現地レポート

言葉がチームを強くするRSS

2013年01月04日 21時49分

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来シーズンから始まるNBLへの参入チームとして注目され、JBL2の1位チームとして初めてオールジャパンに出場した兵庫ストークス。初戦の2回戦こそ関東ブロック代表の曙ブレーキ工業を一蹴したが、3回戦のJBL6位・三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ戦は[62-85]で敗れた。完敗である。試合後にヘッドコーチのBTテーブスはひとしきりゲームを振り返ったあとにこう話す。


「これからJBL2のリーグ戦に戻るけど、優勝を目標にしているなかで今回のオールジャパンを戦えたことは、ものすごく貴重な経験ができたと思います。選手たちもJBLチームとの試合を通して、もっとフィジカル面でタフになっていかなければいけないことを感じられたと思うし、JBL2で10連勝したあとの大会でもあったので、自分たちがまだまだいい選手ではないことに気づけた意味でもいい大会でした。」


自身のコーチングに対しても「いろんな準備をしてこの試合に臨みましたが、まったく機能しなかった部分がほとんどだったので、コーチとしても成長していかなければいけません」と一切の言い訳をしようとしない。まっすぐなカナダ人の指揮官である。


そんな印象を抱いた矢先、質問に対する回答がそれまでの英語から日本語に変わった。「試合中、選手に日本語で話しかけていたようだが、コーチとしてどういうことを心がけているのか?」という質問に対する答えだった。


「もちろん今(囲み取材)のように隣に通訳がいたら一番楽だけど、やっぱりコーチの声はコーチの声です。僕の声が直接選手たちの耳に届いたら、それが一番利くと思う。でもな、タイムアウトのときとか、ときどき自分も緊張してなかなか言葉が出てこないんですよ。それはマイナスですけど、選手とコーチの関係を作るためには日本語を使った方が一番やりやすいです。」


その答えを聞いたとき、1962年に公開された映画「奇跡の人」のセリフ――言葉は、光が目にとって大切な以上に、心にとって大切なもの――を思い出した。テーブスの言葉はそのまま日本人選手に伝わり、それがJBL2首位という成績につながっているのだろう。


外国人が日本語を話すことはけっして珍しいことではない。聞けば20年近くも日本で暮らしていて、妻も日本人というから、話せるのが当然といえば当然のようにも思える。ただテーブスのベンチワークを見ていると、選手のことを思い、チームをより強くするために母国語ではない言葉を努力して話そうとしている姿勢に感銘を受ける。


別れ際、テーブスはボソリとこう言った。


「このチームにポテンシャルはあるけど、今日は痛みしかないよ。」


今日の痛みを明日の喜びに変えるために――テーブスはテーブス自身の声で、言葉で、日本語で選手たちを鍛えていく。


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夢をあきらめないキミへRSS

2013年01月04日 16時11分

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手前みそになるが、当協会では中学生の育成プログラムとして「U-15トップエンデバー」を毎年開催している。その原点をたどっていくと、名目こそ違うものの大神雄子(JXサンフラワーズ)が中学3年生のときが初代となる。そこから約15年が経つわけだが、より多くの方々に知ってもらおうと公式サイトを立ち上げたのが5年前、今20歳の選手が中学3年生のときである。


大学6位・白鴎大学2年の鶴見彩(20)は5年前のU-15女子トップエンデバーの中心にいた。抜群のボールハンドリングと視野の広さを生かした正確なアシスト、得点能力も高く、バスケットに対する姿勢までも指導するコーチングスタッフ陣は認めていた。2年後に行われることが決まっていた「第1回FIBA ASIA U-16女子バスケットボール選手権大会」に「鶴見がいれば、もっといいチームが作れるのでは」と言われていたほどだ。


しかし当の本人は、そういった指導者の思いとは違う感覚を抱いていたと明かす。


「U-15トップエンデバーでは自分ができることではなくて、できないって感じたり、通用しないって思えたことがプラスでした。確かにコーチングスタッフが自分のことを認めてくれているのは感じていましたけど、実際のところ身体能力は1つ年下の子のほうが高かったし、体格も下の子のほうがよかった。注目されるのも自分たちの代というより下の子たちというなかで、最上級生してプレイしなければいけないことにプレッシャーも感じていました。コーチングスタッフが自分を認めてくれるのはバスケットの技術ではなく、人間性を認めてくれているんだろう、そうだとしたら私は下の子たちよりも劣っているんじゃないかって考えたりしていました。」


あれから5年。オールジャパンでの鶴見は、怪我のキャプテン・宮崎優子の代わりにスタメンに抜擢され、WJBL12位の山梨クィーンビーズ、大学2位の早稲田大学を破る一翼を担ってきた。3回戦のトヨタ自動車アンテロープス戦は[55-121]と完敗を喫したが、最後までコートに立ち続け、中学のときと変わらぬ視野の広さを見せていた。


