現地レポート

目覚めたエース候補の次なる一歩RSS

2012年12月26日 18時49分

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雲の切れ間から少しだけ光が差し込んできた。そのような感じだろうか。宮城・明成の#7白戸大聖である。インターハイのリベンジを果たすべく臨んだ京都・洛南戦。チームは[62-73]で敗れたが、白戸自身は両チームトップの28得点を挙げている。


「洛南にはインターハイのときに負けているし、そのときは個人的にも思うようなプレイができなくて悔しい思いをしたので、個人練習をするしかないと思って、この4ヶ月練習を積み重ねてきました。今日は夏の借りを返すという気持ちと、どうにか3年生に勝たせてあげたいという気持ちでシュートを打ちました。」


練習の成果と2つの思いが最も色濃く表れたのが第3ピリオドだろう。リバウンドを支配し、速攻で得点差を拡げていく洛南に対し、明成は白戸の得点でなんとかついていく。明成の第3ピリオドの総得点16点のうち、白戸は3Pシュート3本を含む15得点を取っている。だが明成の佐藤久夫コーチの評価は厳しい。


「なぜこれほどまで時間をかけて、(ようやく)力を出すのかという点では不満ですね。最初からやらなければいけない。」


この言葉の意味は深い。もちろん今大会の出来(1回戦は無得点、2回戦は11得点)も示しているが、佐藤コーチとしてはもっと前――たとえばインターハイや普段の練習など――から彼の持っている力をもっと発揮してもらいたかったに違いない。それだけの力を持っていると認めているのだ。


白戸は昨年度の男子U-16日本代表選手で、「第2回FIBA ASIA U-16男子バスケットボール選手権大会」に出場し、スタメンとしてチームを銅メダルに導く活躍をしている。つまり年代別とはいえ日本トップクラスの攻撃力を持っているのだ。だがチームではその力を発揮することができない。突き抜けることができないでいたのだ。


「試合の出場機会が減ったりして心が折れそうになったこともあります。でもまずは『チームのために、試合に出なくてもできることはある』と考え、それに全力を尽くしてやろうと自分に誓ってやってきました。」


そうすることで徐々に信頼を取り戻し、結果として夏のリベンジの場であり、メインコート行きをかけたこの大一番で目覚めたわけである。


チームとしては1年を通して、けっしていい結果を残せたとは言えない。だが最後の試合で白戸がそのポテンシャルを発揮した意味は大きい。彼はまだ、もう1年あるのだ。


「よく佐藤コーチから気持ちの面でもっと自覚や責任を持つようにと言われていて、自分でもそこが全然足りていないと思います。だからまずは気持ちの面を一から鍛えて、自分が明成のエースなんだという自覚を一番大切に、強く持っていきたい。そして先輩たちの思いもしっかり背負って、来年は優勝しかないです。


エースを名乗る以上、佐藤コーチからの要求はこれまで以上に厳しくなるだろう。だがそれを乗り越えなければ、エースの称号もチームの勝利もない。ホンダの創始者。本田宗一郎は言っている――進歩とは反省の厳しさに正比例する。


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ピンチはチャンス!RSS

2012年12月26日 12時13分

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ピンチはチャンス――ピンチだと思っていたところに、実は成長するチャンスの芽が隠れているという意味で、愛知・若水中の前コーチ、杉浦裕司氏がよく使っている言葉だ。


大阪・大阪薫英女学院にその杉浦氏の教え子、別名「裕司っ子」が2人いる。シューターの石井杏奈とガードの加藤宇希波である。ともに1年生、つまりはルーキー。だがこのルーキーは昨年の全国中学校バスケットボール大会、いわゆる「全中」を制したキャリアの持ち主である。


だからといって2人とも1年目から試合に出られるとは思っていなかったという。


「中学のときとは全然バスケットスタイルが違いました。入学した当初はどう動いていいかがわからなかったし、実際にやってもできなかったけど、どんどん考えるようになって、ディフェンスを見てプレイするとか、相手がこうしてくるから次はこうしたほうがいいと練習でたくさん教えてもらえたので、今は考えながら少しはできるようになってきました。」


その言葉どおり、石井の動きは中学時代の動きとは少し違うものになっていた。それでもチャンスがあれば得意のシュートを放っていく。そこは変わらない。


「大事な場面であっても、シュートに関しては『あいたら打て』と言われているので、どんどん打ちました。でも今大会はあまり入らなかったので、もっと練習を積み重ねて次の大会では絶対に入れて、大事な場面でチームをピンチからチャンスに変えられる選手になりたいです。」


