ホーバスジャパンの改革

ヒットファースト

バスケにおいて、高さ、速さが重要であることは疑う余地はないが、現代バスケにおいては、コンタクトの強さ、コンタクトのスキルがさらに重要視されている。日本代表は、長年に渡って世界とのフィジカルの差(ここでは、身体の大きさ、スピード、強さを総称して”フィジカル”と定義する)に悩まされてきた。日本が世界と比べて、高さで劣っていることは誰もが知る事実であるが、”コンタクトの強さ”も長年の課題であった。過去の世界大会では、大会に行くたびに多くの選手が「世界はフィジカルが違う」という感想を残してきた。しかしながら、近年その差は確実に縮まって来ており、東京2020オリンピックではインタビューなどで”フィジカルの差”を敗因にあげる選手はいなくなっていた。日本人選手がNBAで活躍していること、またBリーグにおいてもNBA経験のある外国人選手が多数プレーしており、フィジカルレベルがどんどん上がっていることが要因と考えられる。

このフィジカルレベルの向上の背景には、選手のウェイトトレーニングを含めた体づくりへの取り組みの変化もあるようである。2016年のBリーグ発足時から男子代表のフィジカルトレーニング担当をしているスポーツパフォーマンスコーチの佐藤晃一とそのスタッフによると、Bリーグ発足当初の代表活動においてはトレーニングを通じた体づくりに積極的に取り組む選手は現在に比べて少なく、試合と試合の間の期間を回復の期間として捉え、シーズン中のトレーニングを重要視していた選手は現在に比べて少なかったそうである。一方で、現在はシーズン中でも高い強度でトレーニングに励んでいる選手が多い。また、これらの体づくりは世界とのフィジカルの差を埋めるためだけでなく、ケガの予防にも役立っていると考えられている。

コート外での選手の体づくりへの取り組みに変化が起きた一方で、ホーバスHCはこの3年間、コート上でさらなるフィジカルの向上に取り組んできた。バスケットボールの中でコンタクトをする習慣をつけずに、トレーニングを通じて体づくりだけをしても試合において効果がないことは明白である。相手に当たられるのではなく、自分たちからコンタクトを求める”ヒットファースト”のメンタリティがその中心であり、また日々の練習の中にはコンタクトしなければならないドリルが散りばめられ、コンタクトが習慣化してきた。特にディフェンスにおけるコンタクトは重要であり、ドライブに対しては手を使わずにボディアップすることを常に求めている。カッティングやスクリーンに対しても、強いコンタクト無しで世界と競うことは不可能なのである。

全ての選手に求められる”ヒットファースト”というメンタリティではあるが、ホーバスジャパンにおいて、特にそれを体現し続けているのが、吉井である。吉井は自分よりも20cm以上大きい相手に対してコンタクトを厭わず、パリ2024オリンピックでは全てのポジションの選手に対して、そのフィジカルの強さを発揮した。ドイツ戦でのシュルーダーやフランス戦のフォーニエといったNBAレベルのガードへのマッチアップに始まり、スイッチしてもフランスのヤブセレ、ゴベアといった世界屈指の体躯を持つ選手たちにも全くひけを取らないディフェンスを披露した。サイズで劣ると思われている日本のフィジカルの強さは、世界を驚かせたと言って良いだろう。

▶ 動画を見る

映像10_ヒットファースト_ディフェンス

▶ 動画を見る

映像11_ヒットファースト_練習ではコンタクトが日常

▶ 動画を見る

映像12_ヒットファースト_練習ではコンタクトが日常(バンプ&シュート)

▶ 動画を見る

映像13_ヒットファースト_ドライブ:強くプレーする vsコンタクト