世界のスタンダードから学ぶ

セルビアのオフェンス遂行力

セルビアと言えば、現在はNBAでMVPを3回獲得したニコラ・ヨキッチを思い出す人が多いのではないだろうか。しかし、セルビアのバスケットボールの歴史は深く、スペインに並ぶ国際大会での実績と、輩出してきたスター選手は数知れない。しかしながら、長い戦争の歴史があり、バスケ界での実績の多くは、ユーゴスラビアとしてのものだ。日本で開催されたFIBAワールドカップ2006でもセルビア・モンテネグロとして出場し、現在のセルビアになったのは2007年のことである。しかし、2007年からのわずか17年でもオリンピックで銀メダル(リオ2016)、銅メダル(パリ2024)、FIBAワールドカップでも銀メダルを2つ獲得している。セルビアは数多くのNBA選手を輩出しているだけではなく、世界中に多くの優秀なコーチを送り出し、世界中のバスケに影響を与え続けている。

現在のセルビアは、世界でも屈指のオフェンシブチームを作っており、ファーストブレイクよりも、コントロールされたハーフコートオフェンスを武器にしている。今回のパリ2024オリンピックでもハーフコートでのPPPは1.011は大会で3位だった。もちろん天才的なオフェンシブプレーヤーであるヨキッチのアドバンテージは計り知れないが、そのヨキッチが欠場したFIBAワールドカップ2023でも、ハーフコートPPPは1.109と32チーム中3位で、ハーフコートオフェンスを得意としていることは間違いない。この章では、セルビアがどんなハーフコートオフェンスをしていくのかを掘り下げて見ていくことにする。

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Serbia win bronze after beating Germany

HALF COURT OFFENSE PPP
(パリ2024オリンピック)

順位 チーム PPP 2FG% 3FG% 最終順位
1 アメリカ 1.124 58.1% 46.1% 1
2 ドイツ 1.021 55.7% 37.0% 4
3 セルビア 1.011 59.7% 33.6% 3
4 カナダ 0.966 51.9% 33.8% 5
5 フランス 0.951 55.4% 32.2% 2
6 スペイン 0.919 51.2% 33.3% 10
7 日本 0.910 40.0% 37.4% 11
8 オーストラリア 0.879 50.3% 37.2% 6
9 ブラジル 0.874 44.1% 39.0% 7
10 南スーダン 0.872 43.1% 37.0% 9
11 ギリシャ 0.869 56.6% 28.3% 8
12 プエルトリコ 0.796 38.2% 34.4% 11

HALF COURT OFFENSE PPP
(FIBAワールドカップ2023)

順位 チーム PPP 2FG% 3FG% 最終順位
1 アメリカ 1.120 59.0% 42.0% 4
2 ラトビア 1.120 59.3% 41.7% 5
3 セルビア 1.109 64.8% 35.7% 2
4 カナダ 1.102 57.8% 40.1% 3
5 ドイツ 1.098 60.9% 39.0% 1
6 リトアニア 1.069 54.6% 45.1% 6
7 オーストラリア 1.045 57.8% 35.5% 10
8 スロベニア 1.008 58.8% 35.2% 7
9 スペイン 0.997 55.7% 37.1% 9
10 フランス 0.989 63.8% 35.0% 18
11 ブラジル 0.984 54.4% 31.8% 13
12 南スーダン 0.969 48.3% 40.2% 17

ロスター構成

オフェンスシステムを分析する時、必ず必要になるのがチームそれぞれの選手の特徴(パーソネル)を深く知ることである。トップレベルのチームは、チームのベストオフェンシブプレーヤーの持っている能力をより活かすために、システムを構築しているからである。「誰がどのようにボールを持つか」と言うことだけでなく、オフボールの選手の「スペーシング」も、相手チームが最も守りにくいように細かく設計されている。
ここでは、セルビアのハーフコートオフェンスをより深く理解するために、それぞれの選手の役割や、ラインナップを紹介する。

アウトサイド陣(ペリメーター)

  • ボールハンドラー
    プライマリーハンドラー:#22 ミチッチ(PG)、#7 ボグダノビッチ(SG) ※必ずどちらか1人はコート上にいる
    セカンダリーハンドラー:#30 アブラモビッチ(PG)、#23 グドゥリッチ(SF)
  • 3&D
    SG:#9 マリンコビッチ
    SF:#13 ドゥブリッチ、#23 グドゥリッチ

ビッグマン

  • ストレッチ4
    PF:#3 ペトルセフ(スラッシャー、ポストアップ)、#5 ヨビッチ(3&Dに近いウィングのようなタイプ)
    (PF:#15 ヨキッチ)
  • センター(5番)
    C:#15 ヨキッチ(クリエイティブビッグ、#33 ミルティノフと試合に出る時は4番になる)
    C:#33 ミルティノフ(バンガー、サイズとフィジカルタフネスを使うゴール近辺だけの選手)

スターター

PG:#30 アブラモビッチ
SG:#7 ボグダノビッチ
SF:#13 ドゥブリッチ
PF:#3 ペトルセフ
C:#15 ヨキッチ
※#22 ミチッチ(PG)を6thマンにすることで、#7 ボグダノビッチをローテーションしやすくしている。
※ゲームフィニッシュは#22 ミチッチ(PG)でいくことが多い。