FIBAワールドカップ2023ではディフェンスPPPが0.930で大会10位という素晴らしい成績だったが、各試合ごとのディフェンスPPPを見るとベネズエラやカーボベルデなどの下位チームに対してと、ドイツ、オーストラリアなどの上位チームに対しての数字に大きく偏りがあることが見えた。つまり、下位チームの存在しないオリンピックレベルの相手にどれだけ良いディフェンスができるかというのが、ホーバスジャパンにとっての1番のチャレンジであった。
POSS / PPP
(FIBAワールドカップ2023)
POSS | PPP | |
---|---|---|
ドイツ戦 | 85 | 0.953 |
フィンランド戦 | 90 | 0.978 |
オーストラリア戦 | 98 | 1.112 |
ベネズエラ戦 | 93 | 0.828 |
カーボベルデ戦 | 92 | 0.772 |
FIBAワールドカップ 2023 |
91.6 | 0.930 |
FIBAアジアカップ 2022 |
91.2 | 0.853 |
東京2020 オリンピック |
91.3 | 1.073 |
FIBAワールドカップ 2019 |
87.4 | 1.059 |
FIBAワールドカップ2023では、日本のバックコートからのプレッシャーディフェンスは、決して悪いものではなかった。しかし、レベルの上がるオリンピックでの相手を想定すると、より強力なバックコートからのプレッシャーディフェンスが必要とされた。そのために「オフェンスの課題」でも取り上げたように、よりクオリティの高いタグアップシステムをトレーニングし続けた。しかしながら、大会開幕前のヨーロッパ遠征で、相手チームのスカウティングに起因するデメリット、また日本代表チームとの相性を見直すこととなり、結果的にシステムのアップデート(アジャスト)をすることとなった。(詳細については後の章で触れる)
FIBAワールドカップ2023の課題の1つは、ディフェンスにおいて相手のTOをどれくらい増やせるかということである。特に自分たちのファーストブレイクを生みやすいライブTOは、時に試合を決定づけるプレーにも繋がる。ホーバスジャパンは様々な方法で、相手を驚かせTOを奪う方法を試みてきた。
数字だけを見ると、日本は相手TO数(OPPONENT Turn Over)が平均12.8個で24位とまだまだ上を目指さなくてはならない。上位チームと比べると、約3つのTOの差は本当に大きい。しかしながら、FIBAワールドカップ2023では数種類のプレスディフェンスを織り交ぜながら、いくつかの決定的なTOを誘い、試合のモメンタムを変える場面を作った。
特にローディングからのトラップは、3年間継続的に取り組んで来たシステムの1つである。コールではなく、試合の中での選手の”読み”で行われるローディングトラップは、すでに阿吽の呼吸で行われるようになってきた。
パリ2024オリンピックでも、いくつかのプレスディフェンスを準備して大会に挑んだ。しかしながら、オリンピックレベルのチームがプレスディフェンスに対して簡単にTOを犯すはずもなく、逆にイージーな2点を与えかねないというリスクがあることも理解しなければならなかった。
映像58_相手TOを増やす_ローディングトラップ
OPPONENT TO% RANK (1-16)
順位 | チーム | Basic | OPPONENT Turn Over | |
---|---|---|---|---|
PPP | TO% | TO | ||
1 | モンテネグロ | 0.914 | 18.3% | 15.6 |
2 | セルビア | 0.915 | 17.5% | 15.9 |
3 | イタリア | 0.962 | 17.4% | 14.4 |
4 | コートジボワール | 1.033 | 17.2% | 15.2 |
5 | オーストラリア | 0.950 | 16.7% | 15.0 |
24 | 日本 | 0.930 | 13.3% | 12.8 |
29 | ブラジル | 0.983 | 11.9% | 10.8 |
30 | フィリピン | 0.928 | 11.7% | 10.8 |
31 | 中国 | 1.088 | 11.3% | 11.0 |
32 | リトアニア | 0.971 | 9.8% | 9.0 |
最大のポイントは、ウィングからのジャンパー(2ptでも3ptでも)を外させた場合に、多くのオフェンスリバウンドを許してしまった。これはNBAと比較してもかなり多い数字である。
これらのプレーを見たところ、上部に位置していたガードがあと1~2歩ペイント内に入っていれば防げたオフェンスリバウンドがいくつかあった。いわゆる「ロングリバウンド」がリムから約12フィートの位置に飛び、そこをボックスアウトされた相手に拾われていた。ガードがこのエリアに入ることで改善が見込める(また、ガードがディフェンスリバウンドを取ることで、トランジションオフェンスを加速させることも可能)。
