現地レポート

練習の虫が咲かせた一輪の花RSS

2012年01月07日 20時05分

オールジャパン2012女子のファイナリストが決まりました。JXサンフラワーズとデンソー アイリスです。デンソーはオールジャパンとWリーグの2つを通じても初めての決勝進出となります。


「(昨年のWリーグ・セミファイナルで)トヨタに負けたときからトヨタ一本に照準を合わせて、勝つためにやってきたので(勝てて)すごく嬉しいです」


ベテランガードの小畑亜章子選手は喜びをそう表現していました。小畑選手がデンソーに入って12年、チームは当初Wリーグでベスト4に入るほどの力を持っていましたが、その後は低迷し、WIリーグ降格の危機に瀕したこともありました。それが昨年のオールジャパンでは9年ぶりにベスト4進出し、そして今年は念願のファイナル進出を決めたのです。今のデンソーには女子日本代表でもある高田真希選手や大庭久美子選手がいて、その彼女たちがリーグでも通用する力をつけてきたこともありますが、それだけではないと小畑選手は言います。


「今年はどこが相手でも苦手意識を顔に出さず、目の前の試合や練習を徹底して、自分たちは何が弱いのかを考えて、それが習慣になるまでやろうって練習に取り組んできました。私自身、今のチームには、力はあるけど、何事にも徹底できないことが弱点だと思っていたんです。そこは口うるさく、嫌がられても、煙たがられてもずっと言い続けてきました。正直、孤独を感じるときもありましたけど、それこそが長くいる自分の役割だと重々感じていたので、言い続けてきました」


こういったところ、つまりはベテランの長くて、強い思いが若い選手たちにも伝わり、大事な一戦で最後まで――途中に何度もリバウンドを奪われる場面はありましたが、集中力を完全には切らすことなく、勝利に結びつけたのでしょう。


かなり前にデンソーの体育館に行った際、(その日がどういう日だったのかはわかりませんが)小畑選手だけが黙々とシュートを打ち続け、体育館を走り続けていました。若い選手の姿が見えていたにも関わらず、です。そういった冬のような日々を越えて、小畑選手は12年目のオールジャパンで一輪の花を――優勝ではないので「結実」とは言えませんが――咲かせたのではないでしょうか。遅咲きかもしれませんが、立派な大輪です。


「自分は口がうまいわけではないし、得点を取れるわけでもありません。バスケットに対する姿勢を表現することしかできないし、それに私は練習がすべてだって思っているので、そういったこれまでコツコツやっていたことを下の子たちが刺激として受けてくれたのかなと。それをこれからもつなげてくれたらいいなと思います」


小畑選手のような「普段の練習から一生懸命であること」がデンソーの伝統になれば、このチームはもっともっと強くなっていくと思います。


決勝の相手は王者・JXサンフラワーズです。その試合に向けて小畑選手はこんな思いを抱いています。


「正直なところ、トヨタに勝つことしか考えていなかったので、JXのことは正直考えていませんでした。でも(日常でも親交のある)シン(JX・大神雄子選手)とファイナルのコートで戦いたいという夢が達成できました。シンには自分がこれまで勝てなかったときも、這い上がってくるときもずっと声をかけてもらっていたし、そういう面でもいろんな思いがありますけど、シンと戦えることを楽しみにしながら、デンソーの選手たちも力をつけてきているので、みんなを信じて頑張りたいと思います」


1つ年下ですが、尊敬すべきプレイヤーである大神選手とのマッチアップ。ファイナルの舞台で彼女と対戦をするのは神奈川県立富岡高校3年生のときのウインターカップ以来と言います。決勝進出という一輪咲いた花を夢の舞台で満開にさせ、結実させることはできるでしょうか。ファイナルでは小畑選手の一生懸命さにも注目してもらいたいと思います。

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ファイナルの舞台に立つのは――RSS

2012年01月07日 12時37分

元日からは始まったオールジャパン2012も残すところ3日となりました。大会7日目の今日は男女の準決勝が行われます。ここで勝たなければ天皇杯、皇后杯はおろか、それらを下賜されるチャンスさえありません。もっと言えば、その舞台に立つ前の、あのヒリヒリするような緊張感さえ味わえません。今日の準決勝はそういう意味でも白熱したものになるでしょう。ここでは準決勝に臨む男女計8チームのポイントガードに意気込みを伺いました。


今日の第1試合は女子の【JXサンフラワーズ×シャンソン化粧品 シャンソンVマジック】です。


シャンソン化粧品の林眞未選手が


「リーグでは一度も勝てておらず、その悔しい思いをぶつけなければいけないと思っているので、チャレンジャーとして思いきりプレイしたいです。JXの2人のガード(大神雄子選手と吉田亜沙美選手)は、2人とも素晴らしいガードなので、いかに嫌がらせられるか。私なんて目に入っていないと思うんですけど、私もいるんだぞっていう存在感をアピールしたいと思います」


