大会総括/データから見る日本の立ち位置(オフェンス)

オフェンスを振り返る

ペイントスコアの難しさ

3ptが向上した一方で、より重要なペイント(このデータはより小さいアラウンドバスケットを指す)でのスコアが大幅に減少した。このアラウンドバスケットのスコアは、FIBAワールドカップ2023ではホーキンソンの活躍もあり、FG%が62.7%と飛躍的に向上した数字の1つだった。

しかし今大会、このアラウンドバスケットでの得点が平均13点減少し、16.3点という数字は大会で最下位の数字であった。また、インサイドのスコアが減少したのと並行して、FT獲得割合である%FTも大幅に減少している。

各試合ごとに見ると、ドイツ戦は14点、フランス戦は12点しかスコアできていない。これは、ドイツのディフェンスや、フランスのインサイドディフェンスが強力であることが1つの理由だと考えられる。事実、ドイツ、フランスはこのエリアのディフェンスが大会1位と2位であった。

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映像66_ペイントスコアが課題

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映像67_ペイントスコア

Around the Basket Point (Not exact paint)


Ave Pts FG% %FT
ドイツ戦 14 46.7%
(7/15)
0%
フランス戦 12 36.5%
(6/16)
0%
ブラジル戦 23 55%
(11/20)
10.0%
パリ2024
オリンピック
16.3 47.1%
(8.0/15.7)
3.9%
FIBAワールドカップ
2023
29.6 62.7%
(13.8/22.0)
0.9%
東京2020
オリンピック
30.3 57.9%
(14.7/25.3)
5.3%

ペイントでのプレーを一つひとつ分析すると、このレベルの試合でペイントでスコアすることがいかに難しいかが分かる。トランジションでも、ドライブでも、まずブロックが飛んでこないことはほとんどない。また、カッティングや、PNRでのロールも同様だ。ヘルプも速く、長さのあるアスリートが飛びかかってくるのだ。ミスマッチになっても、ミスマッチと言い切れないほど、身体の強いウィング陣が揃っており、ビッグマンでもポストで簡単なスコアはできない。そして、驚くべきことだが、レイアップでさえスウィッシュ(つまりリングに当たならいシュート)で決めないと、リングの上で弾ずむボールをかき出されてしまうのだ。

もちろん、ポジティブな要素もある。河村の速くて強いペイントタッチからのスコアはいくつか通用した。八村のコンタクトの中でのフィニッシュ力も、日本代表にとって強力な武器であった。

また、世界レベルの大会では気が付かされることがある。それは、フローターシュートだ。通常、高いアーチでブロックを交わすフローターは、ガードのためのシュートと日本では思われている傾向にある。しかし世界では、ビッグマンこそ密集でシュートを打つためにフローターが必須のスキルになっている。210cmを超える選手でも、フローターを打てることが常識である。ホーキンソンもその1人で、フランス戦の大事な場面で、ウェンバンヤマの上から見事なフローターショットで貴重な2点を獲得した。

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映像68_ペイントスコア_フローター

Around the Basket (パリ2024オリンピック)

順位 チーム Ave Pts %FT RANK O PPP
1 セルビア 35.7 5.1% 2 1.044
2 アメリカ 34.7 5.1% 1 1.161
3 南スーダン 33.3 6.5% 11 0.906
4 ドイツ 31.5 5.5% 3 1.023
5 フランス 28.5 6.1% 6 0.953
6 ギリシャ 28.5 5.8% 8 0.927
7 オーストラリア 28.0 6.8% 9 0.910
8 カナダ 26.8 3.4% 4 0.974
9 スペイン 24.7 4.8% 5 0.965
10 ブラジル 23.5 5.2% 10 0.907
11 プエルトリコ 22.7 1.5% 12 0.792
12 日本 16.3 3.9% 7 0.929

ホーバスジャパンでは、ペイントと3ptのFGA数の割合は、およそ50/50が理想的と考えている。相手ディフェンスに左右されることはあるにせよ、FIBAワールドカップ2023と比較するとペイントでのFGA割合が41%まで減少し、3ptとできるだけ少なくしたいペイント外2pが増えている。

この数字から、決してネガティブな面だけ取り上げるべきではない。結果的に3ptの割合が理想より多かったことは間違いないが、その分”シュートを決め切る”マインドはチームに浸透し、3ptのPPP=1.17(39.2%)という数字は世界トップレベルだ。

一方で、ペイント外2FGAの数は平均3.8から7.3と増えている点は見過ごすことができない。今や世界レベルの全てのチームが、アナリティックバスケットを理解し、ディフェンス側の視点から見ると、いかに相手に難しいペイント外2ptを打たせるかというゲームになっている。ショットクロックの早い段階で、いかに質の高い2pt、もしくはオープンの3ptを獲得できるかが問われている。

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映像69_ミッドレンジ

FGA/3FGA RATE

Area FIBAワールドカップ2023 パリ2024オリンピック
FGA Rate FGA Rate
Shot F in Paint 27 48% 12 41%
PAINT 143 83
MID 19 6% 22 9%
3pt 162 46% 115 50%

ペイント外2PA平均試投数

大会 試合数 2PA
FIBAワールドカップ2023 5 3.8
パリ2024オリンピック 3 7.3

日本はペイントタッチできていなかったのか?

アラウンドバスケットでスコアはできなかったものの、日本は試合を通して、果敢にペイントタッチを繰り返した。結果的にディフェンスを収縮させ、多くの3ptの機会を生み出した。実際、FIBAワールドカップ2023と比較しても、ペイントタッチができたポゼッションの割合はわずか3%減少したのみで、そこまで大きな差異は見られない。

つまり、ペイントタッチはできても、最高の規律で構築されたドイツのチームディフェンスや、ウェンバンヤマやゴベアといった世界最強のリムプロテクター相手には、まだまだスコアする力が足りないということである。世界トップレベルと伍するためには、一歩一歩階段を登るしかない。

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映像70_ペイントタッチからの3pt


POSS PAINT TOUCH PAINT TOUCH%
FIBAワールドカップ2023
ドイツ戦 85 45 52.9%
フィンランド戦 90 45 50.0%
オーストラリア戦 98 46 46.9%
ベネズエラ戦 93 50 53.8%
カーボベルデ戦 92 40 43.5%
平均 91.6 45.2 49.3%
パリ2024オリンピック
ドイツ戦 81 42 51.9%
フランス戦 97 41 42.3%
ブラジル戦 88 40 45.5%
平均 88.6 41.0 46.3%