現地レポート

1本のルーズボールが扉を開くRSS

2011年12月28日 20時36分

「ルーズボールで負けたら尽誠(学園の)バスケットは何も残らない。仮に試合で負けることがあっても、ルーズボールだけは勝ったという試合にしてほしい」


 香川・尽誠学園の色摩拓也コーチが常々言っている言葉です。それが実った「JX-ENEOSウインターカップ2011」の男子準決勝でした。最大18点リードを奪われていた香川・尽誠学園が、静岡・沼津中央を逆転で破り、初めて決勝戦に駒を進めました。


 尽誠学園高が1つひとつ追い上げながら、沼津中央も引かずに点数を入れ返して、点差を離していく。このまま試合終了のブザーを聞くことになるのか――そんな空気も漂う中で、流れを大きく変えたのは岡本直也選手の1本のルーズボールでした。


 第4ピリオド残り4分27秒のところで、岡本選手は沼津中央のポイントガード・川口颯選手からボールを奪いました。奪ったのはいいのですが、ボールは勢いよく尽誠学園のベンチに向かって飛び出していく。そのボールを岡本選手は必死に追いかけ、ベンチに向かって飛び込みながら、ボールをコートに投げ入れたのです。そのボールをフォローに走っていた笠井康平選手がキャッチして、そのままシュート。これで、残り4分24秒に3点差まで縮まると、これで流れは完全に尽誠学園に傾き、その流れを最後まで渡さずに逆転勝利へと至りました。


 カットしたボールを自ら追いかけた岡本選手はこう言っています。

 「自分たちの強みの1つがルーズボールなので、必ずボールをコートの中に入れて、仲間が必ずフォローに来てくれると思ったので、思いきり飛び込みました」


 その岡本選手からボールを受け、シュートを決めた笠井選手はこう言っています。


 「岡本がボールをカットした瞬間、(追いつくのは)キツイかなと思ったんですけど、『ここで自分がフォローにいったら得点が取れていたのに…それが原因で負けたらどうするんだ』っていうことが一瞬頭に浮かんで、岡本のために追いかけました。最後は(渡邊)雄太にパスをしようとしたんですけど、ディフェンスが下がったので『パスしたらヤバイ』と思って、シュートを打ちました」


 さらに笠井選手はこう続けます。

 「あそこで雄太も逆サイドを走っていたので…あの場面、ボクだけが走っていたら、戻っていたディフェンスは石川(知樹)くんだったので、シュートをしてもブロックされていたかもしれないし、ボクも判断ミスをしていたかもしれないですけど、ボールを追いかけてくれた岡本と、逆サイドを走っていた雄太のおかげで自分が決めることができたんじゃないかと思います」


 ボールをカットし、そのルーズボールを追いかけた岡本選手と、そのボールを受けてシュートを決めた笠井選手。その2人以外にもう1人、逆サイドを走っていた渡邊選手がいたからこそ生まれたプレイなのです。その渡邊選手はそのときの気持ちをこう言います。

 「ボクにパスが来なくても、ボクが走ることによってディフェンスがついてくると思うので、一生懸命走って、あとは康平さんがきちんと決めてくれたので、すごくよかったです」


 一生懸命走ったのにパスが来なければ、「自分の走りは無駄だったのではないのか」と思うかもしれません。しかし一見無駄なプレイの裏側にはナイスプレイが隠されているのです。そのことを渡邊選手、いや尽誠学園の選手はよくわかっているのでしょう。色摩コーチはあのプレイについて


 「あれで(流れが)来ると思いました。ボク自身、結構ドキドキしていたんですけど、選手には『オレはまだ焦ってないやろ。バタバタしてないやろ』ってアピールしていたんです。でもあの瞬間ははしゃいでしまいました。それくらいのビッグプレイでした。(岡本選手の)ルーズボールだけではなく、ちゃんと笠井が走って、渡邊たちがフォローアップに走っていたので、そこでミスは出ないと思っていました」

 と自信を持って、言っています。日ごろの練習から、1本のルーズボールをさぼった選手はすぐに練習から外すくらい、ルーズボールは尽誠学園のバスケットに欠かせない柱なのだそうです。


 練習の「たかが1本」のルーズボールは、試合においては「されど1本」のルーズボールとなり、ひいては勝敗を大きく分ける要因になります。尽誠学園はまさにルーズボールで決勝への扉を開いたわけです。


 明日は国体で敗れた宮崎・延岡学園との決勝戦。たった1本のルーズボールにも魂をかける尽誠学園のバスケットを見せてもらいたい。そして観客のみなさんにも、テレビで視聴される方々にも、たった1本ほどのルーズボールも見逃さずに、ご覧いただきたいと思います。
ついに明日、「JX-ENEOSウインターカップ2011」の王者が決まります。


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