と挑戦の言葉を発すると、大神選手の怪我でここ2試合ポイントガードとしてチームをまとめあげた吉田選手は


「どんな試合であれ波が必ずあると思いますが、ダメな時間帯を少なくできるように、そこで流れを変えられるような指示を出したり、冷静な判断をしたり、そういうガードとしての役割を果たさないといけないと思っています。それは自分がポイントガードとして成長していく上で必ず通過しなければならないところだと思うし、悪い流れのときに自分がどう立て直していくかがこのオールジャパンの目標でもあるので、そこをしっかりやっていきたいです。(林選手とのマッチアップについては)相手が誰であっても、自分のディフェンスができればいいかなと思います。まずは自分のディフェンスを頑張って波に乗っていけるように頑張りたいです」


と準決勝を自分の成長の過程の一つと捉え、それでいて相手には彼女の武器であるディフェンスでしっかり止めると力強く言っていました。


 



続いて第2試合は女子の【デンソー アイリス×トヨタ自動車 アンテロープス】です。


トヨタ自動車の久手堅笑美選手が


「デンソーはガードの小畑(亜章子)さんとセンターの高田(真希)を中心にやってくるので、そういう意味でも私がしっかりしなければいけないというのは一番よくわかっています。まずはマッチアップする小畑さんをどう抑えるかというのもポイントです。得点力がなくてもパスがすごくうまいので、アシストをいかに減らすかも大事だと思います。オフェンスもやっぱり私が得点を取らなければいけないと思います。高田が大きいということで、リョウさん(矢野良子選手)もキラさん(池田麻美選手)も苦しむと思うんです。もちろん2人に関してはキャリアがあるので頼りにはしていますが、アウトサイドから私が得点を取ることがポイントになるだと思います」


と言えば、デンソーの小畑選手は


「昨年Wリーグのセミファイナルでトヨタ自動車に負けたところから、今年はトヨタ自動車に勝つために…優勝というよりもトヨタ自動車に勝つためにチームみんな取り組んできているので、強い気持ちでゲームに臨みたいと思います。しかしリーグ戦でトヨタ自動車に負けているゲームは久手堅に完璧に抑えられているなという感覚はあります。逆にうちが勝ったゲームは強い気持ちで戦っていました。逃げたほうが負けだし、先に体力がなくなったほうが負けだと思っているので、司令塔のどちらが最後までコントロールできるかに勝負がかかっていると思います。ガードのマッチアップが大事になるのは重々わかっています…自分が潰されたら高田のところにボールが回らないし、自分のチームを生かせないので、そこは覚悟してゲームに臨みたいと思います」


と覚悟のほどを述べてくれました。



第3試合は男子の【日立サンロッカーズ×アイシンシーホース】です。


日立の佐藤稔浩選手が


「準決勝とはいえ、いつもどおりにディフェンスから走るバスケットをして、あとはチームみんなで戦うというのが日立の基本なので、それをできればどことでもいい勝負はできると思います。自分たちがやってきたことを出すだけです。(柏木選手とのマッチアップについても)僕の場合はどちらかといえば自分のペースでやりたいと思っているので、相手が誰であれ、自分のやりたいようにできたらなと思っています。あとはディフェンスを前から当たって、ちょっとプレッシャーをかけるだけかなと思っています」


と佐藤選手らしく冷静に、かつマイペースに答えれば、アイシンの柏木選手は


「準決勝もいつもどおりのバスケットができるかがカギだと思います。いつもどおりの精神状態で臨めるかが最後の勝敗を分けると思うので、バスケットよりもメンタルで勝敗を分けるのかなと思っています。ほんと、明日(今日の準決勝)は最後まで我慢ですよね。(佐藤選手とのマッチアップについては)あまり意識していませんが、日立のバスケットはコントロールをするバスケットなので、そこを抑えたいです。最後に集中力を切らして、我慢できなくなったチームが負けると思います。」


と我慢を強調していました。


そして今日の最終戦、第4試合は男子の【トヨタ自動車アルバルク×パナソニックトライアンズ】です。


パナソニックの渡邉裕規選手が


「相手がどこであれ、自分たちのストロングポイントをしっかりと生かしてやっていくのが一番だし、相手に関係なく昨年の借りを返すつもりでみんな頑張っているので、それだけです。(ガードのマッチアップについては)チームが勝てば何でもいいです。自分が得点を取れなくてもいいです」


とチームの勝利だけに気持ちを向ければ、トヨタ自動車の正中岳城選手は


「今日(昨日の準々決勝)のパナソニックはすごくいいパフォーマンスを出していて、怪我人も戻ってきていましたし、ルーキーの金丸(晃輔)も慣れてきた感じがあります。やっぱり怖いチームです。ですが、僕たちはそれを上回っていかないといけない、準決勝を越えていかないといけない。トヨタ自動車は最近ファイナルから遠ざかっているので、だからこそ越えたいという気持ちはみんなにもあります。今日の試合(準々決勝の東芝戦)でも『前の試合でパナソニックがいい試合をしている、自分たちはもっといい試合をしよう』ということで、みんながいい集中力で試合ができたと思うので、明日(今日の準決勝)につながると思います」


