成功させることを指す。
女子_1試合当たりの平均フリースロー成功数と試投数
順位 | チーム | 大会順位 | FTMpg | FTApg |
---|---|---|---|---|
1 | オーストラリア | 5 | 4.3 | 6.0 |
2 | アゼルバイジャン | 7 | 3.3 | 4.0 |
3 | スペイン | 2 | 3.2 | 3.9 |
4 | カナダ | 4 | 2.7 | 3.7 |
5 | 中国 | 6 | 2.1 | 2.9 |
6 | ドイツ | 1 | 1.9 | 2.2 |
7 | アメリカ | 3 | 1.6 | 2.7 |
8 | フランス | 8 | 1.0 | 1.6 |
平均 | 2.5 | 3.4 |