より多くの得点を取るには、ショットの確率(期待値)を上げることだけではなく、ショットの数を増やすことが大切である。ショットの数を増やすためには、ターンオーバーをしないことも大事であるが、ポゼッションそのものを増やす努力も必要不可欠となる。バスケは得点すると相手にポゼッションが移るスポーツなので、ポゼッションを増やす方法は、2つの方法しか存在しない。それはミスショットのオフェンスリバウンドを取ること。もう1つは、各クォーターの最後のショットを自分たちが取ることである。バスケにおいてほとんどのチームが、ゲームクロック24秒以下でポゼッションを得た場合、よほどイージーバスケットのチャンスがない限りは、時間を使い切って攻撃するのはこのためである。つまり、全てのクォーターの最後のポゼッションで自チームがショットできれば、シンプルに相手よりも4回多く攻撃できていることになる。2 for 1(ツーフォーワン)とは、一般的には自分たちが最後のポゼッションを得るために、35秒前後のショットを打つ戦術のことを言う。35秒ほどでショットできれば、相手が24秒オフェンスしても、自分たちに最後の10秒ほど、つまり良いショットを打つために十分なオフェンスの時間が得られるという考え方だ。
ホーバスジャパンのオフェンスコンセプトのひとつはポゼッションを増やすこと。貪欲に2 for 1を狙い、ポゼッションを増やす。FIBAワールドカップ2023、オーストラリア戦での第2クォーター44.7秒からの攻撃で、富樫はわずか6秒程度でショットを放ち、残り37秒でボールはネットを通過した。日本は完全にラストショットを物にしたと思った瞬間だった。しかし、オーストラリアはボールを拾わない。インバウンドするまでに時間を流した。さらにボールを拾ったクックスはインバウンドボールを転がしてコートに入れ、時間が残り24秒ほどになったところで、PGのエクサムがボールを掴んだのだった。つまり、オーストラリアによって2 for 1が消されてしまったのである。
映像161_2 for 1 (ツーフォーワン)を考える_日本がトライした2for1
パリ2024オリンピックでは、ドイツ戦で日本は逆に2 for 1のチャンスを与えている。八村が2投目のFTを決めたのは、残り36.4秒。40秒を切ると時間が短すぎるため、2 for 1を狙わないチームは多い。しかし、ドイツはボールを転がしてインバウンドし、ハーフライン付近でシュルーダーがボールを取ると、シンプルなセットプレーから見事に#42オブストが3ptを決めた。シュートがリリースされたのはわずか4秒後の32.4秒、ボールがネットを通過したのは残り30.8秒ほどだった。ここで、河村は素早くアウトレットの動きをし、ホーキンソンが慌ててパスをした。河村がボールを受けたのは28.6秒ほど、ドイツには4〜5秒ほどしかオフェンスの時間がないことになるが、結果的に残り7秒で八村がFTを獲得し、ドイツは最後のポゼッションで#9ワグナーのワイドオープン3pt(ミス)まで繋げている。
ドイツは見事に2 for 1を成功させた。注目して欲しいのは、28.6秒で河村がインバウンドを受けた時に、#17シュルーダーは河村付近まで来てマッチアップしようとしていることだ。この後、河村がボールを受けたのを見て下がっている。非常に細かいことだが、2 for 1のショットを成功させた後に、河村に時間を稼がせないようにしていると考えられるのである。
2 for 1は自分たちが35秒前後でショット打つかどうかというだけではなく、”相手の2 for 1を無効にするスキル”、”さらにそれをさせない動き”など、細かい様々なスキルが隠されていると、オーストラリア、ドイツは教えてくれる。
映像162_2 for 1 (ツーフォーワン)を考える_ドイツの2for1