と相手の気持ちに負けない気持ちを持ってプレイしたいと言っています。さらに渡邉選手とのマッチアップについては


「同じ青山学院大学出身で、同じようなプレイスタイルでやってきた選手だし、自分と似ているところもあります。シュート力もあるし、プッシュもできるし、いろんなプレイができるガードだと思っていますし、やっぱり一緒にやったこともあるので彼の良さも知っています。準決勝ではガード同士の戦いが勝敗を左右してくるので、自分もいいパフォーマンスをしなければいけないし、単なる後輩という感覚ではなく、フロアでは絶対に負けない気持ちで臨みたいと思います」


それぞれのポイントガードがそれぞれの思いを抱いて、オールジャパン2012のファイナルステージをかけた戦いが始まります。

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目覚める2年目のポイントガードRSS

2012年01月06日 21時51分

2番手、2年目というのは少し地味な印象があります。もちろん勝負の世界では1番のほうがいいわけですし、1年目、つまりルーキーというのは何者でなくても、それだけで注目の的になります。


オールジャパン2012の男子準々決勝、パナソニックトライアンズとリンク栃木ブレックスの一戦は白熱したものになりましたが、最後はパナソニックが【89-83】でリンク栃木を下しました。これで4年連続のベスト4進出です。


この試合で一番躍動していたパナソニックの選手と言えば、3Pシュート8本を含む40得点を挙げたルーキーの金丸晃輔選手でしょう。しかもその8本の3Pシュートが10本打ってのそれですから、まさに神がかり的なシュートでした。彼の場合は「何者でもないルーキー」ではなく、「大物ルーキー」と呼べるでしょう。


しかし金丸選手の陰に隠れて、実はチームで2番目の得点を挙げているのは、2年目のポイントガード・渡邉裕規選手です。3Pシュート4本を含める23得点をあげています。ゲームコントロールをしながら、得点も取りにいく。清水良規ヘッドコーチも


「ポイントガードとして日一日とよくなっているし、ここぞというときのシュート力もあるので、チームのオフェンスがよく回るようになりました。木下(博之)だとどうしてもスローダウンするところもあるけど、渡邉だったら突破力もある。チームに活気を与えてくれるポイントガードだからありがたいですよ」


と称賛しています。渡邉選手は攻撃的な姿勢とゲームコントロールのバランスについて、こう言っています。


「もちろん自分がリズムに乗っているときはどんどん打っていこうと思っていますけど、やはり自分が核となるチームではないので、インサイドの青野(文彦)さんだったり、シューターの晃輔だったりがウチの核だと思うので、ゲームコントロールという意味ではそこを中心に組み立てています」


青山学院大学からパナソニックに入って2年目。昨年はエースガードの木下博之選手をベンチからバックアップしていましたが、今シーズンはその木下選手の怪我もあって、正ポイントガードとしてチームを牽引しています。この1年間の違いについて、渡邉選手はこう話しています。


「一番変わったのは試合に出ていることです。そこでいい経験を積めていると思います。学生じゃないし、来年は出られるだろうという感覚はまったく持っていなくて、シビアにやるように心がけてきました。今年プレイタイムがなかったら、次はどうなるかもわからない、試合に出ることを一番の目標しようと思っていたので、それが達成できていることはいいことだと思っています。オールジャパンはさらに一歩進んで、いかにヘッドコーチの期待にこたえられるかが目標なので、もちろんチームとしての優勝は狙っていますけど、自分自身も成長できるようにつなげていきたいと思っています」


今日の試合ではリンク栃木の田臥勇太選手を前にしても堂々とプレイしていました。今日の勝利も渡邉選手にとっては大きな財産になるでしょう。「(シュートは)乗っていたので放っただけ。それが入ったということです」と言っていますが、その結果、彼を守っていたリンク栃木の選手がヘルプに寄りきれず、金丸選手が必要以上のプレッシャーを受けることなくシュートを打てた場面もありました。そういう意味では渡邉選手の得点が、金丸選手の40得点に大きなアシストとなったといえるでしょう。


準決勝の相手はリーグで1勝3敗と負け越しているトヨタ自動車アルバルクです。 個人的な意気込みを聞くと、

「個人的にはチームが勝てば何でもいいです。得点を取れなくてもいいです」

と答えていました。「リーグの序盤で競り負けたゲームは、すべて自分がコントロールできなかったせい」と振り返る彼にとって、チームの勝利こそがすべてなのでしょう。それでもやはり今日のような攻撃的な姿勢を見せることで、周りも生きてくるはずです。ゲームをコントロールしつつも、果敢にゴールへと向かう渡邉選手に注目したいと思います。

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