現地レポート

執念ある者が世界を目指す!RSS

2013年01月15日 15時00分

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昨日行われた天皇杯・男子決勝戦。雪の影響で試合開始時間が遅れたが、それでも試合が始まれば、外が雪であることなどをすっかり忘れさせる試合内容となった。その瞬間「アリーナスポーツ」の良さを強く感じた人も多いのではないだろうか。


結果は、今シーズン限りでの休部を発表しているパナソニックトライアンズの16年ぶり10回目の優勝。その前日に行われた女子決勝戦では、トヨタ自動車 アンテロープスが創部50年にして初の皇后杯を下賜されている。ともにJBLWJBLでは4位と3位のチーム。首位、あるいは2位ではないチームが男女揃って頂点に立つことは非常に珍しい。珍しいことではあるが、それもノックダウン方式のトーナメント戦の醍醐味といえよう。


大会を振り返ってみても、男子大学2位の青山学院大学がJBL8位のレバンガ北海道を破り、大学勢として6年ぶりにベスト8に入った。女子大学4位の筑波大学は、ベスト8をかけた試合が高校選手権枠の桜花学園高等学校だったとはいえ、昨年の大阪人間科学大学に続いてベスト8に進出。ベスト4をかけたWJBL2位の富士通レッドウェーブ戦では、結果として68-76の8点差で敗れているが、最終ピリオドにリードして入るという大接戦を演じている。これは大健闘といっていいだろう。


大学勢だけではない。パナソニック、トヨタ自動車以外にも、それぞれのリーグで調子が上がらないチーム、例えばJBL6位の三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ、WJBL8位のアイシン・エイ・ダブリュ ウィングスなどが上位のチームを破って、4強、8強入りしている。まさに「強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ」である。


スポーツを含めた勝負の世界は、結果がすべてだと言われる。確かに記録として歴史に残るのは結果である以上、それが全てになってしまうのだが、それらはすべて「過去」である。パナソニックの優勝も、トヨタ自動車の優勝も、2013年1月15日にはすでに過去のものになっている。大切なのはそこから何を学び、未来につなげるために、今をどう生きるのか。


トヨタ自動車との決勝戦に敗れた後、JXサンフラワーズの#1 大神雄子は言っている。


「これまで自分たちが4連覇をしてきた陰には、当然負けたチームがいて、彼女たちはこういう気持ちでいたんだなと改めて実感することができました」。


敗れた人の気持ちを理解することは、次の勝利への一歩である。本田技研工業の創始者、本田宗一郎の言葉にも


「人を動かすことのできる人は、他人の気持ちになれる人である。そのかわり、他人の気持ちになれる人というのは自分が悩む。自分が悩んだことのない人は、まず人を動かすことはできない」


がある。「人を動かす」ことは「勝負に勝つ」ことにも通じるのではないか。そういう意味では負けて学ぶこともある。


それでもやはり今大会は、勝って何かを掴んだチームのほうが多かったように思える。もちろん、最後まで勝ちきったのは2チームだけだが、それまでの過程で勝ったこと、もしくは勝つためにしてきたことが今後の飛躍に大きくつながっていく。


パナソニックの#24 広瀬健太が言っている。


「休部の話を聞いたときは、『何でバスケット部なんだ』という気持ちはありました。でも今の僕たちは、会社に対しての憎しみでプレイをしているわけではありません。ただ『自分たちもやればできるんだよ』っていうところを見せたいと思っていました」。


そこには広瀬の、いやパナソニックの全選手、スタッフの勝利に対する執念すら感じる。


男子・パナソニックと女子・トヨタ自動車の「下剋上」で始まった2013年は、これから各リーグの後半戦を経て、春から世界に向けて飛び出していく年になる。


男子日本代表チームは「東アジア選手権大会」を経てからのことにはなるが、8月1日からフィリピン・マニラで「第27回FIBA ASIAバスケットボール選手権大会」が開催されることが決定した。女子日本代表は10月27日からタイ・バンコクで「第25回FIBA ASIA女子バスケットボール選手権大会」を戦う。どちらも3位までに入れば、2014年に男子はスペインで、女子はトルコで開催される「FIBAワールドカップ」に出場することになる。


男子は2006年の自国開催となって以来の出場を目指し、女子は前回大会に続く2大会連続の出場を目指す。厳しい戦いになるとは思うが、だからこそオールジャパンで多くのチームが見せてくれた「勝利への執念」を思い出してもらいたい。


