現地レポート

これがボクの生きる道RSS

2012年12月25日 15時46分

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Aコートでは香川・尽誠学園埼玉・正智深谷に夏のリベンジを果たし、Bコートでは福岡・福岡大学附属大濠が、攻撃力のある高知・明徳義塾を61点に抑え込んでいた。どちらも注目されているチームだけに、おのずの観客の目はそこに向かう。しかし、Cコートでも3点差の接戦が行われていた。結果を言えば、静岡・沼津中央福島・県立若松商業を[95-92]で破り、3回戦進出を決めている。


沼津中央のセンターといえば、昨年の中心選手である201センチのシェリフ・ソウを思い出す。しかし今年のセンターは180センチしかない。チームとしては20センチのサイズダウン。全国的に見ても小さい部類に入る。彼もそれを認めている。


「自分は他校のセンター陣と比べても小さいので、まずは気持ちで絶対に負けないと思ってプレイしています。そして走ることとリバウンドを取ることを常に心がけています。」


アメリカのプロバスケットボールリーグの影響か、高校生の技術は年々向上している。20年前には考えられなかったようなボールハンドリングや体の使い方を平気でするようになり、その分失われたと感じるものもなくはないが、それでも「魅せる」という意味では20年前とはまったく比にならない。


だがその180センチのセンターに派手さはなく、むしろ泥にまみれて、リバウンドを稼いでいく。自分よりも大きな相手にもしっかりと体をぶつけてポジションを取り、ボールが落ちてくれば全力で飛ぶ。今日の試合でもオフェンスリバウンド8本、ディフェンスリバウンド9本、合計17本のリバウンドを取っている。これは両チームトップの数字である。


しかも彼は元々アウトサイドプレイヤーだったという。中学ではオールラウンドプレイヤーとして活躍し、沼津中央に入学してからも2年生のはじめまではアウトサイドでプレイしていた。しかし同級生の#8石川知樹のように突出して目立つタイプではなかった。そんなときに杉村敏秀コーチから「インサイドをやってみろ」と声がかかったのである。


やってみると、なかなかしっくりくる。自分はインサイドプレイヤーのほうが向いているのではないか。アウトサイドプレイヤーのときからリバウンドの飛び込むことは嫌いじゃなかった。「むしろあまりボールを持ちたくなかったし、シュートも打ちたくなかったので…」と笑う彼は、自分の居場所を見つけた。


「ボクがセンターをできているのは、チームメイトの支えがあるからだと思っています。明日は北海道・札幌日本大学戦になると思いますが、ウチのチームにいる北海道の連中に勝たせてやりたいと思っています。190センチ近い選手が3人もいて、若松商業よりもはるかにリバウンドが強いチームだと思いますが、だからこそボクが頑張らなければいけないと思っています。」


沼津中央の180センチのセンター、#7鈴木康平は力強く明日への意気込みを語る。普段チームメイトに支えられている分、高校生活最後の大会は自分のリバウンドでチームを支えたい――リバウンドを制する者はゲームを制する。


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チームあってこそのエースRSS

2012年12月25日 12時22分

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誤解を怖れずに書けば、青森・柴田女子は「中村優花のチーム」である。8月にオランダ・アムステルダムで開催された「第2回FIBA U-17女子バスケットボール選手権大会」でベスト5に選出された中村は、持ち前のパワーとスピードで得点、リバウンドを量産してきた。今シーズン初の直接対決とはいえ、同じ東北地方のチームであり、昨年のウインターカップ準優勝校でもある山形・山形市立商業は「柴田女子は中村を抑えれば勝てる」と考えていたに違いない。だがそう簡単に抑えられるものではなかったし、それ以上に周りの選手も中村に引っ張られるように実力を磨き上げてきていた。その結果、柴田女子が[49-47]で山形市立商業を下して、ベスト8進出を決めたのである。


 



「東北新人のときは山形商業と対戦する前に宮城・聖和学園に負けてしまって、その後のインターハイにも出られなくて、みんな悔しい思いをしてきました。でも負けたことによって自分たちのレベルは低いんだと自覚することができたし、ウインターカップに向けてひとりひとり自覚を持って練習することができました。今日の試合も途中で山形商業に当たられて気持ち的に圧されてしまったところもあったけど、最後勝つことができてよかったです。」


 



エースの中村はそう言って、最後にこう付け加える。


 



「仲間にもすごく感謝しています。」


 



第1ピリオド、いきなりの6連続得点を挙げた中村だったが、第2ピリオド以降は4得点にとどまっている。山形市立商業のディフェンスがダブルチーム、トリプルチームになってきたからだ。そのときにこれまで練習してきて、自分でも成長したと思える「冷静さ」を出すことができたという。


 



