パリを振り返って(オフェンス)

ピック&ロール

現代バスケでチャンスを作り出すアクションとして、最も使用されているのがPNRと言える。ベルギーはシュートの40%がPNRから生み出されており、PPPは全体1位の0.951と高い効率でPNRを使っていたことがわかる。日本も同様にPNRを用いて36.7%のシュート生み出していた(全体4位)。OQTではPPP1.21と驚異の数値を叩き出した。しかし、パリ2024オリンピックでは0.638と低くなった。PNRはズレを作ることやミスマッチを作ることが目的である。パリ2024オリンピックは顕著にスクリーンを壊されることやハンドラーが押し上げられることが多くなっていた。

TEAM Pick&Roll Include Pass PPP


%Times POSS 得点 PPP TO%
パリ2024
オリンピック
36.7% 31.3 20.0 0.638 14.9%
FIBA OQT 2024 43.3% 33.3 40.4 1.210 10.0%
FIBA女子ワールドカップ
2022
37.2% 30.0 24.4 0.813 12.7%

PICK&ROLL %TIME RANK


PNR ALL HANDLER PASS OUT SCREENER SPOT OFFENSE
%T PPP %T PPP %T PPP %T PPP %T PPP RANK PPP FINAL
1 ナイジェリア 40.7% 0.694 22.6% 0.588 22.3% 0.671 6.8% 1.000 21.5% 0.842 8 0.791 8
2 ベルギー 39.9% 0.951 14.3% 0.781 29.9% 0.895 12.2% 1.177 24.6% 0.864 2 0.910 4
3 フランス 39.3% 0.780 21.5% 0.723 21.3% 0.730 9.0% 0.915 22.0% 0.861 5 0.868 2
4 日本 36.7% 0.638 13.3% 0.559 26.6% 0.603 10.5% 0.704 27.3% 0.814 10 0.773 12
5 スペイン 33.5% 0.835 15.7% 0.611 21.9% 0.840 5.0% 1.118 28.9% 0.909 7 0.843 5
6 オーストラリア 32.9% 0.946 17.8% 0.725 19.2% 0.969 8.4% 1.349 21.2% 0.917 4 0.869 3
7 プエルトリコ 32.5% 0.713 18.3% 0.644 15.9% 0.718 6.1% 0.600 20.7% 1.000 11 0.707 10
8 中国 28.7% 0.877 10.6% 0.370 19.7% 1.120 8.3% 1.571 29.9% 0.895 3 0.894 9
9 セルビア 27.2% 0.468 16.5% 0.404 13.9% 0.438 3.5% 0.667 21.2% 0.973 9 0.777 6
10 ドイツ 26.9% 0.904 13.2% 0.783 17.5% 0.836 6.9% 1.250 21.2% 0.878 6 0.851 7
11 カナダ 26.5% 0.548 16.7% 0.609 13.8% 0.316 4.7% 0.692 11.6% 1.000 12 0.687 11
12 アメリカ 21.8% 0.875 11.5% 0.651 13.5% 0.892 3.8% 1.190 18.4% 0.802 1 0.936 1

対戦相手別のPPPが表の通りである。相手が日本に対して行ったディフェンスは、単純にスイッチするのではなく、ベースはコンテイン系でフィジカルに守り、選手の特徴に合わせてディフェンス方法を変えていた。ここは日本の弱みが露呈した結果になった。
相手もスカウティングをしている。ただし、PNRとOFF Screenを合わせることなどでオープンシュートが生まれていた。ボールサイドとヘルプサイドでアクションを入れることで、守りづらい状況を作り出せた。ただ、シンプルにシュートを決めるということができなければ、どんなカウンターを準備しても得点につながらない。安定したシュート力というのが課題になった。

PNR


PPP PTS Coverage
vs アメリカ 0.767 30 コンテイン・スイッチ
町田:アンダー
vs ドイツ 0.650 40 コンテイン・スイッチ
町田:アンダー
vs ベルギー 0.458 24 アイス・スイッチ

対戦相手のディフェンス方法別に分析してみると、数ではスイッチが多く起きていた。その次にアンダー、コンテインと続く。注目するのはコンテインへの攻撃は成功していたと言える。髙田のスクリーンやガード陣のクリエイトは、教科書とも言えるほどのクオリティだった。スイッチは髙田のポストを起点とすることや、シューターのゴーストスクリーンでチャンスは作り出せていた。これは練習で準備してきたことが実ったと言えるだろう。ただし、スイッチやアンダーに対して無理な1on1やシュートを決め切るといった部分が課題となった。