リバウンドは最重要な要素ではないが、1試合あたり4.3ポイントを失うのは厳しい数字で、この点に改善の余地がある。オーストラリアとカーボベルデはペイント内でのシュートから多くのオフェンスリバウンドを獲得していた。
このリバウンドは、ディーン・オリバー氏のデータを活用し、オリンピックに向けて改善を図ったパートである。FIBAワールドカップ2023では、「ウィング(45度)の位置からショット(2pt,3ptに関わらず)されたシュートにおいて、NBAの平均よりもかなり高い割合でオフェンスリバウンドを取られている」というデータが元になっている。これらのショットを分析したところ、ガードが後1〜2歩ペイントに入ることで防げていたものがいくつかあり、練習の中でロングリバウンドをペイントで獲得することを意識づけた。
Where Shot Was Taken that Led to Offensive Rebound -Dean Oliver-
Wing J | Corner J | Paint | FTx | Putback | Transition | |
---|---|---|---|---|---|---|
Japan D | 44% | 15% | 29% | 4% | 5% | 4% |
NBA Ave | 30% | 13% | 34% | 2% | 7% | 13% |
日本の永遠の課題であるディフェンスリバウンドは、成功したFIBAワールドカップ2023においても満足できるものではなかった。DRB%(ディフェンスリバウンド%)は、相手が外したショットのうち、どれくらいの割合でディフェンスリバウンド(以下、DR)を取れているかを表している。テクニカルハウスでは「70%=グッド、75%=グレート」と定義している。実際、FIBAワールドカップ2023においてはDRB%が70%を超えたチームは32チーム中ちょうど半分の16チーム。75%を超えたのは優勝したドイツだけだった。
2019年WC時点では59.2%(最下位)でしかなかった数字は、東京2021、FIBAワールドカップ2023では、約5%向上させてきた。これだけでも大きな成果ではある。しかしながら、64.0%という数字はFIBAワールドカップ2023の32チーム中28位。ポジティブに見れば、まだまだ日本は向上できるチャンスがあるということである。5%という数字は、本数で考えるとわずか2,3本のDRの差である。しかし、その小さな差を埋めるには、大きな努力が必要である。
DR%の向上においては、ディーン・オリバー氏が分析したデータが特に活用された。ステップスルー、ステップアウトなどの技術と徹底力の向上だけでなく、オリバー氏が指摘する具体的なシチュエーションに対しての課題の明確化は、2024パリに向けての練習の質を大きく上げた。
Defense Rebound POSS/PPP
DRB% | Opp OR | |
---|---|---|
vs GER | 71.8% | 11 |
vs FIN | 67.5% | 13 |
vs AUS | 52.5% | 19 |
vs VEN | 68.3% | 13 |
vs CPV | 60.9% | 18 |
FIBAワールドカップ 2023 |
64.0% | 14.8 |
東京2020 オリンピック |
64.4% | 14.0 |
FIBAワールドカップ 2019 |
59.2% | 13.8 |
ディフェンスリバウンドに関するオリバー氏の分析は以下のとおりである。
「ディフェンスリバウンドにおける最大のポイントは、ウイングからのジャンパー(2ポイントでも3ポイントでも)を外させた場合に、多くのオフェンスリバウンドを許してしまったことです。これはNBAと比較してもかなり多い数字です。
これらのプレーを見たところ、上部に位置していたガードがあと1~2歩ペイント内に入っていれば防げたオフェンスリバウンドがいくつかありました。いわゆる「ロングリバウンド」がリムから約12フィートの位置に飛び、そこをボックスアウトされた相手に拾われていました。ガードがこのエリアに入ることで改善が見込めます(また、ガードがディフェンスリバウンドを取ることで、トランジションオフェンスを加速させることも可能です)。
リバウンドは最重要な要素ではありませんが、1試合あたり4.3ポイントを失うのは厳しい数字で、この点に改善の余地があると感じました。
オーストラリアとカーボベルデはペイント内でのシュートから多くのオフェンスリバウンドを獲得していました」
映像59_ディフェンスリバウンド_DEAN OLIVER氏の指摘