「これまでは自分のところにディフェンスが寄っているのにパスを出すことをせず、ただ点数が取りたいからといって無理に攻めてみたり、周りとの連携ができていませんでした。でもバスケットは1人じゃ勝てません。いくら点数を取れるといっても、チームの中の1人であることをしっかりと自覚して、チームプレイをちゃんとするように心がけてきました。」


 



その言葉どおり、中村に集中した山形市立商業ディフェンスの隙をついて、#10齋藤萌、#13積田美桜らが3Pシュートを沈めていく。中村はそのことに感謝しているのだ。


 



長岡萌映子(富士通 レッドウェーブ)のような得点力のあるオールラウンドプレイヤーを目指している中村。みずからの得点を伸ばすためにも、チームメイトをいい意味で利用することは今後の成長に欠かせない。明日の対戦相手は千葉・昭和学院である。女子U-17日本代表のチームメイト、#12赤穂さくらとのマッチアップが予想されるが、1年生の赤穂だけでは荷が重いとチーム全員で守ってくるだろう。そうなったときに今日の同じような判断ができるか。


 



「明日は自分たちのバスケットを展開して、ガンガン攻めて、ガンガンリバウンドを取って、ディフェンスでしっかり守って、オフェンス、ディフェンスともに動き回りたいです。」


 



つねによい目的を失わずに努力を続ける限り、最後には必ず報われる。ドイツの詩人、ゲーテの「ファウスト」にある言葉だ。昨年のウインターカップでは1回戦で敗れ、東北新人で負け、インターハイは県予選で敗退。それでも中村は、いや柴田女子は「ウインターカップで勝つ」という目的を持って、努力を続けてきた。もちろん、どのチームもすべからく努力をしているが、ウインターカップや新人大会で負けたこと、そしてインターハイに出場することすらできなかったことをプラスにした柴田女子の努力は、他校のそれと少し違うのかもしれない。明日の準々決勝もその努力の成果を発揮してもらいたい。


 



柴田女子は中村優花のチームではあるが、中村優花「だけ」のチームではない。



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あきらめない男たちRSS

2012年12月24日 22時40分

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あきらめたら、そこで試合終了だよ――バスケットボールファンならば誰もが知っているだろう漫画『スラムダンク』(井上雄彦・集英社)のキャラクター、安西先生の言葉である。その言葉を地で表したチーム同士の戦いは、残り3秒で決着を見た。茨城・土浦日本大学山形・県立山形南の対戦である。

終始試合を有利に進めていた土浦日本大学だったが、残り8秒で山形南に逆転を許してしまう。[76-77]。土浦日本大学、タイムアウト。そこでの佐藤豊コーチの指示は「思い切ってシュートまで持っていけ!」というもの。動きの指示ではなく、最後は選手の勝ちたい気持ちに託したのである。

決勝のジャンプシュートを決めた#4九々堅伍は言う。
「この1年間、自分がキャプテンをやってきたので、最後は自分が決めてやると思って打ちました。」

そのとき山形南ベンチは九々を中心としたアウトサイド陣の1対1を予測していた。山形南のキャプテン、#4柏倉哲平は言う。

「何がなんでも守りたかったので、みんなで声を出して苦しいシュートを打たせようと話していました。アウトサイド陣が1対1をしてくるだろうと思っていたのですが…最後は詰めが甘かったです。」

どちらか一方が「やられた…終わった」と思ったら、そこで試合は終わっていた。でもあきらめの悪い男たちは最後まであがいた。あがき続けて、1点差のゲームを作り出したのである。

ここに来るまでには伏線もあった。チームの精神的支柱である柏倉は第2ピリオドで4つのファウルを犯して、ベンチに下がっていたのだ。

「後輩が必死でつないでくれていたので、後半は自分が責任を持ってやってやろう、自分でやってやろうという気持ちでベンチから声を出していました。」



その言葉どおり、後半、あと1つファウルを犯したら退場という緊張感の中、我慢に我慢を重ねて、残り8秒の逆転シーンを作り出す。その前に一度同点に追いつくアシストを出したが、受け手がシュートを落として流れを引き渡してしまったが、それでもまだ行ける、逆転できると信じていたという。

「あの場面でシュートが外れても、地道にディフェンスをやり続けて、リバウンドを取って、走るバスケットをすれば自分たちの流れが来ると信じていたので、まだ行けると思っていました。」


あきらめの悪い男である。ただ柏倉と同じくらいあきらめの悪いキャプテンが相手チームにいた。それだけのことである。

あきらめたら、そこで試合は終わる。裏を返せば、あきらめなければ、試合は終わらない。その場の試合は終わっても、あきらめなかった事実がこれからの人生に生きてくるのだ。勝ち負けの差は出たが、土浦日本大学と県立山形南のあきらめない気持ちにはまったく差がなかった。

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