パリ2024オリンピックにおける「技術・戦術」の潮流

ファウルマネジメント

3x3のルール(競技規則)は「ファウルを吹かず、プレーを続けさせる」という明確な判定基準が設けられていなかった時期がある。それに対して2019年、FIBAは東京2020オリンピックに向けて、「3x3における触れ合いに関して5人制と同じ基準とする方針」を打ち出し、審判の判定基準の統一化を図ってきた。現在では、手や腕を使ったプレーや選手の怪我に繋がるプレーに対して積極的にファウルと判定しつつも、プレーに影響のない触れ合いについては「マージナル」とし、ファウルとして取り上げない判定をすることで、スピーディでタフなバスケを目指している。

3x3で注意すべき「スクリーンプレーにおけるファウル」

3x3は5人制と異なり、スクリーンプレーは得点に直結するプレーとなるため、「オフェンスのイリーガルスクリーンに対しては特に意識を持って判定すること」を重点項目として3x3競技規則に明記されている。 特に、スクリーンをかけようとするオフェンスプレーヤーが、押したかどうかに関係なく、腕を伸ばして、または手の平でディフェンスに触れる行為に対して、オフェンスファウルが宣告される。

3x3におけるファウルの判定基準は5人制とほぼ同様であるが、スクリーンプレーのファウルに関しては腕や手の使い方がより厳しく判定されるようになった。パリ2024オリンピックにおいては、この判定基準に対応しきれずにファウルトラブルに陥ったり、フラストレーションを溜めて集中力を欠いたり、なかには敗戦に至ったケースも見受けられた。3x3において、その判定基準の理解は必須事項である。

また、クリアパス・シチュエーションによるアンスポーツマンライクファウルの判定基準に関しても、3x3は5人制と異なるためファウルマネジメントに影響する。5人制の場合、クリアパス・シチュエーションは“イリーガルなコンタクト”を対象として判定されるが、3x3の場合、それは“イリーガルなコンタクトのうち相手を押さえ込んだ「ホールディング」”を対象として判定される。つまり、3x3では、「ブロッキング」や「プッシング」によってクリアパス・シチュエーションと判定されることはない。このことから、3x3では相手オフェンスのドライブで完全に突破されてしまうことでイージーレイアップに直結するような場面でも「ブロッキング」や「プッシング」の範囲内で激しくディフェンスプレッシャーがかけられることがある。特に、チームファウルが6回目までであれば、ディフェンスはドライブ突破された瞬間にイージーレイアップを与えないための戦術的なファウルが使用されることも考えられる。

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映像64_ファウルマネジメント_ムービングピック

チームファウル7回目以降のフリースローと勝敗の因果関係

3x3におけるファウル数は5人制と異なり、選手個人に累積されることがないためノーマルファウルを何度と犯しても、5ファウルによる失格や退場といった処置がなく無制限である。しかし、個人で犯したファウルはチームファウルとして累積され、7回目以降のディフェンスファウルを犯すと相手にフリースロー2本が与えられる。10回目以降のディフェンスファウルを犯すと、相手はフリースロー2本に加えて、ポゼッションも与えられる(ただし、オフェンスファウルの場合はチームファウルが7回目以降であってもフリースローは与えられない)。このことは21点でKO勝利となる3x3において、チームファウルを無制限に累積させて期待値の高いフリースローを相手に何本も与え続けることは、負ける可能性が高まることを意味する。

実際にパリ2024オリンピックでは、7回目以降のチームファウルによるフリースロー試投数に差が出た試合は、男女合わせて43試合あった。そのうち65.1%を占める28試合において、フリースロー試投数を相手により多く与えてしまったチームが負けを喫している。また、その負けを喫した28試合のうち、75.0%を占める21戦がKO負けの結果であった。

3x3において、7回目以降のチームファウルによってフリースローを相手により多く与えることはできる限り避けるべきである。6回目までのチームファウルを犯したとしても、それ以降のディフェンスファウルは不用意に犯すべきではなく、その際のファウルマネジメントは勝敗を分ける非常に重要な要因の一つとなる。

事例:女子準決勝/スペイン vs アメリカ戦 「ファウルマネジメントの失敗による痛恨の敗戦」

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映像65_8:5女子準決W:ESP-USA_ファウルマネジメント

女子決勝進出をかけたスペインvsアメリカの準決勝。アメリカは試合序盤よりテンポよくFGを決めていき、スペインを徐々に引き離して3点リード(スペイン6-9アメリカ)。しかし、戦いが中盤に差し掛かった残り5分34秒にアメリカが6回目のチームファウルを犯してしまう。これにより痛恨の敗戦へと繋がっていくことになる。

実況もこのファウルについて、「アメリカは6回目のチームファウル。3x3でこの状況は、ファウルによってゲームチェンジの可能性が出てきます」と伝えている。試合が再開された直後のアメリカのディフェンス、残り5分21秒に7回目のチームファウルを犯し、スペインに2本のフリースローを与えてしまう。さらに残り4分38秒に8回目、同2分32秒に9回目、同1分47秒に10回目(ただしオフェンスファウルにてFTなし)のチームファウルを犯してしまった。アメリカの選手の表情からは、明らかにフラストレーションをため込んでるように見受けられる。アメリカの試合展開としては、完全にファウルマネジメントのコントロールが失われてしまっている。このようにしてアメリカはチームファウルを重ね、スペインに期待値の高いフリースローを与えながら、試合終盤でとうとう同点に追いつかれてオーバータイムにもつれ込んでしまう(スペイン16-16アメリカ) 。

オーバータイムでは一進一退の攻防が繰り広げられるが、まずはスペインが先制の1点を挙げる。その後の攻防で、アメリカは絶対にスペインの得点を許すわけに行かない状況となる。ベースライン際でボールマンを追い込み、ディフェンスがタイトになった状況で痛恨の11回目のチームファウルを犯してしまう。スペインはそのファウルで得たフリースローを落ち着いて沈め、東京2020オリンピックの金メダルチームはここで敗戦となった(スペイン18-16アメリカ) 。

この試合のFG%を見てみると、スペインの29.0%(9/31)に対し、アメリカは51.9%(14/27)で圧倒していた。しかし、アメリカは7回目以降のチームファウルにより、7本のフリースローをスペインに差し出し、6本を決められてしまった。スペインの総得点18点のうち、30%にあたる6点がフリースローによる得点であった。もし、5人制で相手チームが100得点したとして、その30%にあたる30本のフリースロー成功により負けてしまったとしたら、それは痛恨の敗戦と言えるだろう。3x3では、特に7回目以降のチームファウルをいかに抑えられるか。そのファウルマネジメント如何によっても、勝敗の行方が大きく分かれるのである。