Road to PARIS

課題の克服 -オフェンス-

ここではFIBAワールドカップ2023から見えた課題、つまりパリ2024オリンピックで成長したい部分は何だったのかを具体的に紹介する。フィンランド、ベネズエラ、カーボベルデに勝利し、オリンピック出場を掴んだものの、パリ2024オリンピックではそれ以上のレベルのチームから勝利を掴みらなければならない。そのために、FIBAワールドカップ2023での課題を明確にし、強化合宿の中で課題を共有し、向上に取り組んでいった。

FIBAワールドカップ2023や強化試合から見えたオフェンスの改善点

  1. 3ptを決め切る
  2. よりTOを減らす
  3. タグアップの向上(オフェンスリンバウンドを増やす)

1.3ptを決め切る

ペイントでのスコアをなんとしても増やしたい日本代表にとって、生命線になるのが3ptだ。何度も繰り返すが、ホーバスジャパンはまずイージーな2ptを取ること、FTを獲得することを最優先している。インサイドでアドバンテージを取れる選手が少ない日本代表にとって、3ptを打つことで相手ディフェンスを広げ、ペイントにスペースを作ることは非常に重要である。

その3ptの試投数平均32.6本は、FIBAワールドカップ2023では32チーム中4位とかなり多かった。しかしながら、その確率は23位と振るわなかった。

特に、一般的にドリブルからの3pt、いわゆる”プルアップ”よりも確率が高いとされるキャッチ&シュートに苦しみ、27.0%と大会29位に沈んでいる。パリ2024オリンピックの強敵相手に、この確率のままで勝ち切ることは難しい。ホーバスHCのオリンピックに向けた準備は、3ptを”打ち切る”だけではなく、”決め切る”ことが求められた。

3FG% Ranking
(FIBAワールドカップ2023)

順位 チーム G 3FG% M A
1 リトアニア 8 42.2% 10.8 25.5
2 ラトビア 8 42.1% 13.8 32.6
3 南スーダン 5 40.7% 11.8 29.0
4 カナダ 8 40.3% 12.8 31.6
5 アメリカ 8 40.0% 10.3 25.6
6 ニュージーランド 5 39.6% 11.4 28.8
7 レバノン 5 39.0% 9.2 23.6
8 プエルトリコ 5 38.8% 11.8 30.4
9 ドイツ 8 38.1% 11.4 29.9
10 メキシコ 5 37.8% 9.0 23.8
11 セルビア 8 37.7% 10.0 26.5
12 オーストラリア 5 37.0% 9.4 25.4
13 スペイン 5 36.5% 9.2 25.2
14 スロベニア 8 35.7% 12.0 33.6
15 フィンランド 5 35.3% 10.6 30.0
16 ベネズエラ 5 35.1% 11.8 33.6
23 日本 5 31.3% 10.2 32.6

Catch&Shoot 3FG% RANK
(FIBAワールドカップ2023)

順位 チーム G 3FG% M A
1 ニュージーランド 5 46.3% 8.8 19.0
2 リトアニア 8 43.2% 9.1 21.1
3 ラトビア 8 42.9% 10.5 24.5
4 南スーダン 5 42.6% 9.2 21.6
5 カナダ 8 42.2% 10.1 24.0
6 ドイツ 8 41.2% 7.9 19.1
7 セルビア 8 40.3% 7.8 19.3
8 オーストラリア 5 40.0% 7.6 19.0
9 レバノン 5 39.6% 7.2 18.2
10 アメリカ 8 39.1% 6.3 16.0
11 メキシコ 5 38.7% 5.8 15.0
12 プエルトリコ 5 38.3% 7.2 18.8
29 日本 5 27.0% 5.4 20.0
30 エジプト 5 26.8% 3.8 14.2
31 カーボベルデ 5 26.2% 4.4 16.8
32 アンゴラ 5 18.7% 3.4 18.2

2.よりTOを減らす

もう1つの改善はターンオーバー(TO)だった。ランキングを見てもわかるように、日本はTOをするポゼッションが15.4%、32チーム中20位(平均TO数13.8個は18位)。つまり、トップレベルのチームと比較すると、1〜2回オフェンスを無駄にしていることになる。このわずかな差を追求するために、FIBAワールドカップ2023の5試合で起こった69個のTOを一つひとつ検証し、最も多かった事例を減らすための練習を行なった。