一方の加藤は大阪薫英女学院に入って、ポイントガードにコンバートされていた。



「薫英はガードが少なくて、長渡コーチは背の大きなガードが欲しかったと言っていました。自分はけっして大きいほうではないんですけど165センチ以上はあって、周りを見る視野もあるということでフォワードからカードに起用されたんですけど、やっぱり難しいです。」


攻守の切り替えの速さで勝負をする中学時代から、高校女子バスケット界のなかでも特にフォーメーションの数が多い大阪薫英女学院のバスケットに変わり、しかもそこで司令塔になれというのだから、これまで以上に頭をフル回転させなければならない。


さまざまな違いに戸惑いながら、それでも2人は名将、長渡俊一コーチの期待を受けて、コートに立っている。


「チームとしては勝ちにこだわって全国制覇をしたいんですけど、そこは長渡コーチの教えもありますが、自分は杉浦先生の『日本一いいチームになったら自然と結果はついてくる』という言葉が一番好きなので、バスケットだけではなく、勉強も、私生活もすべてにおいて日本一いいチームになりたいです。そして自分個人としてはあと2年あるけど、来年、再来年と1つずつ大きく成長して、日本一のガードになりたいです。」


大阪薫英女学院は埼玉・山村学園に[74-82]で敗れて、今年もメインコートに立つことはできなかった。関西の雄はこのまま沈んでいくのか。ピンチである。だがそのピンチを2人の「裕司っ子」がチャンスに変えていく。


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信念のラストショットRSS

2012年12月25日 20時31分

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信念の選手である。話を聞いて、そう感じた。京都・東山のスタメンガード、#8武内夏来は福岡の強豪、姪浜中学出身。3年生のときにはキャプテンとして全国大会にも出場している。


「そのまま福岡に残ってもよかったんですけど、自分の実力がどこまで通用するか、他の都道府県で試してみたいと思ったんです。いろいろ調べてみると、京都の東山がとてもまじめで、しかも本気で洛南を倒そうとしていることを知って、これは僕に合っているのではないかと東山に行くことにしたんです。」


しかし実際に入ってみると、想像していた以上に166センチという身長が大きなハンデになると気付いた。同級生には190センチを超えるメンバーがいて、最初に試されるのは身長の大きいメンバーたち。武内に出番が回ってくることはほとんどなかった。2年生の途中でポイントガードにコンバートすることになったが、それまでシューターと練習してきたため、すぐにうまくいくはずもない。ポイントガードとしてのデビュー戦となった府の新人大会では上位に入れず、近畿大会を逃すという憂き目も見た。


「このままじゃダメだ、この夏までに東山のガードとしてやるべきことを学ばなければいけない。そう考えて、身長の小さい自分に何ができるのか、周りの大きい選手をいかすにはどうしたらいいかを研究するようにしたんです。」


もちろん研究をしたからといって、すぐに試合に出られるわけではない。やっと出番が回ってきたのは今年5月に行われたインターハイ予選京都府大会の洛南戦からだ。


「洛南戦で6thマンとして出してもらえたときに、自分のような身長でも全国に通用することを学びました。それがこの3年間で一番習得できたことです。」


その後インターハイで準優勝するライバルチームにも身長の小さな選手がいる。そういった選手と直接マッチアップしたことで何かを感じ取ることができたのだろう。


そして6月に行われた近畿大会でスタメンガードの座を射止め、そのままウインターカップまでチームを引っ張り続けた。試合は[64-94]で神奈川・桐光学園に敗れたが、武内は最後の最後まであきらめず、信念の結晶を見せていた。試合終了と同時に決めたジャンプシュートがそれである。


「僕は常に福岡から京都に来た意味を考えて、この3年間努力してきました。だから東山に来たことに悔いはないし、田中コーチや大澤アシスタントコーチにバスケットのことも、バスケット以外のことも多く学んだので、本当に後悔はありません。」


信念は人を大きく成長させる。横綱・千代の富士もこう言っている――今日いい稽古をしたからって明日強くなるわけじゃない。でも、その稽古は2年先、3年先に必ず報われる。自分を信じてやるしかない。大切なのは信念だよ。


武内夏来は来春から関東の大学に進学する予定である。


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