日本代表選手に求められるスキル

オリバー氏の分析から見える日本代表がステップアップするための条件

本章では、バスケットボールにおける統計分析の先駆者であり、「Four Factors」などの重要な指標を考案したディーン オリバー氏による「Net Points」を用いた日本代表男子チームの分 析を紹介する。オリバー氏は、オリンピックに向けた強化試合の段階から継続的に日本代表のパフォーマンスに関する統計的フィードバックを通じて支え、本大会後も独自の視点から統計的 な振り返りを行なってもらった。

オリバー氏のNet Points分析とは??

「Net Points」は、チームや選手が試合の勝敗にどの領域においてどれだけ貢献したかを数値化する指標である。単なる得失点差ではなく、各プレーの影響を評価し、どの要素が勝敗にどれだけ寄与したかを明確にする。理想的にはプレーバイプレーデータを用いて計算されるが、今回はボックススコアデータを基に推計された。この方法は特にディフェンス面での評価精度が低下するものの、おおよその傾向を把握するには有用であるとオリバー氏は考えている。

Net Points分析から見える「ポゼッションの戦い」に関する評価

日本代表は、ターンオーバーやリバウンドといった「ポゼッションの戦い」において、過去の国際大会と比較して一定の改善を果たしたと評価できる。守備面におけるターンオーバーに関しては、ドイツ戦ではほとんど誘発できず、大会ワーストの数値を記録したが、フランス戦やブラジル戦ではむしろ平均以上を記録した。攻撃面ではターンオーバーが少なく、全体の収支で見るとターンオーバーの戦いにおいて大きな遅れをとる要因とはならなかった。

リバウンドについては長年日本代表の課題と言われたが、この指標に基けば今大会で大きなマイナス要因にはならなかったと考察できる。ドイツ戦ではグループステージ2番目に良いリバウンドパフォーマンスを記録し、過去の大会と比較しても一定の成長があったことは評価できる。ただし、フランス戦やブラジル戦ではリバウンド面でのアドバンテージを確保できず、試合によって波があった点は課題として残る。

つまり、ターンオーバーとリバウンドを合わせたポゼッション争いでは、日本は強豪国相手に互角に戦えていた。ただし、本当の意味で「勝負の土俵」に立ち、強豪国に勝ち切るためには、どれか1つだけではなく、全ての要素が大切になってくる。

「シュートの競争」で敗れた日本代表

バスケットボールの勝敗は最終的に「シュートの精度」に大きく依存する。今大会、日本代表は3ポイントシュートによる強みを発揮したものの、2ポイントシュートの効率の低さが勝敗に直結した。日本は3ポイントシュートによってNet Points上で+9.7得点(大会3位)という大きなアドバンテージを得ることができ、これはチームの競争力を大きく押し上げる要因となった。しかし、2ポイントシュートの成功率が低く、日本の2ポイントシュートにおけるNet Pointsは-11.9と、大会ワーストクラスの成績だった。2ポイントシュートのNet Pointsがマイナスのチームは16試合中4勝しかできなかったことからも、日本が勝利できなかったことと強い相関があると考えられる。フランス戦は延長線に持ち込まれた鮮烈な記憶の残る試合ではあったが、全体を通して見ると2ポイントシュートの決定力不足が勝敗を分ける1つの要因となった。