現地レポート

逆境に打ち克つ背番号94RSS

2013年01月06日 22時05分

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先日現役引退を発表したプロ野球選手の松井秀喜が以前こんなことを言っていた。


「どんな技術やパワーよりも、逆境に強い力を持った選手になりたいと願っています」。



怪我を負った松井がそれでもメジャーリーグで戦うためにそう願ったのだとすれば、昨年、足首の怪我から3シーズンぶりに復帰した三菱電機ダイヤモンドドルフィンズの#94佐藤託矢もまた、松井と同じことを願っているのだろう。


4年ぶりのオールジャパン出場となった佐藤は、チームとして7年ぶりの準決勝進出を決めた東芝ブレイブサンダース戦で、ベンチスタートながら3Pシュート1本を含む7得点を挙げている。ヘッドコーチのアントニオ・ラングも「今日は大事な場面でビッグショットを決めてくれたし、彼の存在が大きかった」と認めている。佐藤は言う。


「オールジャパンはやはりちょっと雰囲気が(JBLと)違うので最初は緊張しました。でも自分はつなぎ(バックアップ)で出るわけだし、自分の仕事をきっちりできるように集中しようと考えていました。結果として今日はシュートも入ったし、ディフェンスもそこそこできていたのでよかったと思います。」


佐藤の持ち味はその体格とは裏腹に――といっても、ディフェンスやリバウンドなどではその体格を生かしたハードなプレイをしているが――柔らかいジャンプシュートにある。今日も前半の大事な場面で3Pシュートを、後半にもジャブステップからのジャンプシュートを決めた。


「ディフェンスやリバウンドをハードにすることはもちろんですが、チームが攻めあぐねたときにポイントでつなげるよう、要所でミドルレンジのシュートを決めることが今の仕事だと思っています。今はまだちょっと波があってシュートの入らないときもありますが、今日のように小さな積み重ねであってもしっかりと決められるようにして、もう少しプレイタイムをもらえるようにしたいですね。」


た目には体の大きなヤンチャな少年を思い起こさせるが、長期離脱を余儀なくされるほどの怪我を克服し、チームのためにプレイする男の言葉には覚悟にも似た重みを感じさせる。ロシアの作家、マクシム・ゴーリキーの「どんな些細な勝利でも、一度自分に勝つと人間は急に強くなれるものである」という言葉を思い出す。


アントニオ・ラングに彼の魅力を尋ねると、間髪をいれずに「Toughness(タフネス)」と答えた。そしてこう続ける。


「スキルもあるし、頭もいいけど、でも“今”の彼の強みはそこです。タフで、絶対に負けないという強い気持ちを持っている。タクヤのような選手がもっと欲しいですね。」


足首の痛みとはこれからも付き合うことになるが、バスケットができるほどに怪我を克服した今、佐藤に怖いものはない。準決勝の相手はリーグ戦2連敗中のアイシンシーホースだが、タフさと柔らかいシュートタッチを併せ持つ背番号94はどんな状況になっても――それが逆境であっても――最後まで戦い抜くつもりだ。


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