現地レポート

ただ勝利のために汗をかくRSS

2013年01月04日 01時17分

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勝負の世界に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。敗れたレバンガ北海道の折茂武彦が敗因を「どうみても自滅」と言ったとおり、やはり負けに不思議の負けはない。だが勝った青山学院大学は、不思議な力によって勝ったわけではない。司令塔の#32畠山俊樹は試合後の第一声をこう上げた。


「一人ひとりがやるべきことをちゃんとやっていたし、みんなが相手に向かっていく気持ちが出ていた試合だったので、やっていて本当に気持ちがよかったし、最高のゲームだったと思います。」



その言葉どおり、青山学院大学はエース#56比江島慎が28得点・9リバウンド、11アシストと「トリプルダブル」まであとリバウンド1本という数字を叩きだすと、#8張本天傑も果敢にゴールにアタックし、#25永吉佑也は外国人選手にも真っ向からぶつかっていった。2年生の#7野本健吾も臆することなくプレイし、ベンチスタートの#15山崎将也も3Pシュート2本を含む18得点を挙げている。そうして念願だったJBLチームの撃破を達成したわけである。


だがこの試合最大の功労者は畠山ではなかっただろうか。両チーム最小、171センチのポイントガードは、オフェンスでは比江島や張本がプレイしやすいようなスペースを作り出し、ディフェンスではコートを縦横無尽に駆け回った。レバンガ北海道がアウトサイドでボールを回せば、その行方を予測しながらパスコースを狭めていき、インサイドに放り込めば自分よりも30センチ以上高い外国人の足元に入ってボールをスナップする。その運動量は尋常でなかった。


「運動量を多くしないと(背の低い)自分は通用しないので、とにかく運動量を多くして、ディフェンス、リバウンド、ルーズボール、そして走るプレイをしていきました。でもそれはこれまでもずっとやってきたことなので、特別これまでと変わらなかったです。」


背の小さい選手が生きる道はそれしかないといわんばかりだ。それでも体力的に苦しいだろうと思って話を向けると――事実、その前にインタビューを受けていたエースの比江島は「疲れた」と言っていた――畠山はこともなげに笑顔で答える。


「いや、高校時代に鍛えられたので苦しくはなかったです。」


彼の言う高校とは3年前のウインターカップで初優勝を果たした宮城・明成高校である。当時もとにかく運動量が多く、コートを走り回っていた。決勝戦では終盤に佐藤久夫コーチが合図を出すとともに全員がギアをトップに入れ換え、一気に優勝をさらっていったのである。大学に入ってからもトレーニングを積んでいるが、そのときの財産――体力だけではなく、緊迫した中で戦い抜く気力を含めた財産が、いまなお残っているというのだ。



インカレでは決勝戦で東海大学に敗れ、大会3連覇はならなかったが、それでも大学バスケット界を引っ張ってきたのは紛れもなく青山学院大学である。


「今までは他の大学が青学に勝とうと思って向かってきていて、それに対して自分たちはどうすれば今日のような試合ができるのか、よくわかっていませんでした。でもJBLのチームと対戦することでチャレンジャー精神というものをみんながわかったように思います。だから試合が終わったあとに、みんなが『プレイをしていて気持ちがよかった』って言っていたのだと思うし、これからもそういう試合がずっとできればいいなと思っています。」


大学で追われる立場から、JBLを追う立場になったことも今回の勝因だと言えよう。次の対戦相手は青山学院大学の卒業生が4人いる昨年の覇者・トヨタ自動車アルバルクである。


「トヨタはレバンガよりも強いし、ハードにやってくるチーム。フィジカルで負けないようにしていきたいし、技術よりも気持ちで戦っていきたいです。」


マクドナルドの創業者であるレイ・クロックがこんな言葉を残している。「幸運は汗への配当である。汗をかけばかくほど、幸運を手にすることができる」。畠山にとっての「幸運」とはすなわち「勝利」である。畠山俊樹はトヨタ自動車戦でもコート中を駆けまわり、勝利のために汗をかく――。



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