ドライブ時にギャップディフェンスの手にディフレクションされるもの、ペイントの中でのバウンズパス以外のパス、PNR時のローラーへのポケットパスなどのTOが最も多く、ドリルの中でよりミスのない動きができるように練習を行なった。

TOが少ないことは、ただシュート回数が増えるだけではなく、トランジションディフェンスにも影響が大きい。特にライブTOは相手にアウトナンバーを与えやすく、ファーストブレイクでのイージーバスケットを与えやすいからである。

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映像55_TOを減らす_FIBAワールドカップ2023で見えた課題

TO% Ranking (1-16)

順位 チーム PPP TO% TO
1 ギリシャ 0.953 10.8% 10.4
2 ラトビア 1.118 12.2% 10.4
3 セルビア 1.151 12.5% 11.8
4 ドイツ 1.106 12.6% 11.3
5 カナダ 1.102 12.6% 11.8
6 南スーダン 1.042 12.9% 11.8
7 アンゴラ 0.783 12.9% 12.4
8 オーストラリア 1.057 13.0% 12.0
9 ブラジル 0.998 13.6% 12.8
10 イタリア 0.915 13.9% 11.9
20 日本 0.965 15.4% 13.8
28 ニュージーランド 0.930 17.5% 16.2
29 ヨルダン 0.830 17.6% 17.2
30 レバノン 0.949 17.9% 15.6
31 フランス 0.985 18.5% 16.4
32 ジョージア 0.883 19.0% 17.0

3.オフェンスリバウンド

■タグアップ
オーストラリアリーグを中心に、近年メジャーなリバウンドシステムになってきているタグアップ。Bリーグにもオーストラリアからこのシステムが輸入され、見かけることが多くなってきた。ホーバスジャパンでもタグアップシステムを導入し、試行錯誤しながらも取り組みを続けてきた。

タグアップの目的は大きく以下の2つである。

  1. オフェンスリバウンドを増やすこと(つまりポゼッションを増やすこと)
  2. トランジションディフェンスの向上

トランジションディフェンスを考えると、10年前のバスケでは2〜3人がオフェンスリバウンドに行き、残りの2〜3人はセーフティとしてディフェンスの準備をするのが常識であった。タグアップシステムはリバウンドの向上と、トランジションディフェンスを向上を両立させる、今までの常識を覆すシステムであった。

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映像56_OR_タグアップ_FIBAワールドカップ2023

数字の上では、FIBAワールドカップ2023でオフェンスリバウンドの向上は見られていない。とはいえ、これは選手たちがタグアップを遂行しなかったわけでは決してない。ビッグマンだけではなく、ウィングの選手たちはシュートを打つたびにしつこくリバウンドに行き続けたが、表のOR%が示すように結果には現れなかった。

しかしながら、あのパリ2024オリンピック出場を決めたカーボベルデ戦の4Q。18点リードして迎えた最終盤に、カーボベルデの猛攻をくらい、1点差まで詰め寄られたのを覚えているだろうか。あの4Qに日本はなんとオフェンスリバウンドを4本獲得。いずれもリバウンドに飛び込み続けたウィング選手によるものだった。あの4本がもしも取れず、カーボベルデのオフェンス回数が増えていたらどうなっていたかは想像に難くない。大会を通して見れば31位とほぼ最下位だったリバウンドだが、やり続けることによって1番大事な場面でチームを救ったのである。

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映像57_OR_タグアップ_vs カーボベルデ戦 第4Q

OFFENSE REBOUND
(FIBAワールドカップ2023)

順位 チーム G OR% Ave OR POSS
1 アンゴラ 5 43.9% 20.0 93.2
2 モンテネグロ 5 36.4% 14.0 87.8
3 スペイン 5 36.2% 12.6 83.6
4 ブラジル 5 36.0% 12.6 84.0
5 フィンランド 5 35.0% 12.2 86.4
6 リトアニア 8 35.0% 11.8 83.8
7 カナダ 8 34.5% 12.0 88.4
8 フランス 5 34.3% 11.2 82.2
9 カーボベルデ 5 32.3% 13.8 89.8
10 エジプト 5 32.2% 12.2 89.0
31 日本 5 22.9% 8.6 85.8
32 中国 5 21.3% 7.4 81.2