「執念ある者は可能性から発想する。執念なき者は困難から発想する」。


パナソニックの創始者、松下幸之助の言葉である。



≪参考資料≫
『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』 大山くまお ソフトバンク新書
『賢人たちに学ぶ 自分を磨く言葉』 本田季伸 かんき出版
『賢人たちに学ぶ 道をひらく言葉』 本田季伸 かんき出版
『勇気の言葉 幸福と成功を引き寄せる100の叡智』 浅川智仁 文芸社
『眠れぬ夜のための不安な心をしずめる名言』 真山知幸 PHP研究所
『革命家100の言葉』 山口智司 彩図社
『伊集院静の「贈る言葉」』 伊集院静 集英社

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勝利の女神を振り向かせたリバウンドRSS

2013年01月14日 20時42分

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美術史家のアビ・ヴァールブルグが「神は細部に宿る」と言ったが、その言葉どおり、JBL2位のアイシンシーホースとJBL4位のパナソニックトライアンズの間で行われたオールジャパン男子決勝は、些細なところに明暗を分ける神は棲んでいた。


残り時間1分44秒、アイシンはアウトオブバウンズからのスローインで、ポイントガードの#3 柏木真介が痛恨のキャッチミス。彼の手に触れたボールは、その後コートの外へとこぼれ出ていった。


「言い訳ではなく、本当にあのときは滑ったんです。直前にスクリーンをかけに行ったときに自分の両手に汗がついてしまって、まずいかなとも思ったんだけど、大丈夫だろうと思ってボールを受けに行ったら…」


手をぬぐう時間などなかったかもしれない。だがその些細な判断が、1回分のオフェンス時間を損させてしまった。その時点でビハインドはまだ1点だっただけに、24秒を失ったことは柏木自身としても、チームとしても悔やまれる。


一方のパナソニックは、残り39秒でジャミール・ワトキンスがフリースローを得るが、それを1本しか決めきれなかった。だが落とした2本目をポイントガードの#13 渡邉裕規がリバウンド。それが直接得点に結びついたわけではないが、アイシンとは逆に1回分のオフェンス時間を得している。そのプレイについて、渡邉は言う。


「あれは狙っていました。ウチもアイシンもツーガードで出ていて、(フリースローのあと、アイシンのツーガードのうち)一人はボールを運ぶし、もう一人は走るから、木下(博之)さんに走る選手を守ってもらって、僕は一か八かでしたけど、狙っていこうと。ただリバウンドに飛び込むというより、取れなくてもすぐにディフェンスに戻れるよう、フリースローライン近辺のこぼれ球を奪ってやろうくらいの気持ちでした。そうしたら、ちょうどそこに落ちてきたので…取れてよかったですね」。


さらに渡邉はその約30秒後、残り8秒の場面でもディフェンスリバウンドをチップして、マイボールにしている。それが結果的に柏木のファウルを誘い、そのフリースローを木下が1本決めて、最終スコアとなる。


「その場面は、本当に勝ちたかったので、何かを考えているというよりも本能でした。ただ途中までベンチで試合を見ていたので、コートに入るときは何をすべきか考えてゲームに入らなければいけないなとは思っていました。興奮した試合のなかでも落ち着いたプレイをしなければいけないと思っていたのでよかったです」。


今大会の渡邉は3番手のポイントガードとして試合に出ることが多かった。その理由について、清水 良規ヘッドコーチは「渡邉一人だと彼への負担が大きくなって、どうしてもドリブル、ドリブルとなり、パスの回りが悪くなる。そうなるとチームのオフェンスのリズムが悪くなる」からだと言っていた。その一方で「木下か、平尾(充庸)と一緒に出すと、彼は気持ちよくプレイする」とも。そしてこの重要な場面、ツーガードで渡邉を出していたのは、アイシンが柏木と#0 橋本竜馬のツーガードシステムにしていたからだと明かす。


つまりアイシンがツーガードにしていたことが渡邉の出番を増やし、結果として勝利につながる2つの大きなリバウンドを取ることになるのである。勝負の綾とはそんなものかもしれない。


それでもパナソニックのリバウンダー、#24 広瀬健太がこんなことを言っていた。


「大会を通じて、チーム全体が気持ちを前面に出してプレイしていたので、今日の後半もその気持ちが全員に伝染して、リバウンドなり、ディフェンスなり、気持ちが一番表れるプレイに出ていたんじゃないかなと思います」。


