3x3における「攻防の局面」は図のように示されるが、これは5人制と同様にゲーム中は「攻守の入れ替え」が繰り返される。よって、各局面はその前後の局面におけるボールの所有を争う「ポゼッションの攻防」と繋がって関係し合っていることを考慮して分析することが求められよう。また、ゲームでは当然ながら対戦相手との攻防になるので、攻防局面はそれぞれ対になる局面と表裏一体の関係となり、影響を与え合っていることも分析する上では考慮されるべき点である。
「3x3は1本のシュートが入る入らないで勝負が大きく左右される。単純に2Pシュートが11本入れば格上相手でもアップセットを起こせる」と富永選手は捉えている。3x3における得点するためのシュートは1Pシュートと 2PシュートのFG、そしてフリースローに分けられる。シュートの期待値はそれぞれ表(平均的なシュート成功率で算出)のように考えることができる。1Pシュートの場合、FG%がそのまま期待値 (PPP) となる。2Pシュートの場合はその得点が2 倍になるため、FG%の2 倍が期待値(PPP)になる。フリースローも1点となるため、FT%がそのまま期待値(PPP)となる。
例えるならば、5人制の試合で2Pシュートに対して、2倍の4Pシュートがあったとしたらとても重みを感じるのではないだろうか。3x3における1Pシュートに対して、2倍の2Pシュートはそんな重みのあるシュートになる。
3x3におけるPPPの考え方
シュートの種類 | FG% | PPP |
---|---|---|
1点シュート | 60% | 0.6 |
2点シュート | 30% | 0.6 |
フリースロー | 70% | 0.7 |
思い起こせば、東京2020オリンピックの中国戦では最低18得点以上の勝利が予選突破の条件だった。富永選手は、その状況で21得点目のKO勝利となる2Pシュートが入った瞬間を「バスケ人生でも記憶に残るシュート」と振り返る。また、準々決勝では富永が決めた3本の2Pシュートを筆頭に、チームで計5本(計18得点中の10得点分)を沈めて、同大会で金メダルを獲得するラトビアをあと1歩まで追い詰めた。試合後、ラトビアの選手たちに「日本がここまで強いとは思わなかった」と言わしめたことからも、富永選手の言葉どおり3x3におけるシュート、とりわけ2Pシュートの重要性がうかがえる。
映像34_2Pシュートの価値①_東京2020_JPNvsLAT_冨永
アメリカvsオランダ(男子予選)の試合では、中盤までロースコアの重苦しい展開が続いていた。しかし残り6分17秒、オランダ #44 スラフター選手が2Pシュートを決めたのを皮切りに、#54 デヨング選手とともに計5本の2Pシュートを決めて攻勢する。わずか3分弱の間にオランダはアメリカを一気に突き放し、試合開始から6分33秒でKO勝利を収めた。
中国vsラトビア(男子予選)の試合では、中国のルーズになったディフェンスに対し、ラトビアは試合開始から次々と2Pシュートを決める。15本中7本(2Pシュート成功率46.7%)を沈め、試合時間6分53秒で22得点を挙げてKO勝利を収めた。これらのことからも、3x3では2Pシュートが試合の戦況を一気に変え得る破壊力を持つことが理解される。
映像35_2Pシュートの価値②_2P攻勢でアメリカを突き放したオランダ
3x3での1試合当たりの攻撃回数はおよそ35回前後となることを考慮した場合、1Pシュートのみで21点を獲得してKO勝利するためには最低60.0%の1Pシュート成功率が必要となる。言い換えると、60.0%に満たない1Pシュート成功率は期待値が高いシュートとは言えない。つまり、3x3においてミドルからロングレンジ(中長距離)の1Pシュート成功率が60.0%以上であれば良いが、それ未満であればチームのシュートセレクションとして積極的に狙うべきか議論すべきところとなる。
例えば、フランスは2ガード編成にて鋭いドライブを持ち味としたスタイルであったが、各対戦チームは特に#15 リムザン選手に対して下がり気味のディフェンスを遂行する。アウトサイドシュートを打たれてもレイアップシュートを簡単に打たせないように警戒していた。それに対して#15 リムザン選手はドライブを仕掛けるもタフショットとなり、終盤では期待値の低い中長距離のプルアップ1Pシュートが増えていった。今大会を通して、フランスは2Pアークから直接セミサークル内へドライブで侵入して得点を挙げた回数は1試合当たり平均3.4回(全体1位)であったにもかかわらず、ミドルからロングレンジの1Pシュートミスにみられるように1Pシュート成功率が46.6%(全体7位)、そしてシュート1本当たりの平均得点値であるシューティング効率が0.46(全体8位)と非常に低い結果となってしまった。
今大会においてフランスの成績が最下位と振るわなかったのは、期待値の低い1Pシュート、特にミドルからロングレンジの1Pシュートが増えてしまったことが原因の一つと言える。
映像36_2Pシュートの価値③_1P主体で苦渋を舐めた女子フランス
