PNRを語る時、”どのタイミング”でPNRをプレーするかを整理することは重要である。トランジションの中でPNRをプレーすることをドラッグスクリーンと呼ぶことが多い。ドイツやスペインのように、オフェンスの中心がドラッグスクリーンであるようなチームもある。日本はドイツほどではないにせよ、試合の流れの中でのドラッグスクリーンはオプションの1つとして持っている。相手チームはどんなPNRカバレージを採用しているかに関わらず、トランジションの中では、そのPNRカバレージを遂行することが難しくなる。相手がディフェンスをする準備をしにくいというアドバンテージを活かすのがドラッグスクリーンである。
映像71_PNR_ドラッグスクリーン
スクリーンを使わずに、その反対側をドライブすることをリジェクトと呼ぶ。相手が準備したPNRカバレージをさせない(プリベント)という意味で、リジェクトはどんなカバレージに対しても効果的であることが多い。河村は持ち前の絶対的なスピードを活かし、このリジェクトを常に狙いペイントタッチすることを考えている。
映像72_PNR_ガードスキル_リジェクト
日本のPNRが相手の脅威になっている理由の1つが、プルアップ3pt(ドリブルからの3pt)だ。たった10年ほど前は、プルアップ3ptは相手にアンダーをされる時に打つ程度に考えられていたスキルであった。しかし、近年ではプルアップ3ptを武器にする選手が世界的に増え、日本にとっても必須のスキルになりつつある。富樫は東京2020オリンピック時点ですでに、スペシャルなプルアップ3ptを武器にできることを証明してきた。河村も同じようにプルアップ3ptができるようになり、元々の武器であるスピードのあるドライブを、より強力なものにするスパイスになっている。また、パリ2024オリンピックでは振るわなかった比江島もプルアップ3ptを武器にしており、何度もチームを救ってきた。
相手がコンテインディフェンス(ドロップ)をしている時、ハンドラーディフェンスがスクリーンにヒットすれば、プルアップ3ptを打たれるピンチになる(パニッシュメント)。それが続くと、ビッグマンディフェンスはアウトサイドまで出て行かざるを得ない。そうすることでますますペイントにチャンスが生まれ、先手を取ったオフェンスが可能になる。
映像73_PNR_ガードスキル_プルアップ3pt
Pick&Roll Handler Shot PPP
選手 | PTS | PPP | 3pt | 2pt |
---|---|---|---|---|
#5 河村 | 21 | 0.848 | 50.0% (6/12) |
11.1% (1/9) |
#2 富樫 | 8 | 0.800 | 33.3% (2/6) |
33.3% (1/3) |
#8 八村 | 4 | 0.800 | 0% (0/1) |
50.0% (2/4) |
#6 比江島 | 4 | 1.000 | 0% (0/1) |
33.3% (1/3) |
#7 テーブス | 0 | 0.000 | 0% (—) |
0% (0/1) |
TEAM | 40 | 0.833 | 40.9% (9/22) |
25.0% (5/20) |
日本はパリ2024オリンピックにおいて、1試合平均のプルアップ3pt成功が最も多いチームだった。FIBAワールドカップ2023でも、平均成功数4.8本(38.7%)で32チーム中1位。2023年は富永、比江島がプルアップ3ptでチームを引っ張っていたが、今大会では河村が12/24の50%を沈め、チームとしても37%と高い確率だった。確率面ではステフ・カリー率いるアメリカの45.5%には遠く及ばなかったものの、成功数ではアメリカをも上回った。
プルアップ3ptを個人の成績で見ても、河村の12本という数字は大会で1位であった。3試合しかプレーしていないにも関わらず、決勝まで戦ったアメリカのカリーや、フランスのフォーニエといったシューターの成功数を上回っている。1試合平均の成功数で見ても平均4本という成功数は、2位のリュル(平均2.0本)の倍の数字である。これだけを見ても、いかに河村の活躍が”Shock the world”であったかを感じることができる。