今シーズンでの休部が決まったことにより、チームはどうしても気持ちを出しきれないままリーグ戦を戦っていた。しかし負ければ終わるトーナメント戦のオールジャパンでは、チーム全員が「チームメイトのために勝つ」という気持ちを持って戦っていた。その思いが、それまでベンチで出番を待ち続けていた渡邉の、気迫のリバウンドに乗り移ったともいえる。


「万策尽きたと思うな! 自ら断崖絶壁の縁に立て。そのときはじめて新たなる風は必ず吹く」


パナソニック創始者、松下 幸之助の言葉である。これまで休・廃部を発表したチームがオールジャパンを制した例はない。断崖絶壁の縁に立ったパナソニックに新たな風を吹かせたのは、些細なところまで目を光らせた控えのポイントガードだった。



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ただ実直に…13年目の初優勝!RSS

2013年01月13日 20時04分

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動物学者のジェーン・グドールが言っている――「ひとりひとりが重要であり、それぞれに役割があり、誰しもに現実を変える力がある」。


オールジャパン4連覇中のJXサンフラワーズを破り、初めて皇后杯を下賜されたトヨタ自動車 アンテロープスは、まさにその言葉どおり、一人ひとりがそれぞれの役割をまっとうし、現実を変えた。


後藤 敏博ヘッドコーチに「6番手だがチームのエースだと思っている」と言われた#12矢野 良子に、3Pシュートを7本沈めたルーキーの#24栗原 三佳。コートを縦横無尽に走り回る#2川原 麻耶に、怪我から復帰した司令塔の#25久手堅 笑美。その輝かしい選手たちのなかで地道にチームを支えたのが#15池田 麻美である。大会ベスト5の受賞コメント、「チームの精神的支柱として、インサイドで身体を張る堅実なプレイヤー」はまさに言い得て妙の池田評である。


決勝戦でも最後まで体を張り続けた。リードされたJXが追いつき、逆転するためにはアウトサイドシュートを入れることはもちろんだが、もしそれが外れても192センチの#10渡嘉敷 来夢がオフェンスリバウンドを取って、ねじ込む。そういった思惑を池田はひとつずつ壊していった。


「後藤さんからは再三『渡嘉敷を中に入れるな』と言われていたので、そのことだけを意識していました。これまではどうしてもリバウンドを取られてセカンドシュートを決められていたんですけど、今日は渡嘉敷選手がリバウンドに飛んだとしても、体勢を崩させられればいいなと思っていたんです。そのためには自分が膝を曲げて、あの子の足元に入ろうって考えていました。」


その言葉どおり、結果として5本のオフェンスリバウンドは取られているものの、渡嘉敷がリバウンドに飛び込んだときにあと少しボールに手が届かない、届いても指先に触れるだけで、リバウンドシュートに持ち込むことができない。そんな場面を試合終盤でも作り出していた。


けっして派手な選手ではない。学生時代は「体育が嫌いだった」というアスリートには珍しいタイプでもある。だが地道に、コツコツと努力を重ねる意思の強さはトップアスリートの持っているものと同じか、それ以上のものがある。


これまでできなかった「相手ボールにさせない」ことが、この大一番でできたのは「やはり勝ちたかったからです。そして後藤さんの指示を一生懸命やろうと思っただけですね」。


どこまでも実直な選手である。だがこういった選手がいるチームは大きく崩れることがない。後藤ヘッドコーチが「池田は僕の心のお守りのようなもので、安心できる」と言うのもよくわかる。


埼玉・県立大宮東高校を卒業して13年、ずっとトヨタ自動車一筋である。チーム在籍年数が誰よりも長いベテランは、学生時代にもないという人生初の全国制覇を成し遂げた。


「これまで何度も(バスケットを)辞めようと思いましたが、やっぱりやっていてよかったなという思いです。アシスタントコーチの平田紘美を中心に、Bチームの選手がよくスカウティングをして、私たちのために相手チームをしてくれました。本当にチーム一丸になって取った優勝だと思います。また前任のヘッドコーチの丁(海鎰)さんが辞められて最初のシーズンでしたけど、今までやってきた財産を後藤さんがよく引き継いで私たちを導いてくれたなと感謝の気持ちでいっぱいです。」


優勝に舞い上がることなく、周りへの感謝を忘れないのもまた池田 麻美なのである。



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