現地レポート

尽誠学園の信じるチカラRSS

2012年12月29日 16時36分

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理論物理学者として有名な、かのアルベルト・アインシュタインが言っている――他人のために尽くす人生こそ、価値ある人生だ。香川・尽誠学園の野田康平はまさにその言葉どおりの高校3年間を送った。


「雄太、残り時間を見ろ!」「寛大、手を上げろ!」 「我慢、我慢。今、我慢だぞ!」


ベンチで誰よりも声を張り上げ、気付いたことをコート上のメンバーに伝えていく。シュートが決まれば飛び上がり、ベンチメンバー全員とハイタッチをかわしていく。


「ベンチメンバーがコートの中のプレイヤーを信じて、雰囲気を盛り上げていけば、コートの中は持ち上がるという気持ちだけでした。」


野田はそのように言うが、そういった声かけや応援は想像以上にコート上の選手たちの力になっていた。エースの渡邊雄太は言う。


「野田はボクがちょっとイライラしているなと感じたら、いつも『まだ大丈夫だから、落ち着いて』と声をかけてくれます。そうしてくれることで本当に僕自身も心にも余裕が生まれて、プレイに集中できるようになります。普段の生活でも、3年間同じクラスで、僕が精神的に落ち込んでいるときに声をかけてくれたり、僕にとってはあいつの存在が本当に大きいです。」



渡邊だけではない。主力の7人はみんな同級生なのだが、連戦の続く試合のあとなどにはその7人に自ら「マッサージ、必要ない?」と聞いてくるそうだ。


だが色摩拓也コーチは今大会のエントリーメンバーを選ぶ際、その野田を落とそうと考えていた。今年のチームは渡邊ら3年生中心のチームで力もあるが、来年のことを考えると少しでも1・2年生に全国のレベルを経験させておきたい。試合に出場する可能性が少ない3年生には「メンバーに入れない可能性があることをわかっていなさい」と伝えていたという。


しかし遠征でチームを2つに分けて、野田らを学校に残した際、一緒に残った下級生たちの部活ノートに「野田さんが『自分たちは遠征に行っていないけど、行っている選手よりもいい3日間を送ろう』と言ってくれた」と書かれていた。また5対5の練習でも渡邊中心のAチームに対して、野田はAチームの甘くなりそうなところでシュートを決めて、注意を喚起する。裏方のことがしっかりでき、なおかつ自分のプレイもしっかりと表現できる。色摩コーチはいつしか「この子はウインターカップのメンバーに入れなければいけない」と心変わりをしていた。



ウインターカップでチームは2回戦で埼玉・正智深谷にリベンジを果たし、準々決勝、準決勝も厳しい試合を勝ち抜いて決勝戦へと進んだ。準々決勝の福岡・福岡大学附属大濠との試合後、野田について聞かれて色摩コーチはこう言っている。


 



「昨年もそうだったんですけど、3年生が着替えを持ってきたり、水をすぐに渡したり、片づけでパッと動ける年のチームは強いということを言ってきました。今、野田のやっていることがチームを救ってくれているかなと思います。」


そしてこう続けるのだ。


「野田こそチームの象徴というか、これぞ尽誠バスケットだと思ってください。」


「東日本大震災」被災地復興支援 JX-ENEOSウインターカップ2012 平成24年度 第43回全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会の決勝戦では、宮崎・延岡学園に[68-66]で敗れた。しかし野田は最後の最後までコートの上の同級生を信じ、声を出し続けていた。


「全国優勝を目標にしてきたので準優勝は悔しいですが、チームメイトには感謝しています。他にもエントリーメンバーに入れなかった3年生がいるなかで、そのみんなの気持ちを最後まで信じてプレイしてくれたから、感謝しかないです。」


最後までチームメイトのために尽くし、感謝を忘れない野田は2012年度の尽誠学園バスケットボール部にとって、とても価値のある「15番目の男」だった。



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