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映像97_コンテインカウンター

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映像98_アンダーをされたことで、味方のチャンスを生み出す機会が減少

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映像99_アンダーに対して3Pを決め切ることが重要となる

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映像100_最もオフェンス効率が低かった vs アイス

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映像101_他国のアイスカウンター

PNR

Coverage PPP POSS PTS
スイッチ 0.72 61 44
アンダー 0.82 22 18
コンテイン 1.00 20 20
アイス 0.30 10 3
ショーハード 2.00 1 2

OQTでは、PNRのPPPが1.21と非常に高い効率を記録した。その要因は、ハンドラーの得点効率の高さ(PPP 1.13)にあった。ハンドラーが脅威になれば、スクリーナーやオフボールの選手に大きなチャンスを与えることができる。そう言った意味では、今大会は悔しい結果になった。ハンドラーのPPPが0.638であった。ただ、ここから学び、成長の種としていくことが必要である。

PICK&ROLL INCLUDE PASS


POSS PTS PPP TO%
#13 町田 12.0 7.3 0.611 19.4%
#32 宮崎 10.3 9.0 0.871 9.7%
#23 山本 8.0 6.0 0.750 0.0%
#27 林 1.7 0.0 0.000 20.0%
#12 吉田 1.5 0.0 0.000 66.7%
#15 本橋 1.3 0.0 0.000 25.0%
#30 エブリン 1.0 1.0 1.000 0.0%
TEAM 31.3 20.0 0.638 14.9%

ハンドラーが相手に脅威を与えるスキルが、プルアップ3Pである。今大会は山本が1本のプルアップ3Pを決めたが、OQTでの3Pシュートは75%と高確率に決めていた。セットアップからディフェンスを翻弄し、少しのズレでシュート打てるスキルは日本の育成でもモデルになると考える。

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映像102_山本のPNRスキル

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映像103_町田のPNR スキル

PNR


POSS PTS PPP 2pt 3pt TO%
#32 宮崎 4.3 2.0 0.462 33.3%
(0.7/2.0)
0.0%
(0.0/1.3)
15.4%
#13 町田 3.0 1.7 0.556 50.0%
(0.3/0.7)
33.3%
(0.3/1.0)
44.4%
#23 山本 3.0 3.0 1.000 0.0%
(0.0/1.0)
50.0%
(1.0/2.0)
0.0%
#27 林 1.0 0.0 0.000 0.0%
(0.0/0.3)
0.0%
(0.0/0.3)
33.3%
#30 エブリン 1.0 1.0 1.000 50.0%
(0.3/0.7)
- 0.0%
#12 吉田 1.0 0.0 0.000 - - 100.0%
#88 赤穂 0.3 0.7 2.000 - - 0.0%
#75 東藤 0.3 0.0 0.000 0.0%
(0.0/0.3)
- 0.0%
TEAM 11.3 6.3 0.559 30.8%
(1.3/4.3)
20.0%
(0.7/3.3)
23.5%

日本は全員3Pを打てることを強みとしてきた。それは今後も大きく変わらないだろう。ビッグマンがピックポップができるというのは、コンテインディフェンスに対してカウンターになりうる。今回は髙田が60%の3P成功率だった。国内でもビッグマンの3Pの重要性が理解され始めているが、まだまだ3Pが打てるビッグマンが多いとは言えない。

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映像104_高田のスクリナーとしてのスキル

SCREENERS SCORE


POSS PTS PPP 2pt 3pt
#8 髙田 2.7 3.7 1.375 0.0%
(0.0/0.7)
60.0%
(1.0/1.7)
#88 赤穂 1.7 0.7 0.400 0.0%
(0.0/1.0)
0.0%
(0.0/0.3)
#27 林 1.3 1.0 0.750 0.0%
(0.0/0.3)
33.3%
(0.3/1.0)
#30 エブリン 1.3 1.0 0.750 0.0%
(0.0/0.3)
33.3%
(0.3/1.0)
#3 ステファニー 1.3 0.0 0.000 0.0%
(0.0/1.0)
0.0%
(0.0/0.3)
#23 山本 1.0 0.0 0.000 - 0.0%
(0.0/1.0)
#52 宮澤 0.5 0.0 0.000 0.0%
(0.0/0.5)
-
TEAM 9.0 6.3 0.704 0.0%
(0.0/3.7)
35.7%
(1.7/4.7)