「高校を卒業するとき、できればWリーグに行きたいという思いはあったんですけど、声はかかりませんでした。これはもっと修行をしなければいけないんだろうなと思って、声をかけてくださった白鴎大学に進むことにしました。」


同大学からWリーグに進んだ先輩はいる。今日の対戦相手、トヨタ自動車の藤井美紀もその一人だ。鶴見もまだWリーグ入りをあきらめたわけではない。


「今度こそ声がかかるように、あと2年間、しっかりと修行を積んで頑張ります。」


そう笑顔で話す鶴見に、昨年亡くなったアップル社の創業者であるスティーブ・ジョブスの言葉を贈りたい――点と点のつながりは予測できません。あとで振り返って、点のつながりに気付くのです。今やっていることがどこかにつながると信じてください。


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ただ勝利のために汗をかくRSS

2013年01月04日 01時17分

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勝負の世界に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。敗れたレバンガ北海道の折茂武彦が敗因を「どうみても自滅」と言ったとおり、やはり負けに不思議の負けはない。だが勝った青山学院大学は、不思議な力によって勝ったわけではない。司令塔の#32畠山俊樹は試合後の第一声をこう上げた。


「一人ひとりがやるべきことをちゃんとやっていたし、みんなが相手に向かっていく気持ちが出ていた試合だったので、やっていて本当に気持ちがよかったし、最高のゲームだったと思います。」



その言葉どおり、青山学院大学はエース#56比江島慎が28得点・9リバウンド、11アシストと「トリプルダブル」まであとリバウンド1本という数字を叩きだすと、#8張本天傑も果敢にゴールにアタックし、#25永吉佑也は外国人選手にも真っ向からぶつかっていった。2年生の#7野本健吾も臆することなくプレイし、ベンチスタートの#15山崎将也も3Pシュート2本を含む18得点を挙げている。そうして念願だったJBLチームの撃破を達成したわけである。


だがこの試合最大の功労者は畠山ではなかっただろうか。両チーム最小、171センチのポイントガードは、オフェンスでは比江島や張本がプレイしやすいようなスペースを作り出し、ディフェンスではコートを縦横無尽に駆け回った。レバンガ北海道がアウトサイドでボールを回せば、その行方を予測しながらパスコースを狭めていき、インサイドに放り込めば自分よりも30センチ以上高い外国人の足元に入ってボールをスナップする。その運動量は尋常でなかった。


「運動量を多くしないと(背の低い)自分は通用しないので、とにかく運動量を多くして、ディフェンス、リバウンド、ルーズボール、そして走るプレイをしていきました。でもそれはこれまでもずっとやってきたことなので、特別これまでと変わらなかったです。」


背の小さい選手が生きる道はそれしかないといわんばかりだ。それでも体力的に苦しいだろうと思って話を向けると――事実、その前にインタビューを受けていたエースの比江島は「疲れた」と言っていた――畠山はこともなげに笑顔で答える。


「いや、高校時代に鍛えられたので苦しくはなかったです。」


彼の言う高校とは3年前のウインターカップで初優勝を果たした宮城・明成高校である。当時もとにかく運動量が多く、コートを走り回っていた。決勝戦では終盤に佐藤久夫コーチが合図を出すとともに全員がギアをトップに入れ換え、一気に優勝をさらっていったのである。大学に入ってからもトレーニングを積んでいるが、そのときの財産――体力だけではなく、緊迫した中で戦い抜く気力を含めた財産が、いまなお残っているというのだ。



インカレでは決勝戦で東海大学に敗れ、大会3連覇はならなかったが、それでも大学バスケット界を引っ張ってきたのは紛れもなく青山学院大学である。


「今までは他の大学が青学に勝とうと思って向かってきていて、それに対して自分たちはどうすれば今日のような試合ができるのか、よくわかっていませんでした。でもJBLのチームと対戦することでチャレンジャー精神というものをみんながわかったように思います。だから試合が終わったあとに、みんなが『プレイをしていて気持ちがよかった』って言っていたのだと思うし、これからもそういう試合がずっとできればいいなと思っています。」


大学で追われる立場から、JBLを追う立場になったことも今回の勝因だと言えよう。次の対戦相手は青山学院大学の卒業生が4人いる昨年の覇者・トヨタ自動車アルバルクである。


「トヨタはレバンガよりも強いし、ハードにやってくるチーム。フィジカルで負けないようにしていきたいし、技術よりも気持ちで戦っていきたいです。」


マクドナルドの創業者であるレイ・クロックがこんな言葉を残している。「幸運は汗への配当である。汗をかけばかくほど、幸運を手にすることができる」。畠山にとっての「幸運」とはすなわち「勝利」である。畠山俊樹はトヨタ自動車戦でもコート中を駆けまわり、勝利のために汗をかく――。



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