残り16.4秒。日本を4点リードにする河村のFTが決まり、フランス側がタイムアウトを請求する。多くの人が99%勝利を確信した場面であったのではないだろうか。しかし、実際はそうはならなかった。
私たちにできたことは何なのか、を考えていきたい。4点リードというのは、非常に分かりやすい場面である。ワーストケースは3ptに対してのバスケットカウント、いわゆる4点プレーだけだ。それ以外の結果であれば、どんな形で相手がスコアをしても、自分たちがリードした状況で再びポゼッションを獲得できる。つまり、「絶対にファウルだけはしない」ということをチーム全員が理解し、タイムアウトで確認し合い、コートに戻ったのだった。
そして、日本はタイムアウトを1つ残していた。ショットを決められてもタイムアウトを取ればフロントコートからオフェンスをスタートできる。それも、ベンチで確認されていた事の1つである。
“分かっている”と、”できる”には大きな隔たりがある。また例え、”ファウルをする”、”ファウルをしない”という共通理解があったとしても、その表現方法は選手によって微妙に違いがあるかもしれない。
バスケの試合会場、スタッド・ピエール・モーロワは異様な雰囲気だった。アリーナには日本のファンも多く駆けつけていたが、圧倒的にフランスのホームコートであり、試合を通して日本にとっては完全なアウェーであった。フランスの応援の熱は凄まじいエネルギーだった。一方で、河村がシュートを決めるたびに、日本ファンの少しの歓声と、驚きのどよめきが混じり合う。少しづつ会場のリスペクトを勝ち取りつつあった。しかし、”負けるかもしれない”とフランスファンに感じさせる4点差へのFTを打つ時には、会場全体から大きなブーイングが巻き起こっていた。
日本代表の選手、コーチたちは、どれだけの期待を背負っているか理解していた。48年ぶりに自力で勝ち取ったオリンピック。世界屈指の強豪国フランスに対して、勝利が目前まで迫っている。日本バスケの歴史上、1番の快挙になることは間違いない。時差がある中、日本では数千万の人がテレビの前で応援している。
あの時、あの会場で、”いつもできているプレー”をすることがどれだけ難しいか、我々は理解しなければならない。そして、選手たちは試合を通して何度も何度も、奇跡的なパフォーマンスを出し続けていた。もし、あの場所にいたら一体何ができたか? 我々は、考えるきっかけを与えられたのかもしれない。
試合終盤の攻防の複雑さはバスケの醍醐味でもあり、様々なドラマがある。もちろん、勝つチームがあれば、負けるチームもある。
エンド・オブ・ゲームには無数のシチュエーションが存在し得る。リードしているか、リードされているか。得点差。残り何秒なのか。チームファウル、個人ファウルの数。お互いのタイムアウトの数。ホットな選手は誰なのか。シューターは誰なのか。危険なリバウンダーは誰なのか。相手が何をしてくるかも考えなければならない。様々なシチュエーションに対して、できる限り準備をしているコーチも多い。しかしながらこれらの準備は、一生出会わないかもしれないシチュエーションに向けての準備になるかもしれないのだ。
あの3ptを決めた#85ストラゼルは河村の1つ年下、2002年生まれの22歳だ。あれがファウルだったかどうか世界中で議論が巻き起こったが、もしファウルではなかったとしたら、完璧なディフェンスをされていたことになる。フランスの歴史的な敗戦になりかねない追い詰められた状況で、技術的にもメンタル的にも難しいショットをバランスを崩しながら決め切ったストラゼルを讃えたい。
映像163_エンドオブゲームを考える_16.4秒のタイムアウト
日本 vs フランス ハイライト