現地レポート

旅の途中RSS

2014年01月13日 19時05分

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女子に引き続き、男子決勝もポイントガードの話になって恐縮だが、やはり司令塔とは一朝一夕になれるものではない。むろん、その他のポジションもそうであるが、ポイントガードほどその成長が難しいポジションはないだろう。


オールジャパン2014は東芝ブレイブサンダース神奈川がトヨタ自動車アルバルク東京を[82-79]で破り、8年ぶり3回目の天皇杯を下賜された。その東芝のバスケットをコントロールしていたのが3年目のポイントガード、篠山 竜青選手である。


「今大会の勝因はチームのディフェンスが安定してきて、我慢強くプレイできたこと。それとチームの一体感が、トーナメントを勝ち上がるにつれて、高まったことだと思います」


確かに東芝神奈川のチームの一体感は見ていても気持ちがいいほどである。ベンチメンバーも選手である以上、試合に出たいはずだが、試合になればそれをいったん横に置いて、チームが勝つためにベンチでできることをしている。そんな雰囲気が強く出ている。


「ベンチに一体感は昨年からもよかったのですが、今シーズンから加入してきた大西(崇範)さんや平尾(充庸)はパナソニックトライアンズで昨年の優勝を経験していて、そのときのチームの雰囲気などを話してくれたんです。そうしたコミュニケーションをとることで、今年はさらにチームの一体感が増しているのだと思います」


篠山選手のその言葉を同じポイントガードの平尾選手に向けると、こう返ってきた。


「それは竜青さんが『昨年はどうやった?』って聞いてきたので、僕は『先を見すぎないで1戦1戦を戦うことと、大きな舞台で観客もたくさんいて緊張するかもしれないけど、自分たちのやるべきプレイをすること』だと言っただけです」



つまり篠山選手が、オールジャパンで勝つためにチームとして必要なことは何なのか、新加入で、しかも年下である平尾選手に聞いて、それをチームとともに実行したというわけである。その姿勢は平尾選手に「そうした竜青さんの背中をしっかりと追っていきたい」と言わせるほどだった。


そしてもう1つ、篠山選手の成長を語る上で外せないのが、昨年度のJBL最後のファイナルで敗れたときのことだ。篠山選手は人目をはばからず、涙を流していた。あれから266日。ついに掴んだ日本一の座。その期間を篠山選手はこう振り返る。


「ポイントガードなのでいろいろ考えるポジションなのですが、今大会はそれがすべて悪い方向に向かっていたんです。煮詰まっていたというか、それで自分自身としてはいいパフォーマンスができていませんでした。それでもリーグ戦で柏木(真介・アイシンシーホース三河)さんなどと対戦しながら、考えることをやめてはいけないし、すごく葛藤があったんです」


そんなとき、ポイントガード出身の佐藤 賢次アシスタントコーチから「竜青、練習から一生懸命考えているのはわかっているから、試合では自分を信じて、もっとひらめきでプレイしていいんだぞ」とアドバイスを受けた。


「それで肩の荷が下りました。考えることも大切だけど、試合ではひらめきを大切にしてもいいのかって」


佐藤アシスタントコーチが、篠山選手の今シーズンの成長と、そのシーンを振り返る。


「竜青はもともと力があるし、コントロール力も伸びてきました。でも今大会は準々決勝、準決勝と迷いながらプレイしていて、微妙に判断が遅れていたんですね。だから決勝戦ではパッと頭に浮かんだことをやりなさいと伝えたんです。たとえそれがダメだったとしても、それは竜青の成長につながりますから」


結果としてそれがオールジャパン2014の最終戦で、篠山選手の今大会で一番のプレイを引き出すことになったわけだ。


後輩ポイントガードの言葉と、先輩ポイントガードのアドバイスを受けて、チームを日本一に導いた東芝の正ポイントガード・篠山選手は言う。


「ポイントガードにとって何か大事なのかを考えながらやってきましたが、今日の試合で少し光が見えてきたように思います」


成長を続ける東芝のポイントガードが辿り着いた日本一の座。だがそれは彼にとって成長の一つの過程にすぎない。篠山竜青はまだ旅の途中――。



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