大会総括/データから見る日本の立ち位置(ディフェンス)

スカウティング

フランス戦に向けてのスカウティング

かつてのフランス代表は、SGの#10フォーニエ、PGとSGどちらでもプレーできるコンボガードの#12デ・コロが中心のチームであった。しかし、ウェンバンヤマを中心としたディフェンシブチームへの変貌を目指すフランス代表では、2人はベンチから出場するバックアッププレーヤー(フォーニエは日本戦ではスタートでプレーした)となっていた。攻撃の中心がウェンバンヤマに変わり、身長222cm、ウィングスパンが243cmと言われる未知の怪物をどう止めるか、オリンピック初勝利を目指す日本代表の最大のチャレンジだった。

ウェンバンヤマの守り方

  • ポストではディナイし過ぎない
    →手が長すぎるので、ディナイしすぎると簡単に裏パスを出されてしまう。
  • ポストアップ1on1は、フィジカルに、左肩(右手でフィニッシュ)に行かせない。
  • フェイスアップ1on1も同じく右は止めて、左に追い込むように仕向ける。
    →ウェンバンヤマをジャンプシューターにさせることが目標(それが入った場合は仕方ないと考える)

ホーキンソンの遂行力

ホーキンソンはプラン通りに遂行し、ウェンバンヤマのレイアップは4点(FT2本含む)だけであった。3ptが60%(3/5)と当たったため結果的に18点を与えたものの、2ptのFG%は37.5%(3/8)に抑えることに成功した。当然、ホーキンソンの卓越した遂行力なしに守ることは不可能ではあったが、スカウティング面では大成功だったと言えるだろう。

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映像117_PF:C_#32ウェンバンヤマ

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映像118_スカウティング_ウェンバンヤマ_遂行したホーキンソン

スペインPNR(フランスが良く使うアクションの1つ)

X1とX2のスイッチで対応した。

  1. コミュニケーション(スペインPNRであることをX2が共有
  2. ビッグマンは自分でバックピックを交わしバスケットへ
  3. X2はドライブしてくる1番にスイッチ
  4. X1はスクリーンのファイトオーバーからピール(剥がれる)し、ポップしてくる2番にスイッチ

フランスは、この守り方に気付きバックスクリーナーが毎回スリップしてポップすることにより、ディフェンスの混乱を誘った。結果的にハンドラーのPGストラゼルを何度かオープンにしてしまい、プルアップ3ptを許した。フランスは、日本がこのスペインPNRを守れていないと判断したのか、前半2回だけだったスペインPNRを、後半は13回プレーした。フランスは、1番と2番が入れ替わることもあるので、よりコミュニケーションが難しかった。バックスクリーナーがスリップしていなくなればただのPNRとなるため、最終的に日本はハンドラーを吉井が守っているときはストレートにスイッチして対応した。

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映像119_スカウティング_フランス_スペインPNR_G:Gスイッチ

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映像120_スカウティング_フランス_スペインPNR_3Qから連続でプレーするフランス

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映像121_スカウティング_フランス_スペインPNR_vsスリップ_対抗策

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映像122_スカウティング_フランス_スペインPNR_突発的にG:Gスイッチ_コートでコミュニケーションが問われる

日本のスペインPNRカバレージをスカウティングしてきたブラジル

ブラジルは日本のスペインPNRカバレージをスカウティングし、試合の最初のスペインPNRからバックスクリーンを囮に使ったスリッププレーを狙った。結果的にスリップ(ポップ)したシューターの#8ベニテが2回ワイドオープンになってしまった。

スペインPNRの対応は非常に難しい。このように守るという”基本のカバレージ”を持つことは大切であるが、それだけを考えているとパニッシュされてしまう。つまり、相手の動きを読みながら、準備してきたカバレージと違う守り方を臨機応変にする判断力、コミュニケーション力が必要不可欠である。

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映像123_スカウティング_ブラジル_スペインPNR_日本がスカウティングされた

世界をスカウティングするということ(佐々宜央アシスタントコーチ)

「毎試合の相手へのアジャストは、テクニカルスタッフを中心に作成したスカウティングレポートを元に、HC、ACがミーティングの中で繰り返し話し合い、また日々の練習の中でもトライ&エラーを繰り返して、最終的な試合での守り方を決めます。僕らAC陣はいつもはBリーグの世界にいるので、そこでやっているようなアジャストを元に、HCにもいろんな提案をします。もちろん全てを守り切ることはできないので、今回アベレージシューターには多くのシュートを決められてしまいましたが、一方でメインプレイヤーの#17シュルーダーや、#9ワグナー、シューターの#42オブストに対しては、いつもの彼らの平均以下のパフォーマンスにすることができました。また、ウェンバンヤマに対しても、他国以上に日本は上手く対応できたと感じていて、レイアップをほとんどさせませんでした。僕らが普段のリーグの中でやっているスカウティングは、世界でも十分に通用するし、自信を持ってもいいんだというのが素直な感想です。

ただ、今回僕が1番驚いたのは選手たちの遂行力です。どんなに良いスカウティングをしても、結局それを選手が遂行してくれなければ意味がないです。特にドイツ戦ではあまり他では見ないような、少しトリッキーな守り方にもチャレンジしましたが、選手たちがそれを信じて見事に遂行してくれました。この3年間でいろんなチームと対戦し、毎試合スカウティングとアジャストを繰り返してきました。準備のルーティンや練習方法に選手も慣れてきて、そしてトムさん自身も選手と常にコミュニケーションを取るので、もし選手が違和感を感じれば、練習の中で変更していったりします。そういう1つ1つのプロセスが、トムさんと選手たちの間の信頼関係にもつながって、選手たちもコーチの決めたプランを信じて、遂行することができたんじゃないかと思います。改めて、スカウティング以前に信頼関係が大事だと気付かされました」