3pt Pull Up Made
(パリ2024オリンピック)
順位 | チーム | 3FG% | M | A |
---|---|---|---|---|
1 | 日本 | 37.0% | 5.7 | 15.3 |
2 | アメリカ | 45.5% | 5.0 | 11.0 |
3 | ブラジル | 42.9% | 4.5 | 9.8 |
プルアップ 3pt 成功数ランク
(パリ2024オリンピック)
選手 | チーム | 3FGM | 3FGA | 3pt% |
---|---|---|---|---|
#5 河村 | 日本 | 12 | 24 | 50.0% |
#17 シュルーダー | ドイツ | 10 | 22 | 45.5% |
#30 カリー | アメリカ | 9 | 21 | 42.9% |
#5 エドワーズ | アメリカ | 9 | 16 | 56.3% |
#10 フォーニエ | フランス | 8 | 22 | 36.4% |
#22 ミチッチ | セルビア | 8 | 21 | 38.1% |
#42 オブスト | ドイツ | 7 | 13 | 53.8% |
#23 リュル | スペイン | 6 | 17 | 35.3% |
世界レベルの大会では、スクリーンディフェンスがハンドラーとバスケットの間を守るコンテイン(ドロップ)が、メジャーなディフェンスの1つである。このコンテインディフェンスの構造的な弱点は、ビッグマンがポップするピック&ポップである(パニッシュメント)。ホーキンソンはこのポップを得意とし、3ptを決めることができる。今大会でもコンテインディフェンスに対して絶大な効果を発揮した。仮に3ptを決め切ることができなくても、相手ディフェンスに「3ptを決める力がある」と思わせる選手がいることが重要である。それによってコンテインディフェンスが甘くなり、ガードのペイントアタックが活きてくる。また、相手がスイッチせざるを得なくなれば、ミスマッチを誘発することもできる。
スクリーナーがロール(ここではダイブと同意と考える)することで相手の脅威になれるかは、PNRをプレーする上で重要な要素だ。先に述べたポップも大切だが、スイッチを誘発しやすいという側面もあり、直接ペイントに脅威を与えるロールもなくてはならないプレーだ。世界的に見て身体能力の高いビッグマンは、ディープロールでアリウープなどを狙うことが主流だ。しかし、アスレチックさで劣る日本にとっては、ショートロールでボールを受けることが求められる。ショートロールは現代のビッグマンにとって、最もファンダメンタルが問われる場面だ。3人目のディフェンダーがヘルプに来る確率が高いシチュエーションのため、ただショットを決めるだけではなく、ドリブルでボールを守ることや、オープンの選手を見つけてパスをする”判断”が求められる。つまり、スコアラーとしてだけではなく、”クリエイター”になることが求められるのである。技術力が試されるロールプレーだが、スキルが向上すればそれは”見せ場”へと変わる。
現在の日本代表では、ビッグマンがショートロールから判断をするドリルを、日常的に取り入れている。また、このロールスキルはポジションレスになっている現代バスケにおいては、ビッグマンだけのものではなく、ガードにも同じスキルが求められている。
映像74_PNR_ビッグマンスキル
映像75_PNR_ビッグマンスキル_ショートロール
映像76_PNR_ビッグスキル_ショートロールドリル
SCREENERS SCORE
選手 | Score | PPP | 3pt | 2pt |
---|---|---|---|---|
#24 ホーキンソン | 15 | 1.364 | 60.0% 3/5 |
60.0% 3/5 |
#12 渡邊雄太 | 0 | 0.000 | 0% 0/1 |
— |
#8 八村 | 2 | 1.000 | — | 0% 0/1 |
#34 渡邉飛勇 | 2 | 2.000 | 0 | 100% 1/1 |
TEAM | 19 | 1.118 | 50.0% 3/6 |
57.1% 4/7 |