今大会を終えた後、スタッフ、選手に対して課題をヒアリングした時に『フィジカル』というワードがあがってきた。そこでこのレポートを作成するにあたって、課題のあったフィジカルというテーマで記していくことが、今後の日本バスケ界にとっても有益と考えた。まず、代表選手のトレーニングを担当しているスポーツパフォーマンススタッフ(SPスタッフ)とコーチ陣とのミーティングを行った際に、SPスタッフからフィジカルという言葉を再定義することが重要と指摘があった。確かに、フィジカルと言っても何を指しているのかが曖昧なままだと、何を改善するのか具体的な解決策を導き出すことは難しい。
SPスタッフにとって『フィジカル』は、骨格、筋力、パワー、スピード、持久力というような要素で構成されている。しかし、スタッフや選手が感じた課題が『フィジカル』という言葉で片付けられるかと言えばそうではない。したがって、実際に現場で感じていた課題を整理すると同時に、我々の認識を合わせる必要があると考える。
これまでバスケにおいて「フィジカル」という言葉は上述している通り、身体的な強さやサイズ、スピード、持久力などを総称して語られることが多かった。そして選手に対して「フィジカルが弱い」という評価が下されるとき、それは単に筋力が足りない、あるいは身体が細いといった意味で使われることが一般的だった。しかし、この評価方法は表面的な部分に留まっており、真の課題を捉えきれていない可能性がある。実際の試合の中で選手が「当たり負けしている」「ぶつかった時に不利な姿勢になっている」「接触を嫌がっている」といった場面が見られたとき、それは本当に“フィジカルが弱い”ことが原因なのだろうか。私たちはここで「フィジカル」という言葉を一度解体し、より実戦的かつ指導可能な要素として再定義する必要がある。
バスケにおける接触プレーの中で重要なのは、単なる筋力や体格ではない。「どう当たるか」「どのタイミングで接触するか」「当たりながらも自分のバランスを保てるか」といった技術的な側面が非常に大きい。つまり、試合での接触に強くなるためには「フィジカル」ではなく、「フィジカル」をその要素に含めたより広い意味での「コンタクトスキル」を高めることが重要なのだ。ここで言うコンタクトスキルは、『対戦相⼿の能⼒や試合ごとの審判の判定基準に合わせて積極的に相⼿にコンタクトすることで、アドバンテージを作るスキル(能⼒)のこと』と定義される。コンタクトスキルには「心技体」に相当する下記の3つの要素が含まれる。
繰り返しになるが『フィジカル』、つまり、骨格(身長・体重)、筋⼒・パワー、スピード・アジリティ、持久力などは「コンタクトスキル」の1つの要素である。したがって、体重を増やしたりや筋力を向上したりしたからといって、バスケにおけるコンタクト・接触に強くなれるというわけではない。とはいえ、物理的に体重が重い選手の方が軽い選手よりもコンタクトに有利なのは明らかである。したがって、コンタクトを向上するために体重を増やす取り組みをすることは多くみられる。ここで注意が必要なのは、体重を増やしても体重相応の筋力やパワーがなければ、体の動きが遅くなったり、ケガのリスクが増えたりする可能性がある。これを考慮してフィジカルの向上に取り組むべきである。
マインドセットは、体格差のある相手に⽴ち向かい続ける気持ちである。
「フィジカル」の観点から自分よりも体の大きな選手とマッチアップを強いられることが多い日本代表選手にとって、このマインドセットは「バスケットボールのスキル」と共に重要である。