3x3におけるトランジションの攻防は5人制とルールが違うため、その仕方は大きく異なる。まず、3x3では両チームが「1つのゴール」を争点とする中で、ポゼッション(ボールの所有)が変わることによって攻守の入れ替えが行われる。その時にボールがライブの状態であればトランジションの攻防となる(ボールがデッドの場合はチェックボールからの攻防となる)。 次に、トランジションの攻防はボールがアーク外側のコートへ運ばれる「ボールクリア前」の攻防、そしてアーク外側のコートから反転しシュートが認められる「ボールクリア後」の攻防となって展開されていく。尚、「ボールクリア前」にシュートを放つとバイオレーションとなる。
ところで、バスケット中心の真下のフロア上からアークまでの距離は5人制の3Pラインと同じ6.75mであり、その範囲はとても狭い。つまり、3x3におけるトランジションの攻防はリバウンドやルーズボールなどでポゼッションが変わるや否や、シュートが認められる「ボールクリア後」の攻防へ移行される可能性があり、その一瞬で得点のチャンスを生み出せる。相手にとっては、その一瞬で失点の危機に直面することを意味する。パリ2024オリンピックにおけるトランジション局面でもこのような即得点もしくは即失点に繋がる主な攻防シーンが見受けられた。
また、3x3はショットクロックが12秒(5人制の半分)であるため、シュート(ゴール)を巡る攻防、とりわけトランジションの攻防がよりスピーディに展開されると試合のペースが一気に上がる。つまり、3x3におけるトランジションの攻防は、この種目の特性を象徴する重要な局面である。
映像37_トランジションOFF
3x3の「トランジションの攻防局面」
男子_DRB後のオフェンス
1試合当たりのPPP
チーム | 最終順位 | PPP | |
---|---|---|---|
1 | アメリカ | 7 | 0.67 |
2 | リトアニア | 3 | 0.64 |
3 | ラトビア | 4 | 0.52 |
4 | ポーランド | 6 | 0.51 |
5 | 中国 | 8 | 0.51 |
6 | セルビア | 5 | 0.50 |
7 | オランダ | 1 | 0.43 |
8 | フランス | 2 | 0.41 |
平均 | 0.524 |
女子_ DRB後のオフェンス
1試合当たりのPPP
チーム | 最終順位 | PPP | |
---|---|---|---|
1 | オーストラリア | 5 | 0.43 |
2 | カナダ | 4 | 0.58 |
3 | ドイツ | 1 | 0.46 |
4 | フランス | 8 | 0.44 |
5 | スペイン | 2 | 0.41 |
6 | アメリカ | 3 | 0.46 |
7 | 中国 | 6 | 0.44 |
8 | アゼルバイジャン | 7 | 0.44 |
平均 | 0.458 |
男子_失点後のオフェンス
1試合当たりのPPP
チーム | 最終順位 | PPP | |
---|---|---|---|
1 | ポーランド | 6 | 0.62 |
2 | オランダ | 1 | 0.60 |
3 | フランス | 2 | 0.59 |
4 | ラトビア | 4 | 0.56 |
5 | アメリカ | 7 | 0.54 |
6 | セルビア | 5 | 0.53 |
7 | 中国 | 8 | 0.50 |
8 | リトアニア | 3 | 0.49 |
平均 | 0.554 |
女子_ 失点後のオフェンス
1試合当たりのPPP
チーム | 最終順位 | PPP | |
---|---|---|---|
1 | アゼルバイジャン | 7 | 0.56 |
2 | オーストラリア | 5 | 0.47 |
3 | ドイツ | 1 | 0.45 |
4 | スペイン | 2 | 0.43 |
5 | アメリカ | 3 | 0.39 |
6 | カナダ | 4 | 0.38 |
7 | 中国 | 6 | 0.37 |
8 | フランス | 8 | 0.34 |
平均 | 0.424 |
男子_相手のTO後のオフェンス
1試合当たりのPPP
チーム | 最終順位 | PPP | |
---|---|---|---|
1 | アメリカ | 7 | 0.88 |
2 | リトアニア | 3 | 0.85 |
3 | セルビア | 5 | 0.80 |
4 | ラトビア | 4 | 0.67 |
5 | 中国 | 8 | 0.62 |
6 | フランス | 2 | 0.57 |
7 | オランダ | 1 | 0.50 |
8 | ポーランド | 6 | 0.44 |
平均 | 0.666 |
女子_ 相手のTO後のオフェンス
1試合当たりのPPP
チーム | 最終順位 | PPP | |
---|---|---|---|
1 | オーストラリア | 5 | 0.68 |
2 | アゼルバイジャン | 7 | 0.66 |
3 | アメリカ | 3 | 0.63 |
4 | 中国 | 6 | 0.62 |
5 | ドイツ | 1 | 0.61 |
6 | カナダ | 4 | 0.48 |
7 | スペイン | 2 | 0.43 |
8 | フランス | 8 | 0.31 |
平均 | 0.553 |