日本代表の強みを活かした数多くの攻撃パターンを4つに分類した。
最初はPhase 0はセットプレー、Phase 1がトランジションやドラッグスクリーンなどの24秒の早い時間で行われる攻撃、もしPhase 0、Phase 1でシュートが打てない場合はPhase 2に移行し、サイドでPNRを行う。Phase 2でシュートが打てない場合は、Phase 3に移行し、2ガードポジションでのアクション(ステップアップスクリーン)を行いチャンスを作り出す。最終的にオフェンスが崩れた時はSpain PNRでチャンスを作り出す。このように攻撃をシステム化し共通認識をもち、その場で選手たちが瞬時に判断できるように準備をした。

PLAY CALL [OQT]


POSS PTS PTS/POSS FGM FGA PAINT M PAINT A PAINT% MID M MID A MID% 3P M 3P A 3P% FT SET FTM FTA TO O.REB 2nd Chance PTS TTP
"PO" 52 55 1.06 20 34 15 19 78.9% 0 1 0% 5 14 35.7% 6 10 10 2 3 2 28
"P1" 73 58 0.79 23 50 15 26 57.7% 2 4 50% 6 20 30% 5 6 8 11 4 0 43
"P2" 7 5 0.71 2 5 1 2 50% 0 0 0% 1 3 33.3% 0 0 0 2 1 0 2
"P3" 7 4 0.57 1 3 1 2 50% 0 0 0% 0 1 0% 2 2 4 0 0 0 5
"Spain PNR" 27 29 1.07 10 22 4 6 66.7% 0 3 0% 6 13 46.2% 1 3 3 3 2 3 11

PLAY CALL [パリ2024オリンピック]


POSS PTS PTS/POSS FGM FGA PAINT M PAINT A PAINT% MID M MID A MID% 3P M 3P A 3P% FT SET FTM FTA TO O.REB 2nd Chance PTS TTP
"PO" 27 24 0.89 8 20 3 5 60% 1 2 50% 4 13 30.8% 2 4 4 3 2 0 12
"P1" 24 15 0.63 6 17 4 6 66.7% 0 1 0% 2 10 20% 1 1 2 1 1 0 12
"P2" 42 25 0.6 10 36 5 10 50% 1 10 10% 4 16 25% 1 1 2 4 3 0 17
"P3" 7 4 0.57 0 1 0 0 0% 0 0 0% 0 1 0% 1 4 4 2 1 0 2
"Spain PNR" 32 22 0.69 8 24 3 11 27.3% 0 2 0% 5 11 45.5% 1 1 2 4 4 0 17

FIBAオリンピック世界最終予選(OQT)とパリ2024オリンピックのオフェンスでフェーズごとで分類し見てみると、攻撃構成と得点期待値に違いが見えた(ファストブレイクのシュート、OBプレーは除く)。FIBAオリンピック最終予選ではP0(セットプレー)のPossが多く、期待値が1を超えていた。また、P1(トランジションアクション)でPossが多く、P2やP3のPossが少ないことからアーリーオフェンスの早い段階でシュートをシーンを作り出していたことがわかる。パリオリンピックではP0とP1が少なく、P2のPossが多くなった。得点期待値でみると1を超えている局面がなかった。下記ではP2を分析していく。

PLAY CALL POSS PTS PTS/POSS
P2 27 12 0.44
P2 Reject 4 2 0.5
P2 J 5 5 1
P2 I 4 6 1.5
P2 L 2 0 0

パリ2024オリンピックにおいて、P2のシュートシーンが多かった。P2を分解した時にサイドPNRからシュートが最も多く、シュートを決めることができなかった。オープンなシチュエーションを作ることもできたが、プルアップ3Pやミッドジャンパーが多く、得点期待値が高いペイントのシュートが少なかった。ただし、P2JやP2Iは得点効率が1を超えており、素晴らしいオフェンスであった。

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映像105_Phase

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映像106_得点期待値が上がらなかったシュート

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映像107_メインオフェンス