おわりに

「胸を張って日本に帰るぞ!」

ブラジルに完敗し、男子日本代表のパリ2024オリンピックは3連敗で幕を閉じた。「胸を張って日本に帰るぞ!」は、試合直後のコート上のハドルで渡邊雄太が最初にチームに発した言葉である。敗北の直後で明るい表情の選手はいない。しかし、選手たちは自分を納得させるように、渡邊の言葉に頷いた。

スポーツは残酷だ。勝者の裏には必ず敗者がいる。目標を達成できる者も、できない者もいる。日本代表は目標であったベスト8進出を逃した。彼らは敗者だったのだろうか。確かに勝利は大事だ。特にプロスポーツにとって、国を代表するチームにとって、”結果がすべて”という考え方は否定できない。だからこそ人々はスポーツに、バスケに熱狂する。しかしながら、決して結果が保証されないバスケにおいて、我々は敗北から何を得るべきなのか。この渡邊雄太の言葉は、私たちに大切な何かを思い出させてくれる。

パリ2024オリンピックへの出場が決定した2023年9月2日から約1年間、日本中が期待・希望・夢を膨らませた。3連敗という悔しい気持を抱えつつも、”日本はやれる”という自信・勇気をもらった人々が大多数だったのではないだろうか。この結果は決して”落胆”ではなく、次のステージへの”エネルギー”、「次は自分だ」という”モチベーション”へつながっていることだろう。そういう意味でも、この1年間は日本バスケ界全体の大勝利だった。それだけ、オリンピック出場には価値があった。

一方で、勝利というものは儚い。パリ2024オリンピックという”祭り”が終わった今、日本代表に保証されているものは何もない。今大会以上に大きな期待のかかるロス2028オリンピックへの出場に向けて、全てを1からやり直さなくてはならないのだ。日本はすでにFIBAアジアカップ2025の出場権を獲得し、同時にFIBAワールドカップ2027予選への出場権も獲得した。FIBAワールドカップ予選は、約1年半の間に12試合を行う長い長い戦いだ。そして、カタールで開催されるFIBAワールドカップ2027でアジア1位を獲得する。これが、あのフランス戦での”借り”を返すために、もう一度あの舞台に立つために成し遂げなければならないことである。

この長いプロセスの中では、また必ず新しいスターが誕生することだろう。チームに必要とされる選手はどこから生まれるか分からない。名門校や名門クラブからかもしれないし、町の小さなクラブからかもしれない。あなたのチームからかもしれない。このパリ2024オリンピックを総括するテクニカルレポートと出会ったコーチ、関係者、そしてその指導を受けた選手のバスケ人生が豊かなものになることを切に願っている。日本代表になることだけがバスケ選手としての価値ではない。「胸を張って帰るぞ!」と自ら言える、そんな選手が日本中に増えていくことも私たちの願いである。

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映像164_胸張って日本に帰るぞ